弘法大師空海がまとめたとされる子ども向けの格言集に「実語教」がある。江戸時代に寺子屋で使われて一般に普及した。そう言われてもピンとはこなかろうが、ほとんどの人が知っているはずである
▼最もなじみ深いのはこの一文でないか。「玉磨かざれば光無し」。こちらにも聞き覚えがあろう。「山高きが故に貴からず、樹有るを以って貴しとなす」「人肥えたるが故に貴からず、知有るを以って貴しとなす」。華々しい見た目よりも中身が豊かであることの方が貴いという教えである。さて、その趣旨からするとこの小学校の決定はどう考えればいいのだろう。東京・銀座の中央区立泰明小が、イタリアの高級服飾ブランド「アルマーニ」がデザインした制服の導入を決めたという
▼アルマーニのスーツといえば高価なため、世のお父さん連中だって容易には手を出せない代物。今回話題の制服も一般の約4倍の8万円もするそうだ。保護者らの中からも批判する声が上がっているらしい。当然ではないか。報道によると和田利次校長の方針だそう。正しい心構えで学ぶ「泰明らしさ」を取り戻すきっかけに―、が狙いなのだとか。「馬子にも衣装」ならぬ「児童にもアルマーニ」だがどれだけ外見を整えようと馬子は馬子だし児童は児童である
▼そもそもブランドにこだわる大人の狭い価値観が、可能性の宝庫である自由で伸び伸びとした「子どもらしさ」をかえって台無しにしてしまうのではないか。「実語教」に一項加えたい。「制服高きが故に貴からず、健やかな児童有るを以って貴しとなす」。