コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 253

アルマーニの制服

2018年02月14日 07時00分

 弘法大師空海がまとめたとされる子ども向けの格言集に「実語教」がある。江戸時代に寺子屋で使われて一般に普及した。そう言われてもピンとはこなかろうが、ほとんどの人が知っているはずである

 ▼最もなじみ深いのはこの一文でないか。「玉磨かざれば光無し」。こちらにも聞き覚えがあろう。「山高きが故に貴からず、樹有るを以って貴しとなす」「人肥えたるが故に貴からず、知有るを以って貴しとなす」。華々しい見た目よりも中身が豊かであることの方が貴いという教えである。さて、その趣旨からするとこの小学校の決定はどう考えればいいのだろう。東京・銀座の中央区立泰明小が、イタリアの高級服飾ブランド「アルマーニ」がデザインした制服の導入を決めたという

 ▼アルマーニのスーツといえば高価なため、世のお父さん連中だって容易には手を出せない代物。今回話題の制服も一般の約4倍の8万円もするそうだ。保護者らの中からも批判する声が上がっているらしい。当然ではないか。報道によると和田利次校長の方針だそう。正しい心構えで学ぶ「泰明らしさ」を取り戻すきっかけに―、が狙いなのだとか。「馬子にも衣装」ならぬ「児童にもアルマーニ」だがどれだけ外見を整えようと馬子は馬子だし児童は児童である

 ▼そもそもブランドにこだわる大人の狭い価値観が、可能性の宝庫である自由で伸び伸びとした「子どもらしさ」をかえって台無しにしてしまうのではないか。「実語教」に一項加えたい。「制服高きが故に貴からず、健やかな児童有るを以って貴しとなす」。


重いかばん

2018年02月10日 07時00分

 先週、久々に札幌近郊の山歩きを楽しんできたのだが、途中から肩が痛いのには閉口した。歩くうちリュックの重さでベルトが肩に食い込んできたのである

 ▼肩を取り外してしまいたくなるがそうもいかない。山歩きをする人なら誰しも同じことを考えたことがあろう。しばらく山用リュックを背負っていなかったため肩がやわになっていたとみえる。重いといっても日帰り装備だから、冬とはいえ10㌔程度なのだが。これくらいの重さで弱音を吐いていては小中学生に笑われる。ご存じだろうか。昨今の通学かばんの中身が信じ難いほど重いことを。筆者の子どもたちがその年齢だったのもそう昔のことではないが、気軽くかばんを渡そうとして持ち上げられず、危うくぎっくり腰になりかけたことがある

 ▼10㌔近くはあったろう。子どもだから余計な物を詰め込んでいるのかと思えばさにあらず。全て勉強道具。そろえるとそれくらいになるのが普通らしい。しかも毎日だ。体に影響の出ない方が不思議である。取り越し苦労でなく、最近は実際に背中や腰を痛めて通院する子どもが増えているそうだ。大人でもつらい10㌔である。体格が小さく通学距離が長ければ通学だけでへとへとのはず。危険が迫ったとき機敏に動けないのも心配だ

 ▼ゆとり教育の見直しで教科書のページ数が5割ほど増えたのが主な原因という。子どもの健康や安全を願うなら一部の教科書を学校に置くなど柔軟な対応があっていい。もうすぐ新入学の季節。政府は幼児教育無償化と同時に小中学校のかばん軽量化も進めてはどうか。


松浦武四郎

2018年02月09日 07時00分

 あす10日は北海道の名付け親である松浦武四郎が亡くなって130年の忌日である。しかもことしはちょうど生誕200年。「北海道」命名150年の節目にこれだけ周年が重なるのも珍しい。勝手な思い入れではあるが、やはり本道とは相当に縁の深い人物だったといえるだろう

 ▼「花咲てまた立出ん旅心七十八十路身は老ぬとも」。亡くなる前の年、70歳で詠んだ歌である。探究心が尽きることはなかったらしい。武四郎は以前から「北海道人」の雅号を使っていた。北の海をさすらう世捨て人。つまり「北海」「道人」だ。ただし命名はこれを基にしたわけではない。アイヌの古老が自らの暮らす土地を「カイ」と呼ぶのを聞き、方角を示す「北」と行政単位の「道」を付けて「北加伊道」と提案したのである

 ▼その名前からは、地域の特徴を正しく表現したいと望んだ武四郎の真っすぐな精神が垣間見える。アイヌの人々が独自の豊かな文化を持って、この大地に生きている事実を尊重したかったのだろう。この節目に武四郎から学ぶべきことをあらためて考えると、地域に的確な名前を与える見識に思い至る。そのためには地域を丁寧に観察し、可能性や潜在力を的確に見極められなければならない

 ▼農業王国、スキーの聖地、温泉天国…。150年で北海道が獲得した名前は数多い。これから新たにつくられる名前、昔から存在するのに誰も気付いていない名前はまだまだたくさんあろう。それを見つけるのは、今を生きるわれわれの役目である。武四郎の探究心と行動力を見習って、いざ旅に出ん。


記録的大雪

2018年02月08日 07時00分

 立春も過ぎたというのに一向に寒気の緩む気配がない。「大雪の予感有事の予感あり」高松美智子。有事といって差し支えないほどの大雪に悩まされている地域も多い

 ▼本道では道南の厚沢部町で6日、積雪の深さが観測史上最高の145cmに達したそうだ。函館市も除雪が追い付かず市電の運行を取りやめねばならなかったという。本州では福井県の国道8号で1500台の車が立ち往生。日本海側の被害が大きい。中でも北陸は記録的大雪に見舞われている。気象庁によると、福井市の積雪深は7日現在で平年比7倍の147cm。しかも5日深夜から6日昼にかけて、半日で一気に70cm以上も積もったらしい。平年比3倍でも難儀なのに、半日で7倍になるのではいかに雪慣れした地域でもたまったものではない。立ち往生もしようというものだ

 ▼車に閉じ込められるといえば、中標津町など道内各地で9人が亡くなった2013年3月の暴風雪災害を思い出す。福井ではそんなことが起こらないよう願いたい。歌人土田耕平の童話に、山で大雪に遭ったお秋さんが奇妙な体験をする「雪に埋れた話」がある。「止めどなく降つてくる雪は、膝を埋め、腰を埋め、胸を埋める深さにまで積もつてきました」。動くこともままならなくなりお秋さんは思う。「もう助かりやうはない」

 ▼ふと気付くとお秋さんは長い雪の洞穴の中を歩いていて、炉に火をくべている巨人に会う。そこから少し歩くと出口が見え、一歩出てみると外はもう春になっていた。洞穴のようなこの厳しい寒波を抜ければ、日本の春も近い。


ベルリンの壁崩壊から

2018年02月07日 07時00分

 東西冷戦最後の象徴「ベルリンの壁」が崩壊してからの日数が、置かれていた日数を超えたそうだ。ドイツ大使館がきのう、ツイッターにこう投稿していた

 ▼「本日2018年2月6日でベルリンの壁の崩壊後から10316日という日数がたちました。これは1961年8月13日に突如壁が建設され、崩壊した1989年11月9日までの日数と同じです」。言い換えれば、自由と統一を手にしてからの日数となろう。ホーネッカー国家評議会議長は89年10月、東ドイツ建国40周年記念式典で自国を理想の社会主義国と自画自賛した。同席したソ連のゴルバチョフ書記長は「遅れてくるものは人生によって罰せられる」(『冷戦終結の真実と21世紀の危機』NHK出版新書)とこれを批判。壁はそのわずか1か月後に崩壊した

 ▼それから29年、今の強いドイツ経済は東ドイツの労働力と旺盛な需要が礎になったといわれる。欧州での主導的地位もこの経済力あればこそだ。ドイツ国民にとっては感慨深いに違いない。国家統一と聞けば、韓国と北朝鮮を思い出さないわけにはいかない。実際にはもう少し前だが仮に休戦協定の日に38度線ができたとすると、その壁は2万3000日以上存在していることになる。しかも崩壊する見込みは全くない

 ▼折しも9日から韓国では平昌冬季五輪が始まる。一部競技では南北統一チームを結成するそうだが、北朝鮮の時間稼ぎと制裁回避に利用されるだけだろう。北朝鮮国民も自由を手にしてからの日数が、独裁に苦しんだ日数を超えたと言える日が早く来るといいのだが。


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