われわれホモ・サピエンスの起源は数十万年前のアフリカにあるとされる。片田舎に住んでいた人類が長い歴史を経て今や世界中に散らばっているわけだ
▼故郷アフリカを離れる理由はいろいろあったらしい。気候変動、食糧不足、縄張り争い、生存競争―。そんなやむにやまれぬ事情がほとんどだったとは思うが、中には人類特有の動機もあったのではないか。未知の事柄に触れてみたいというあくなき欲求である。この海の向こうにはどんな世界が広がっているのか、あの山を越えて行けばここにはない幸を見つけられるのでは…。知的好奇心はいつの時代も人類を突き動かす原動力となってきた
▼こちらも同じだろう。月の探査である。ウサギの他にも素敵なものが存在するに違いない、と人類は昔から想像してきた。どうやら本当にあったようだ。米航空宇宙局(NASA)が21日、月の地表に氷があることを初確認したと発表したのである。これまでも可能性は指摘されていたが証明はされていなかった。インドの月探査機「チャンドラヤーン1号」で観測した月表面のデータを分析して分かったという。氷があれば現地で飲料水や水素燃料を作ることができ、月への進出にも一気に弾みがつく
▼この一報を聞き、昔読んだ米SF作家ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』(早川書房)を思い出した。月植民地の人々が地球からの独立を目指し反乱を起こす物語である。知的好奇心もそうだが縄張り争いも人類の特徴の一つ。月に行ってまでそんな愚行を繰り返さねばいいのだが。気が早すぎるか。