コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 263

大韓航空機爆破事件30年

2017年11月29日 07時00分

 国際諜報戦を取材している現役のTBS記者竹内明氏が書いたスパイ小説『スリーパー 浸透工作員 警視庁公安部外事二課』(講談社)にこんなシーンがあった

 ▼祖国とはまるで違う自由で豊かな国日本に「浸透」して長らく暮らすうち、つい自分の正体を忘れそうになった工作員が心の中で自分にげきを飛ばす。「選び抜かれた男だという自負がある。選抜してくださった金正恩元帥様への恩返しこそが責務だ」。お分かりの通り、祖国とは北朝鮮のこと。工作員は日本人の戸籍を乗っ取ってその人物に成り済ます「背乗り(はいのり)」で社会に溶け込んでいる。ごく普通の日本人として生活し、指令を受けると資金集め、拉致、殺人、テロといった工作を実行するのである

 ▼事実としてそのまま報道できないことを小説にしている部分もあるのでないか。北朝鮮のやり口は今も昔も変わらない。1987年、日本人に成り済ました工作員によって大韓航空機が爆破されたテロ事件から、きょうで30年である。実行犯金賢姫もひたすら北朝鮮に忠誠を誓い、体制を疑うことはなかったと聞く。韓国で民主主義に触れて初めて、教えられた知識はうそだと気付いたらしい

 ▼先週、北朝鮮の男8人が秋田の海岸に漂着した。こうした事件、毎年かなり起こっているそうだ。潜入経路として依然有効ということだろう。小説にも、沿岸には工作員を多数置き出入国を「徹底的にサポートする」とあった。脅威は現実である。30年を機に狂信的な工作員が今も存在する事実を思い出し、平和ボケに陥るのを戒めたい。


ポンパ号

2017年11月28日 07時00分

 日立カラーテレビ「キドカラー」をPRするため全国を一周した列車「ポンパ号」を覚えている人はどれくらいいるだろう

 ▼列車全体に最先端のテレビ技術を楽しく紹介する仕掛けが施され、鳥の姿をしたマスコット「ポンパ君」と遊べるアトラクションもあった。いわば走る科学テーマパークである。本道に来たのは1971年のこと。筆者は小学生だったが、自分の住む町の駅に回ってくるのが待ちきれなかった。これだけ大々的に鉄道を使って宣伝事業をしたのは、後にも先にもこの「ポンパ号」くらいでないか。鉄道が公共交通機関の要であり、駅が地域の人々の拠点だった時代だからこそ実現できたことだろう

 ▼先週の土曜日、道庁赤れんが庁舎で北海道鉄道観光資源研究会主催の「北海道の鉄道 過去、現在、未来」パネル展を見た。「ポンパ号」の展示があったわけではないものの、開拓期からの歴史を顧みるパネルを眺めているうち、鉄道が今よりずっと身近だった古き良き時代を思い出した次第。同じ感慨を抱く人が多かったに違いない。会場は大盛況だった。歴代の蒸気機関車、急行「大雪」、海の鉄道である青函連絡船、街の顔となった駅舎―。それらパネルを来場者はそれぞれ、自分の人生と重ね合わせて見ていたのだろう

 ▼そんな会場風景を目の当たりにすると、JR北海道の鉄路維持困難に気をもんでいる人は相当な数に上るのだろうと想像が付く。ノスタルジーだけで問題を解決できるとは思わないが、もしかすると歴史の中にも起死回生のヒントは転がっているのかもしれない。


藪の中

2017年11月25日 07時00分

 芥川龍之介の短編小説『藪の中』をご存じだろうか。たった一つの出来事が、見る人によって全く別の話になってしまう不条理を描いた作品である

 ▼発端は山中で刀傷を負った男の死体が発見されたこと。犯人は捕らえられ、その盗人や男の妻、親族、目撃者ら7人がそれぞれ事件の「真実」を語るのだが、証言の内容はバラバラ。誰かがうそをついているのか、それともただの勘違い。はたまた目が曇っていたのか。事情が込み入って真相が判然としないときに使われる「藪の中」の語源となった小説でもある。現実にもまま起こる話だが、今回ほどやぶの深さを感じさせられる騒動はあまりない。大相撲横綱日馬富士の貴ノ岩暴行問題のことである

 ▼当初は、酒の席で後輩力士の態度の悪さに激高した日馬富士が、度を越した暴力を振るった不祥事という単純な図式が伝えられていた。許されないことではあるが、これだけなら体を張って勝負する格闘技の世界にはあり得ること、との受け止めが主だったろう。ところが、である。貴乃花親方は警察に被害届を出す一方、日本相撲協会の調査要請には応じず。それではと酒席に居た者たちに事情を聴くと話はバラバラ。そのうち朝青龍、旭鷲山といったモンゴル在住の元力士までもが口を挟んできて、今まさに「藪の中」だ

 ▼物語は真相が分からないまま終わるが、相撲界はそれで済まされまい。これまでも星の貸し借りや「かわいがり」と称するいじめが問題視されてきた。土俵にまでやぶがはびこるようなら、せっかく戻ったファンの心もまた離れよう。


子どもの誤嚥

2017年11月23日 07時00分

 今から10年ほど前のこと。あめを喉に詰まらせ危うく命を落としそうになった経験がある。その朝は風邪気味で喉に違和感があったため、喉あめをなめながら家を出た

 ▼しばらくたったころ、突然のせきで息を吸い込んだ瞬間、それが気管をふさいでしまったのである。ぴったりはまって全く息ができない。その間、随分長く感じたが実際は1分くらいだったろうか。力を振り絞って無理やりせきをし、事なきを得た。あめはだいぶ小さくなっていた。それが気管をふさぐなど思いもしなかったため、警戒もしていなかったのである。消費者庁がおととい公表した、子どもの「小さいおもちゃの誤嚥(ごえん)・窒息事故に注意」の呼び掛けに触れ、当時の記憶がよみがえった次第

 ▼「乳幼児の気道閉塞事故調査」により、直径などが6―20㍉程度の小さな物でも、口に入れると窒息の恐れがあると分かったそうだ。さもありなん。大人であの調子なのだから、飲み吐きの力の弱い子どもならすぐ命の危機に陥ろう。乳幼児は何でも口に入れる。わが子にヒヤリとさせられた人も少なくないはずだ。誤嚥した子どもの保護者に聴いたところ、群を抜いて多かったおもちゃはビー玉とおはじきだったという。ビーズや玩具の弾丸がこれに続く

 ▼クリスマス、正月と、これからの時期は離れていた家族や親族が集まる機会が増える。心待ちしていた再会が一転、悲劇になっては大変だ。子や孫のために事故につながりそうな物を点検し、早めに片付けておいた方がいい。温かく迎えた後は、できるだけ目を離さずに。


用法・用量を守って

2017年11月22日 07時00分

 風邪薬や胃薬、頭痛薬など市販の薬には必ず「使用上の注意をよく読み、用法・用量を守って正しくお使いください」と記された紙片が添えられている。まあ隅から隅までじっくり読む人は少なかろう

 ▼それでも自分がいつ何錠飲めばいいかだけはきちんと確認しているに違いない。15歳以上は1日3回食後に各2錠といった決まりのことだ。足りなければ効果が見込めないし、多過ぎては体に毒だと思うからである。ところが、これが百薬の長とも称される酒となると、途端に用法・用量に無頓着な人が増えるのはどうしたことか。ラベルに年齢制限や妊産婦への注意はあるが、用量については「適量を」程度のことしか書かれていないからかもしれぬ

 ▼アルコールの副作用で身を滅ぼす人が一向に後を絶たない。今月も札幌で酒に酔ったタクシー客が暴れて料金を踏み倒し、書類送検される事件があったばかり。同じ札幌だが酒気帯びで車を運転した末に事故を起こし、1歳の長男を死なせた悲しい例もあった。萩原朔太郎が警句集『新しき欲情』で、飲酒についてこう述べていたのを思い出す。「酒を飲む目的は、心地のよい酩酊に入つて忘我の恍惚を楽しむにある。ところがある種の酒飲みは、飲酒によって全く反対になる」

 ▼どうなるのか。「やきつくやうになり、いらいらして、無鉄砲に意志を押し通そうとする」。皆さんの身近にも一人や二人いるのでないか。そんな人に限って酒に強いと勘違いしているから困る。ラベルには書かれていないが自分の用法・用量くらいは把握しておいた方がいい。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 東宏
  • 日本仮設
  • 古垣建設

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,375)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,288)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,279)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,075)
藻岩高敷地に新設校 27年春開校へ
2022年02月21日 (989)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。