江戸後期の禅僧で歌人の良寛といえば、子どもたちと愉快に遊ぶ穏やかな人柄がまず思い浮かぶ。だからだろうか、他者への配慮に欠ける言葉には人一倍敏感だったようだ
▼悪い使い方をこんな『戒語』として残している。「ことばの多き/口のはやさ/問わずがたり/さしで口/手がら話/人の物言いきらぬうちに物言う/へらず口/ことごとしく物言う…」。誰でも一つや二つ思い当たることがあるのではないか。「風は清し月はさやけしいざともにをどりあかさむ老のなごりに」。老境に達しても皆と一緒に楽しく踊り明かそうとする天真らんまんな良寛さんにも、長い年月の間には口が災いになったことが少なからずあったに違いない。反省を重ねることで人格を磨いてきたのだろう
▼さて、こちらの人はそんな良寛さんに学ぶべきかもしれない。稲田朋美防衛相のことである。舌禍が止まらない。今度は東京都議選の自民党候補の応援演説で、自衛隊が投票を要請しているかのような発言をしたのである。良寛さん流に言うと、「ことばの多き」。つまりは何も考えず思い付くままをペラペラ話したのだろう。ただ、今は国民の9割が自衛隊に良い印象を持っているご時世だ。思想信条に関わりなく支持されている存在である
▼そんな中で自衛隊を自民党のもののように扱い、政治利用しようとするのでは閣僚としての資質を疑われても仕方ない。安倍首相は28日、党総裁としておわびしたが、はて当の本人は。何度も繰り返すところを見ると反省は苦手とみえる。そんなことでは人格も磨かれまい。