コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 230

脅しと隠蔽

2018年08月01日 07時00分

 新潟県関川村には大蛇退治のいきさつを物語る「大里峠」という伝説があるそうだ。こんな話である。一人の琵琶法師が村近くの山中で大蛇に出くわし、ぜひ一曲聴かせてくれと請われたため弾いてやった

 ▼大蛇は琵琶のお礼として、その辺り一帯を水に沈め自分のすみかにするつもりだからすぐ逃げろと教える。ただしこう警告することは忘れなかった。「このことは誰にも言うなよ。話したらお前の命はないぞ」。良からぬ行いが露見しないよう悪者が目撃者らを脅すときの決まり文句である。手あかにまみれたせりふだから今どき二流の小説やドラマにも採用されないが、まさかこんなところで使われていたとは

 ▼日大アメリカンフットボール部の危険タックル問題が騒ぎになった後、部OBの井ノ口忠男同大理事がタックルした選手と父親に言ったという。「(内田正人前監督らの関与をなかったことにしてくれれば)一生面倒を見る。ただ、そうでなかったときには、日大が総力を挙げて、潰しにいく」。反則行為に関する第三者委員会が30日発表した「最終報告書」で明らかになった。前監督の指示否定に始まり、実行選手への罪なすり付け、卑劣な隠蔽(いんぺい)工作、日大当局の責任放棄。報告を読むと底知れぬ暗い穴をのぞき込んでいるような気分にさせられる

 ▼先の言い伝えでは、法師に弱点が鉄だと聞かされた村人が周りにくぎを打ち込み大蛇を倒す。その後大蛇は富を生む鉱物になったという。さて、信用の失墜という鉄で周りを囲まれた日大は、生まれ変わることができるだろうか。


逆再生の台風12号

2018年07月31日 07時00分

 まだコンピューター・グラフィックのない時代、映画に現実離れした特殊効果を入れたいときには逆再生や遠近法、コマ落としといった技法が使われたそうだ

 ▼逆再生のトリックでよく知られているのはチャップリンの『給料日』である。ファンはきっとご存じだろう。れんが職人役のチャップリンがビル工事現場の上にいて、下から不規則に投げ上げられるれんがを神業のような鮮やかさで受け取っていくのである。実際はさまざまな体勢でれんがを投げ落とす場面を撮り、後から逆につなげているわけ。そんなこととはつゆ知らぬ観客は映画館でチャップリンを見て、その優れた運動神経に歓声を上げたのである

 ▼天が何らかの演出効果を狙ったはずもないが、逆再生と見まごうこちらの動きにも大層驚かされた。東海地方に28日上陸し、そのまま通常ルートとは真逆の東から西へと日本列島を横断している台風12号のことである。西へ進む台風は気象庁が統計を取り始めた1951年以来初めての事例という。猛暑を伴うチベット、太平洋両高気圧に東進をはばまれ、西進する寒冷渦に引っ張られたらしい。進路をねじ曲げられたからか破壊力はすさまじく、豪雨に烈風、高潮と各地で被害が続出。西日本豪雨の被災地には度重なる災難である

 ▼進路が逆だと地形の影響も変わるため、何が起こるか予測が難しいのだとか。きょうは屋久島付近でほぼ停滞するとの予報だが、その先がまた読めない。まさか反転などしないだろうが、ことしの夏は気象で特殊効果ばかり見せつけられているから油断ならない。


ジャイアン

2018年07月30日 07時00分

 藤子・F・不二雄さんの名作漫画『ドラえもん』の主要登場人物の一人に「ジャイアン」がいる。性格は傍若無人で乱暴。大柄な体と腕っ節の強さで何かというと威圧してくるから「のび太」はいつも悩まされっ放しだ

 ▼よくあるこんな場面。のび太が友達から本やゲームを借りようとすると、横からジャイアンが出てきて横取りする。怒って抗議するのび太だが、ジャイアンのきつい脅しに結局は黙り込むしかない。「俺の物は俺の物。おまえの物も俺の物」が信条というのだから始末が悪い。そしてのび太に向かって最後に言い放つ極め付きのせりふがこれである。「俺たち友達だろ」

 ▼風貌も似ているせいか、このジャイアンと米国のトランプ大統領が重なって見えて仕方がない。さすがに「おまえの物」まで取り上げることはないが、最近、「米国の物は米国だけの物」と保護貿易主義の動きを一層加速させている。輸入品に高関税をかけると他国を脅し、米国偏重の状況をつくり出そうとしているようだ。古くからの友人である日本や欧州もこれには手を焼くばかり。22日の主要20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議(G20)で貿易摩擦激化の懸念を共有したものの、米国はそれもどこ吹く風

 ▼先週、やっとトランプ大統領とユンカーEU欧州委員長の会談が実現し、新たな貿易協議を進めることで合意したが、さてどうなることやら。外交ではとかく尻すぼみの多いトランプ氏である。ここらでまた氏にとっては「出木杉」君の安倍首相に登場願い、懇々と理を説いてもらった方がいいかもしれぬ。


生産性?

2018年07月27日 07時00分

 わが国の経済問題の一つに、労働生産性の低さがあることはよく知られた事実だろう。日本生産性本部の2017年版「労働生産性の国際比較」を見ても、日本の一人当たり労働生産性は8万1777ドルでOECD加盟35カ国中21位と下位に属する

 ▼GDPこそ世界3位だが、多くの人手と長い時間をかけてそれを達成しているため効率が悪いというわけだ。高度成長期以来のいわゆる人海戦術がいまだ続いている。書店でビジネス書を眺めても、「生産性を上げるには」「なぜあの会社は生産性が高いのか」といったノウハウ本が目立つ。少し前に一世を風靡(ふうび)した「おもてなし」本は今どこへである

 ▼そんな生産性一辺倒の風潮のせいだろうか。LGBT(性的少数者)の人を、子どもをつくらないからとの理由で「生産性がない」と主張する国会議員まで現れた。自民党の杉田水脈氏のことである。『新潮45』(新潮社)8月号に、LGBTへの行政支援は度が過ぎるとの趣旨の一文を寄せたのだ。税金の使途は緊急性を勘案して公平に決めるべきとの氏の意見は分からぬでもない。ただ、そこでLGBTを持ち出し、生産性という無機質な数量概念に閉じ込めてはいけなかった。本来は一定条件下で使う経済用語を、そのまま人間に当てはめる愚を犯したのだろう

 ▼とはいえ生産性向上に追われる現代の職業人は、これに限らず費用対効果、効率化といった経済用語を何でも切れる伝家の宝刀と勘違いし、家庭や学校、人間関係などで安易に振り回しがちである。「もって他山の石とせよ」か。


ダム決壊

2018年07月26日 07時00分

 誰しもよく経験することだと思うのだが、どんな物や事にも表裏二つの側面がある。ダムも例外ではないということだろう。「ダムの壁洗う緑雨や狐鳴く」佐藤日和太。そんな穏やかな平時の趣と、不幸にも洪水の原因となってしまった災害時の姿と

 ▼ラオスで23日、建設中のダムが決壊し下流に位置する6カ村が濁流にのまれたそうだ。少なくとも数百人が行方不明となり、6600人以上が住む家を失ったという。英国BBCのWeb版によると、決壊したのはメコン川支流で建設が進む、来年稼働予定だった水力発電所の副ダム。相次ぐ豪雨で大量の水が流れ込み、生じた亀裂から崩壊したらしい。50億m³の水がいちどきに流出したとの報道もあった。黒部ダムの総貯水量が約2億m³だから、その25倍もの水が突然村々を襲ったことになる

 ▼事実とすれば現地は惨状を呈していよう。厚い支援の手が差し伸べられるといいのだが。それにしてもひとたびダムが決壊したときの恐ろしさがこれほどとは。人ごとと思えないのは日本も先の西日本豪雨でダムに絡む災害があったからだろう。愛媛県の野村、鹿野川両ダムのことである。異常洪水時防災操作の緊急放流で肱川が氾濫し9人が死亡、3000棟を超える住居が浸水した

 ▼残酷な事実である。ただ、適切に放流されずダムが壊れていればどうなったか。被害は拡大していたろう。ラオスも愛媛も住民への周知と避難には問題があったようだ。ダムを悪者にするのでなく、人が知恵を絞り、生活を支えるダムの優れた面をしっかり引き出さねば。


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