コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 243

イラク派遣日報

2018年04月26日 07時00分

 ゾウがどんな動物か知りたいと思い、仲間で連れ立って出掛けていく民話がインドにある。物事を判断する上での教えも含む有名な話のため聞き覚えのある人も多かろう

 ▼こんな内容である。全員目が不自由だったため、肌に触れた者は「大きな岩のようだ」、尻尾の先をつまんだ者は「ネズミみたいな生き物かな」、足を抱えた者は「いやいやまるで巨木だよ」、耳をつかんだ者は「ずいぶんと薄っぺらい動物だ」。それぞれ自分の意見を主張するばかりで一歩も譲ろうとしない。雰囲気はどんどん険悪になっていく。そこで見かねた通行人がこう助言したそうだ。「あなたたちは皆正しくて間違っている。全員の意見をまとめればいいのさ」

 ▼最近よくニュースで取り上げられる自衛隊のイラク派遣日報問題を聞いていて、その民話を思い出した。文書管理の不適切さを改善すべきは当然だが、記載された「戦闘」の文言だけつかまえ、人道復興支援活動そのものまで疑問視する論調に違和感を覚えたのである。その論調とは、「非戦闘地域」に派遣したのに「戦闘」があるのはおかしいとの批判。ただ、当時先遣隊長だった佐藤正久参院議員は『文藝春秋』2016年1月号に、自衛隊が仕事をくれないことに怒った住民が宿営地に迫撃砲を撃ち込む事件もあったと寄稿していた

 ▼つまり戦闘といっても現地の実相は多様。けんかから抗議活動、部族対立までいろいろあったのである。安全な日本にいて「戦闘」の言葉の手触りに頼るだけでは、イラク復興支援という大きなゾウは捉えられないのでないか。


リュウグウへの旅

2018年04月25日 07時00分

 世界最高水準の知性を持つとされる理論物理学者フリーマン・ダイソンの望みは、自ら宇宙に出掛けることだという。新たな法則を発見する程度では飽き足りないらしい。『宇宙船とカヌー』(ケネス・ブラウワー、ちくま文庫)に教えられた

 ▼そこで目を付けたのが小惑星。「我々がスペース・コロニーの建設をどこかではじめるとすれば、そう、この先二十年以内のことだが、私は自分の金を小惑星に賭けるね」。実に自信満々ではないか。ダイソン氏のことゆえもちろん無謀なギャンブルなどではない。多くの小惑星に水が存在していること、重力が弱いため離着陸が容易なこと、それが小惑星に植民する上で絶好の条件になると見たのである

 ▼その発言から約20年後の2003年、JAXAの探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」に向け飛び立った。数々の苦難の末、10年に世界で初めて小惑星の微粒子を持ち帰ったのはご存じの通り。コロニーとまではいかなかったものの、第一歩は記したのである。そしてもうすぐ、今度は「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」に到着する。早ければ6月下旬だそう。前回同様に標本を採取するが、中でも注目は有機物の存在。リュウグウは46億年前の太陽系誕生の痕跡を残しているため、もし有機物があれば地球の生命の起源を地球の外に見つけられるかもしれない

 ▼何とも好奇心を刺激される話ではないか。地球に帰ってくるのは20年の末。どうやらダイソン氏ならぬ人類が小惑星に賭けた金は、宝物がいっぱい詰まった玉手箱として返ってきそうである。


沖縄のはしか

2018年04月24日 09時27分

 医療技術が発達していなかった江戸時代までは、年端もいかぬ子どもが病気やけがで死亡する例も多かった。「7歳までは神のうち」の言葉が生まれたのはそうした背景があったためらしい

 ▼この世にいるようでいて、あの世にもまだ籍を置いている。そんな状態だと考えられていたのだろう。当時、子どもをあの世に連れ去る怖い病気と恐れられていたものの一つが高熱と全身の発疹が特徴のはしか(麻疹)である。はしかは本来、自然に治り一生免疫がつく病気だが、栄養や衛生が行き届かなかった昔は命取りになることもあったのだ。現在は就学前に行う2回の予防接種でほぼ封じ込めに成功し、2015年には世界保健機関からいわゆる土着系の麻疹ウイルスは存在しないと認定された

 ▼ところが、である。そのはしかが今、沖縄で猛威を振るっているという。先月末からきのうまでに70人以上の患者が確認されているそうだ。県も「感染が疑われる人はすぐに受診を」と異例の呼び掛けに乗り出している。台湾からの観光客がウイルスを保有していたという。国立感染症研究所によると、この男性が感染性のある期間中に広く県内を移動したことで二次感染が拡大した。はしかが激減したため日本ではワクチンを1回しか接種しない人が増えていることも災いしたようだ

 ▼まれとはいえ死亡例があり妊婦なら胎児への影響も大きい。既に愛知で沖縄由来とみられる患者も見つかっている。黄金週間も近い。全国に感染を広げないために、沖縄旅行に出掛ける人は念のため水着とともに接種履歴の確認も。


花見

2018年04月23日 07時00分

 気持ちの良い日が続く。少し前まで寒さに震えていたのがうそのような暖かさである。風も肌を刺す冷たさは既になく、どこかふんわりと柔らかい。「春の風顔いっぱいに吹く日かな」成田千空。そうそう、春にうつむき加減は似合わない

 ▼こんなうららかな日には仕事なんかやめて昼間からお酒でも飲んでいたい―、と恨めしげに空を見上げているご仁もいよう。安心してほしい。本道もそろそろ花見の季節である。どうやら急いで仲間に連絡し、ジンギスカン鍋とビールの手配をする必要がありそうだ。日本気象協会の北海道桜開花予想によると、今週早々の松前町上陸を皮切りに、各地とも平年より5日前後早く開花するらしい。今月が函館26日、札幌28日、帯広29日、旭川30日。5月に入り網走5日、稚内9日、釧路13日と桜前線は動いていく

 ▼「身じろげばこぼれむとするさくらかな」轡田進。満開の桜には見る者の目をくぎ付けにする華やかさがある。開花からおよそ4、5日でその日を迎えるという。詩人高橋順子さんのエッセイ『うたはめぐる』(文藝春秋)で、花見に触れたこんな一文を面白く読んだ。「どんなに仕事が忙しくても、不思議なことに花見の予定はちゃんと入ってくる。仕事は待っていてくれることもあるが、花はそういうわけにもいかないので」

 ▼言われてみれば確かにその通り。日々変わる開花予想にやきもきしながら、人間の方が万障繰り合わせて「桜様」に予定を合わせているのである。もっともお酒が入ってしまうと途端に桜のことなど見えなくなってしまうのだが。


ふるさと

2018年04月20日 07時00分

 最近あったことは忘れても、幼いころに覚えた歌は幾つになっても忘れない。多くの人が実感していることだろう。童謡がいい例である。歌詞を見れば不思議と自然に頭の中でメロディーが流れ出す

 ▼「故郷(ふるさと)」はその最たる例ではないか。以下は2番の歌詞なのだが、わざわざ思い出す努力もいらないはず。「いかにいます/父母/つつがなしや/友がき/雨に風に/つけても/思い出ずる/ふるさと」。北朝鮮拉致被害者たちも他人には聞かれぬよう注意しながらも、折に触れ静かに口ずさんでいるかもしれない。どれだけ帰国を切望し、助けを待ちかねていることだろう。今度の動きが被害者救出の決定打になるといいのだが

 ▼米フロリダ州パームビーチで行われた安倍首相とトランプ大統領の首脳会談。首相が席上、早ければ来月開かれる米朝首脳会談で日本人拉致問題を取り上げるよう求めたのに対し、大統領が提起を確約したのである。事有るごとに拉致の非人道性を訴え続けた成果が出た。北朝鮮の真意はいまだ見えないものの、金正恩委員長が表面上、こわもてから穏健へと対外姿勢を変えているのは確かなようだ。ならば日米同盟の強い連携を生かし、このチャンスに賭けてみない手はない

 ▼北朝鮮に捕らわれている被害者本人たちも歳を重ね、日本で待つ家族らも既にかなりの高齢だ。時間はほとんど残されていないのである。拉致被害者全員が無事日本に帰り、誰はばかることなく大きな声で「山はあおき/ふるさと/水は清き/ふるさと」と歌える日が一日も早く来るといい。


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