コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 283

稲田朋美防衛相

2017年06月30日 09時19分

 江戸後期の禅僧で歌人の良寛といえば、子どもたちと愉快に遊ぶ穏やかな人柄がまず思い浮かぶ。だからだろうか、他者への配慮に欠ける言葉には人一倍敏感だったようだ

 ▼悪い使い方をこんな『戒語』として残している。「ことばの多き/口のはやさ/問わずがたり/さしで口/手がら話/人の物言いきらぬうちに物言う/へらず口/ことごとしく物言う…」。誰でも一つや二つ思い当たることがあるのではないか。「風は清し月はさやけしいざともにをどりあかさむ老のなごりに」。老境に達しても皆と一緒に楽しく踊り明かそうとする天真らんまんな良寛さんにも、長い年月の間には口が災いになったことが少なからずあったに違いない。反省を重ねることで人格を磨いてきたのだろう

 ▼さて、こちらの人はそんな良寛さんに学ぶべきかもしれない。稲田朋美防衛相のことである。舌禍が止まらない。今度は東京都議選の自民党候補の応援演説で、自衛隊が投票を要請しているかのような発言をしたのである。良寛さん流に言うと、「ことばの多き」。つまりは何も考えず思い付くままをペラペラ話したのだろう。ただ、今は国民の9割が自衛隊に良い印象を持っているご時世だ。思想信条に関わりなく支持されている存在である

 ▼そんな中で自衛隊を自民党のもののように扱い、政治利用しようとするのでは閣僚としての資質を疑われても仕方ない。安倍首相は28日、党総裁としておわびしたが、はて当の本人は。何度も繰り返すところを見ると反省は苦手とみえる。そんなことでは人格も磨かれまい。


ある少子化対策

2017年06月29日 09時15分

 昔と今とを比べ随分変わったなと感じるのは外で遊んでいる子どもの数である。筆者は昭和30年代後半の生まれだが、当時は家の周りや近所の空き地、公園で子どもが群れを成して遊んでいた

 ▼鬼ごっこ、かくれんぼ、野球、虫捕り―。その時々で仲間は入れ替わるが人数が減ることはなかったように思う。子どもがそこら中にあふれていた印象だ。近頃はそんな風景をあまり見掛けない。静かすぎて寂しいのである。最近公表された2017年版の「少子化社会対策白書」によると、出生率は第2次ベビーブームが頂点に達した73年から一貫して低落傾向にある。出生数も73年は209万人いたのに、15年には100万人とその半分にも満たない。ニシンではないが道理で群れを見る機会が少なくなったわけである

 ▼原因はといえばそもそも結婚しない人が増えた。人口1000人当たりの婚姻件数を表す婚姻率が、ピークの72年で10だったのが15年は5・1とこちらも半減。なるほど、産声も小さくなるはずだ。独身の理由は男女とも「適当な相手に巡り会わない」が最多。出会いがないらしい。あらためて少子化が気になったのは、日本生産性本部が26日発表した新入社員「働くことの意識」調査を見たため。「デートの約束があるのに残業を命じられたら」との質問に、デートを選ぶ人が年々増えているのである

 ▼良い流れでないか。仕事に大半の時間を奪われては恋愛する暇も作れまい。むしろ会社に粋な計らいがほしいところ。それがいつか子どもの群れを呼び戻すことにならぬとも限らない。


藤井四段29連勝

2017年06月28日 09時06分

 五大陸最高峰登頂や北極圏犬ゾリ1万2000㌔の旅を成し遂げた植村直己は、冒険についてこんな考えを持っていたようだ。『男にとって冒険とは何か』(潮文庫)に記している

 ▼「自分の経験していない新しいことをやろうと、自分を賭け、決断し、実行していくことが、その人にとっての冒険心であると思う」。自分にとってそれは旅だったが、研究でも商売でも人生を賭けるならやはり冒険に違いないという。26日の竜王戦決勝トーナメント初戦で勝ちを収め、30年ぶりに公式戦29連勝の新記録を打ち立てた藤井聡太四段の報に触れ、植村直己の言葉を思い出した。まだ中学3年生、14歳の若さとはいえ、全身全霊をかけて将棋に新たな道を切り開こうとする藤井四段に、優れた冒険家の姿を見た気がしたのである

 ▼まさに今、誰も歩いたことのない領域に足を踏み入れたわけだ。この盤上の冒険での頼りは持ち前の集中力と探究心、そして目前の一戦のための入念な準備となろう。つまり自分自身である。過熱気味の世間がそんな若い心を押しつぶさないかと心配していたのだが、師匠の杉本昌隆七段が26日のNHKニュースで、藤井四段は28連勝の後もプレッシャーを感じていないようだったと語っているのを聞いてほっとした。想像以上に器が大きいのだろう

 ▼29連勝とはいえ冒険は始まったばかり。彼の前には険しい高峰が幾つもそびえていよう。遭難だけはしてほしくない。だからあの純真な顔を見るとついつぶやきたくなるのである。急ぎすぎるなよと。凡人の杞憂(きゆう)だろうが。


タカタ破綻

2017年06月27日 09時15分

 日本実業界の父渋沢栄一は自身の経営哲学をつづった『論語と算盤』(ちくま新書)で、逆境には大別して二つあると教えている。一つは天災や政治体制の刷新といった「人にはどうしようもない逆境」、もう一つが「人の作った逆境」である

 ▼対処法は、「どうしようもない」場合が逆境を天命と受け止め腰を据えて勉強し続けること、「人の作った」場合が「とにかく自分を反省して悪い点を改める」ことだそう。当たり前のことを言っているにすぎないが、渋沢翁によるとそれを実行するのは難しいそうだ。多くの人は「最初から自分でねじけた人となってしまい、逆境を招くようなことをしてしまう」とのこと。耳が痛い人も多いのでないか

 ▼耳どころか全身に痛みが走ったに違いないのが世界屈指の自動車安全装置メーカー「タカタ」である。きのう、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。エアバッグの不具合や異常破裂に端を発した経営危機だが、ユーザー無視のねじけた企業姿勢が逆境を深めた。重大な欠陥である。高温多湿の環境に長く置かれていたエアバッグが作動したとき、金属片を飛び散らせて破裂する恐れがあるというのだ。米国では10人以上が亡くなっているという

 ▼ただ、問題はそれだけではない。タカタは発覚当初、欠陥の事実を認めようとせず、リコールにも後ろ向きだった。その不誠実な態度が結果として1億を超えるリコール台数、関連費用1兆円を招いたのである。最初から「自分を反省して悪い点を改める」に徹していれば、逆境を跳ね返すこともできたろうに。


龍馬の新たな手紙

2017年06月24日 09時40分

 テレビでも雑誌でも頻繁に日本の歴史の特集が組まれている。求めるものがロマンなのか時間の風雪に耐えた知恵なのかは分からないが、歴史好きは相当に多いということだろう

 ▼当方も嫌いではなく、雑誌『日経おとなのOFF』の7月号が「学び直し!日本の歴史」と題されているのを見てつい買ってしまった。応仁の乱、関ヶ原の戦い、幕末・明治維新の三つに焦点を当てるとあり、読む前から少し血が騒いだ。ことしは大政奉還から150年の節目。まず幕末・明治維新の項から読み始めた。最後の将軍徳川慶喜の動向を軸に事態の推移を見ていくのだが、慶喜は「政権を手放す気などさらさらなかった」など刺激的な論考が続く

 ▼この雑誌に目が留まったのは寺田屋事件を生々しく描写した坂本龍馬の手紙が過日、見つかったためもある。当時のおさらいをしたいと考えたのである。手紙はその存在を知られてはいたものの、既に焼失したと信じられていたそうだ。本道の男性が大事に持っていたらしい。手紙には寺田屋で幕府側の襲撃を受けた際、西郷隆盛が拳銃を手に駆け付けようとしてくれたことや、薩摩藩邸に逃げ込んだ後、西郷や小松帯刀と大笑いしたことが書かれているとのこと

 ▼読んだ家族は身が縮む思いだったろう。ただ、現代の龍馬研究者やファンは、天衣無縫の行動を間近に見たようで会心の大笑いに違いない。それにしても大政奉還があった1867年には龍馬31歳、慶喜30歳。時代を動かしたのは若い彼らだった。そこにはロマンも知恵もある。歴史への興味は尽きない


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