新潟県関川村には大蛇退治のいきさつを物語る「大里峠」という伝説があるそうだ。こんな話である。一人の琵琶法師が村近くの山中で大蛇に出くわし、ぜひ一曲聴かせてくれと請われたため弾いてやった
▼大蛇は琵琶のお礼として、その辺り一帯を水に沈め自分のすみかにするつもりだからすぐ逃げろと教える。ただしこう警告することは忘れなかった。「このことは誰にも言うなよ。話したらお前の命はないぞ」。良からぬ行いが露見しないよう悪者が目撃者らを脅すときの決まり文句である。手あかにまみれたせりふだから今どき二流の小説やドラマにも採用されないが、まさかこんなところで使われていたとは
▼日大アメリカンフットボール部の危険タックル問題が騒ぎになった後、部OBの井ノ口忠男同大理事がタックルした選手と父親に言ったという。「(内田正人前監督らの関与をなかったことにしてくれれば)一生面倒を見る。ただ、そうでなかったときには、日大が総力を挙げて、潰しにいく」。反則行為に関する第三者委員会が30日発表した「最終報告書」で明らかになった。前監督の指示否定に始まり、実行選手への罪なすり付け、卑劣な隠蔽(いんぺい)工作、日大当局の責任放棄。報告を読むと底知れぬ暗い穴をのぞき込んでいるような気分にさせられる
▼先の言い伝えでは、法師に弱点が鉄だと聞かされた村人が周りにくぎを打ち込み大蛇を倒す。その後大蛇は富を生む鉱物になったという。さて、信用の失墜という鉄で周りを囲まれた日大は、生まれ変わることができるだろうか。