コラム「透視図」

株価急落

2016年02月11日 09時00分

 ▼だいぶ以前のことになるが、バンジージャンプを体験したことがある。比較的低い所からのものだったが、気分爽快だったのは飛び降りた最初だけ。大きく上下に揺られているうちに、だんだん気持ちが悪くなってきた。情けない話である。新年早々からバンジージャンプ並みに乱高下していた日経平均株価が10日、とうとう終値で1万6000円を割り込んだ。こちらも気持ち悪くなった人は多いだろう。

 ▼米国、欧州、上海の株式市場も軒並み値を下げる世界同時株安になっているから、下落は日本の国内事情だけが原因でなさそうだ。グローバル経済の世の中である。中国がせきをすれば産油国はじめ多くの国が風邪をひくということか。株価対策というよりインフレ目標達成のためのワクチンだったのだが、日本銀行のマイナス金利策も混乱に拍車を掛けた。「異次元」の金融緩和というくらいだから、一般投資家が理解できないのも当然だが、日銀にとっては思わぬ誤算だったろう。

 ▼9日には日本で初めて、長期金利の指標となる新規発行10年物国債の利回りが一時、マイナスに転じた。民間金融機関が国債を買い進めたためらしい。金利がほぼないのに大量買いとはこれいかに、と疑問に思っていたら、その心は日銀が高値で買い取ってくれるから、なのだとか。何のことはない資金を銀行間でぐるぐる回しているだけのこと。道理で庶民に届かないはずだ。バンジーも株価も揺れているうちはいいが、転落してしまったら大惨事である。さて、政府の次の一手は。


豊浜トンネル

2016年02月10日 08時51分

 ▼詩人中原中也は29歳のとき、まだ幼かった子どもを亡くしている。大変な愛情を注いでいたようで、悲しみは相当に深かったらしい。詩集『在りし日の歌』はその子、文也にささげたものだ。収められた1編の詩「また来ん春…」はこう始まる。「また来ん春と人は云ふ/しかし私は辛いのだ/春が来たつて何になろ/あの子が返って来るぢやない」。暖かな春も、中也の心を浮き立たせてはくれなかった。

 ▼中也に限らず愛する人を突然失うことは、生きながら身を焼かれるようなものではないか。事件や事故の遺族らを見ているとそう思う。岩盤が崩落してトンネルを突き破り、路線バスと乗用車の20人が犠牲になった古平町の豊浜トンネル事故から、きょう10日で20年である。不幸にも朝の通勤通学時間と重なっていたため、子どもたちも多く命を落とした。20年は短い年月でないが、残された家族にとっては時間など無意味だろう。7日には遺族らが慰霊碑の前で法要を営んだそうだ。

 ▼この悲惨な事故はトンネル防災や岩盤崩落対策の転換点になった。全国で緊急点検、崩落対策がなされ、予測技術の開発も進んだ。道路は無事に通れて当たり前とされるが、それを実現するのは容易でない。起こらなかったことは評価されることもないが、豊浜後に注力した防災対策で事故が防がれ、救われた命もあっただろう。「あの子が返って来る」ことはないが、これ以上悲しむ人は増やさない、道路事業に携わる者たちにとっては、そう肝に銘じ続けた20年だったに違いない。


理由は

2016年02月09日 08時46分

 ▼子どもには大人が眉をひそめたくなるような癖が多い。鼻をほじる、汚れた手をズボンで拭く、爪をかむといったことだ。ヨシタケシンスケさんは絵本『りゆうがあります』(PHP研究所)で子どもの言い分を愉快に描いている。鼻をほじる理由はこう。「ぼくのハナのおくにはスイッチがついていて」、押すと頭から「ウキウキビームがでるんだ」。それでみんなを、楽しい気持ちにさせるのだという。

 ▼道に落ちている物を拾って帰るのは、「こわれたうちゅうせんのしゅうりにつかえそうなぶひんを、さがすおてつだいをしているから」という立派な使命があるのだとか。本当にこんな答えが返ってきたら親としては苦笑いするしかなさそうだ。子どもは実際、現実離れした発想で驚かせてくれるから面白い。さてこちらは笑っていられないがどんな理由があったのか。北朝鮮が7日、人工衛星と称して事実上の長距離弾道ミサイルを発射したのだ。先日の水爆実験といい暴走が続く。

 ▼国連安保理を中心に自制を促していたが不発に終わった。金正恩政権は国際社会の非難など全く意に介していないようだ。一連の行動の理由はいつもの脅しだろう。わがままな子どもと同じである。北朝鮮国営放送はミサイル発射を満面の笑みで眺める正恩氏の姿も伝えたという。どうやらこの人の場合、国際社会を挑発するボタンを押す度に「ウキウキビーム」が出るらしい。悪いことにこちらのビームは絵本と違い、楽しい気持ちになるのは本人だけ。民衆は苦しむばかりである。


化け物

2016年02月06日 08時50分

 ▼落語にはあきれるくらいけちで頑固なご隠居さんがよく登場する。「化けものつかい」もそんな噺の一つだが、このご隠居さんは人使いも荒い。あるとき安い物件を手に入れ、喜んで引っ越したがそこは化け物屋敷。ところが怖がるどころか、出てきたからには井戸から水くめ、掃除しろ、布団敷けと、とことんこき使う。ついには化け物が音を上げ、ご隠居さんに泣きながらいとま乞いをするオチがつく。

 ▼落語だから笑えるがこんなご隠居さんが本当に居たらたまったものでない。事実は小説より奇なりで、そんなご隠居さんも真っ青の悪質な人物が現実に居ることを最近知った。社会保険労務士の男性がブログ(Web日記)に「モンスター社員解雇のノウハウをご紹介」と題し、「社員をうつ病に罹患させる方法」を掲載していたのだという。「合法パワハラ」で精神的に追い込む策を列挙し、自殺したときのため、因果関係を否定する証拠を作っておくことまで指南していたという。

 ▼社労士は人事や労務管理の専門家として経営側に立つことが多い。問題社員を抱えた企業の悩みに応えようとしたのかもしれないが、浅慮にも程がある。企業が誠実に社員と向き合い、問題を解決できるよう適切な助言をするのが本来の役割だろう。一方的に「モンスター」のレッテルを張られた社員がこの方法で追い込まれ、自殺でもしたらどうするつもりだったのか。厚生労働省は4日、この男性に業務停止3カ月の方針を伝えたという。社労士の化け物にはお引き取り願いたい。


統計的には

2016年02月05日 10時09分

 ▼先日、札幌市内で同市主催のヒグマフォーラムがあり、知識を仕入れておこうと足を運んでみた。「市街地侵入抑制策と共存に向けて」がテーマである。そこで興味深い話を聞いた。2011年は突出して出没数の多い年だったが、実は1頭のメスが広範囲に行動していただけだったという。その後のDNA解析で分かったそうだ。当時は生息数が増えて危険だと大騒ぎにもなったが真相は違ったのである。

 ▼別の地点で目撃されたら、普通は同じクマと考えないだろう。人の目でクマの花子さんと太郎さんを見分けるのは難しい。ところが数だけは積み上がるため誤解が生まれる。統計的にはこれを因果推論の誤りというらしい。西内啓氏は『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)で面白い例を示している。次の食べ物を禁止すべきかどうか。「心筋梗塞で死亡した日本人の95%以上が生前ずっとこの食べ物を食べていた」。答えは「ごはん」だ。もちろん病気の主原因ではない。

 ▼西内氏は「十分なデータ」を基に「適切な比較」をすることが正しい答えを導くと説く。さてこちらの因果推論はどうだったか。民主党などが甘利明氏の疑惑を盾に国会審議を人質に取ろうとした件である。結果、自民党の支持率が上がり作戦は腰砕け。世論は野党が思い描いた形にはならなかった。自分たちが有権者にどう評価、比較されているかが分析から漏れていたのだろう。民主主義には政府与党に対する健全な批判勢力が欠かせないというのに、現状は何ともお寒い限りだ。


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