コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 225

地震で道内全域停電

2018年09月08日 07時00分

 6日未明に北海道地震が発生してから、昔からよく聞くこの言葉の意味を思い知らされている。「本当に大切なことは、失って初めてその価値に気づく」。ほかでもない電気のことである

 ▼当たり前にあったものが、文字通り一瞬にして消えてしまった。ほとんどのお宅が同じ状況だったろう。午前3時8分ごろ、激しい揺れにたたき起こされ真っ暗闇の中に放り出された。夜明けまでの2時間のなんと長かったこと。道内全域が停電するなど前代未聞である。一つの町内が停電するのとは訳が違う。常温保存できない生鮮品は供給元から家庭まで全て駄目になり食事もままならない。公共交通が止まり信号機も点灯しないため都市機能はまひ。大きな島が丸ごと孤立してしまったようなものだ

 ▼最も困ったのは情報収集である。テレビがつかないのは仕方ないが、頼りにしているスマホのバッテリーはどんどん減っていくのに充電するすべがない。高齢者は特に、ただ余震におびえているしかなかったのでないか。厳冬期でなかったのが唯一の幸運だろう。暖房を失い身動きもとれなければ大惨事になってもおかしくなかった。それにしても一発電所の停止がなぜこんな致命的事態に発展したのか。本道の電力事情がこれほどもろいものだったとは

 ▼つぶさに検証し、泊原発含めシステムを根本から見直す必要があろう。事は命にかかわる。どうやらわれわれは電気のある生活のありがたみを忘れ、無関心になりすぎていたようだ。後から大切さに気付くより、失う前にいろいろと手を尽くしておくべきだった。


関空機能停止

2018年09月06日 07時00分

 日本は国土の7割以上が山地のため、地震や大雨といった災害で山間の集落などが孤立しやすい。外と結ぶ道路が一本しかない場合が多いからである。肝心の道路が寸断されると人の行き来はおろか、情報さえ満足には伝わらない。ことしも災害が発生するたび、そんな事態が起きている

 ▼歓迎すべきことではないが、よくある出来事という感覚だろう。ただ、今回のこの孤立には、驚いた人も少なくないのでないか。大阪府の関西国際空港(関空)のことである。台風21号の強風によって流されたタンカーが空港連絡橋を破壊し、命綱の交通路を失った。高潮の影響で滑走路と施設の一部も水に漬かり、一時は利用客や職員ら合わせて約5000人が空港内に閉じ込められたという

 ▼空港と対岸とを結ぶ全長3750mの連絡橋は航路部分で25mの高さがあり、通常は大型船も楽に通行できる。まさかタンカーが風に流され、よりによって空港にほど近い橋桁の部分にぶつかるなど誰も想像しなかったに違いない。事故が起きた4日はくしくも関空開業25年の節目の日だった。近年は訪日観光客やアジア地域との商取引需用をうまくつかまえ、利用客の伸びに弾みがついていただけに、この空港閉鎖が経済に暗雲をもたらすのは間違いない

 ▼とはいえ海上に人工島を造成して建設した世界初の空港として全米土木学会の「20世紀を代表する10大事業」に選ばれた関空である。英知を結集して早期復旧を果たし今度はその技術力で世界を驚かせてほしい。それが海上に孤立する空港への信頼を取り戻す近道だろう。


台風21号

2018年09月05日 07時00分

 その事実に伝えるべきニュース価値はあるのか、ないのか。新聞やテレビといった報道の現場では、新人記者にニュース価値の捉え方を教えるときこんな例えがしばしば使われる。「犬が人にかみついてもニュースにはならないが、人が犬にかみつけばそれはニュースになる」

 ▼もっともあくまで考え方の基本であって金科玉条ではない。野犬の少ない今は犬が人にかみついてもニュースになろう。価値も世につれだ。その意味ではことしがいかに異常かを物語るものだろう。天気予報以外で気象状況が連日これだけニュースに取り上げられる年もなかったのではないか。過去経験したことのない豪雨が相次いで列島を襲い、各地で観測開始以来最高を記録する気温が続出。台風は途切れることなく生まれ、強風や雷、高潮が多くの人々を悩ませる

 ▼「晴れ後曇り、所によっては雨」くらいでは話題にもならないが、大荒れの気象が群れを成して次々と日本にかみついてくるのではニュースにしないわけにいかない。その上この台風21号である。非常に強い勢力を保ったまま、きのう四国地方に上陸した。西日本を中心に猛烈な風が吹き荒れ、建物の損壊やトラックの横転など被害が多発したという

 ▼きょう午前には、暴風域を伴い本道に最接近するため札幌管区気象台でも厳重な警戒を呼び掛けている。河川の氾濫や土砂災害は雨が上がってからも起こることがあるため油断は禁物。常識が通用しない昨今の気象である。ここは命を守る行動に徹するべきだろう。悲しいニュースをこれ以上増やしてはいけない。


職人技をAIに

2018年09月04日 07時00分

 主に二輪車と四輪車の部品を研究開発、販売しているヨシムラジャパンの創業者吉村秀雄氏は、その人並み外れたマシンチューニング技術の高さから「ゴッドハンド」を持つといわれていた

 ▼微妙な音や挙動の変化、それぞれの部品に触れた感覚などでマシンの状態を正確につかみ、常に最適な調整を施すことができたという。中でも国内最大級の二輪競技、鈴鹿8時間耐久ロードレースでは多くの伝説を残している。斬新な発想と工夫で、馬力を向上させる集合管マフラーを生み出したのも吉村氏だった。日本が誇る名職人の一人だろう。『徒然草』の一節にこうある。「万に、その道を知れる者は、やんごとなきものなり」。道を究めた人は尊い。わが国は昔から職人を敬ってきた

 ▼総務省が来年度からそうした職人の技をAI(人工知能)で継承していく取り組みを始めるそうだ。高齢化社会で卓越した技を持つ職人が、後継者にその技を伝承できないまま消えていく現状を打開するための苦肉の策だという。職人の技をAIでどうにかできるのか。疑問も感じるがこんな手法で進めるらしい。職人の体に機器を取り付けたり動作を映像で記録したりして作業工程をつぶさに把握。データ化して再現可能なように教材として仕立て直す

 ▼五感全てを使う吉村氏のような職人技をいかに体系化するかが課題となろう。『徒然草』からもう一節。「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」。ごく簡単なことでさえ、分かる人がいないと万事休すである。AIの先達でもいないよりはましなのかもしれない。


トリチウム処理水

2018年09月03日 07時00分

 あまたある果物の中で何が好きかと問われて、バナナと答える人は少なくないだろう。俳人高浜虚子もそうだったようで、「川を見るバナナの皮は手より落ち」の句を残している。たゆたう川の流れとおいしいバナナとで、つい無心になってしまったらしい

 ▼健康のためにと毎日1本食べることを欠かさない人もいると聞く。カロリーはさほど高くないのに、栄養が豊富なためだという。なかなか優秀な食べ物である。ところでこのバナナに放射性物質が含まれていると知ると驚く人もいるのでないか。バナナに多く含まれ人体では血圧調整の働きをするカリウムに、微量の放射性物質カリウム40が混ざっているためである。バナナには両者を区別して取り入れる能力がない

 ▼実は植物は皆同じ。つまりカリウムを含む植物には一定量のカリウム40が混ざっているわけ。このため成人男性であれば常に約4000ベクレルの放射性物質を体内に抱えて暮らしている。とはいえこれくらい軽微なら全く心配はいらない。それを思い出したのは先週、経済産業省が福島第1原発のトリチウム処理水について初の公聴会を開いたからである。風評被害に苦しんできた漁業者から海洋放出に反対する意見が多く出たそうだ

 ▼心情は分かるが実際には処理水を1㍑当たり6万ベクレル未満に希釈して放出するため海に出た時点で濃度は1桁台に下がる。人体と比べても値の低さは明らか。それにトリチウムはもともと自然界に遍在する物質である。環境への悪影響はバナナ同様まずない。尊重すべきはその科学的事実だろう。


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