コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 303

セブンのバイトで罰金

2017年02月03日 09時36分

 明治時代、札幌農学校で共に学んだ教育者新渡戸稲造、思想家内村鑑三、植物学者宮部金吾の3人は、東京外国語学校英語科の同期でもあった。その東京外語で3人は何としても英語を上達させたいと、一つの申し合わせをしたそうだ

 ▼それは日常の会話を全て英語ですることとし、ひと言でも日本語を発すれば罰金を科すというものだったという。若さゆえの意地や負けん気もあり、随分と上達の役に立ったらしい。そんなお互いの発奮材料になるゲーム感覚の罰金ならまだ分からぬでもないが、過日話題になったコンビニ「セブン―イレブン」のフランチャイズ店での罰金騒動はどうにもいただけない

 ▼東京都武蔵野市の店でアルバイトをしていた女子高生が、風邪で2日間休んだ罰金としてバイト代から9350円を差し引かれたというのである。店の言い分は「代わりの人を見つけなかったのが悪い」だったという。女子高生が感じた悔しさは想像に難くない。人の手当ては本来、店側がするものでないか。コンビニの人手不足はつとに知られている。ぎりぎりの人員で業務を回している店舗も少なくないのかもしれぬ。しかし、だ。例えばインフルエンザで急に発熱し、仕方なく連絡が当日になる場合もあろう。どこに罰金を科す名分があるのか

 ▼これではセブンの名で若者に無理を強いていると批判されても仕方ない。「セブン―イレブン、いい身分」と皮肉の一つも言いたくなる。当方も毎日のように利用しているが、客はもちろんバイトも店も、どうせなら「いい気分」でいたいものだ。


楽しい取り引き

2017年02月02日 09時27分

 道産子が抱く大阪人の印象の一つに、「買い物で必ず値切る」があるのではないか。一人残らずそうだというつもりはないが、実際にそういった傾向はあるのだろう

 ▼聞いた話だが、大阪人は安く買えることはもちろん、駆け引きも楽しんでいるらしい。さすがに商いの街である。値切りには定石があるようで、まず大幅に低い値を提示し、次に小さな染みがあるなど商品に難癖をつけ、最後におまけを要求―だそう。売る側もそれを分かった上で、客と一緒に掛け合いを面白がっているのである。ここまでくると一つの文化と言って差し支えあるまい

 ▼ビジネス畑出身のこの人物の中にも、やはりそういった文化が脈打っていそうだ。トランプ米国大統領のことである。おととい、トランプ氏は医薬品大手との会合の席上、日本が何年も円安誘導を続けた結果、米国はドル高で損をしてきた、と日本の為替政策を批判したという。10日の日米首脳会談に向け、交渉を有利に運ぶため難癖をつけてきたように見える。思い出してみると、氏はまず米軍の駐留経費が安過ぎるからもっと日本は負担すべきと吹っ掛け、次に米国製自動車が売れないのは日本に障壁があるからだと主張した。やれやれこの調子だと法外なおまけを要求してくる日も遠からずだろう

 ▼自らディール(取引)が好きと公言しているところからすると、これがトランプ流のビジネス術というわけだ。同じ交渉でも、人情味あふれる大阪の掛け合いとは文化の中身が違う。お互いが笑って終われない取引では長続きもしないだろうに。


宇宙ごみ

2017年02月01日 10時08分

 ごみ屋敷なるものが日本中に案外と多くあるらしい。テレビのワイドショーでも時々話題になるが、近所にそれらしき家があるという人も少なくないのでないか

 ▼近隣住民にとっては迷惑千万な話だろう。衛生上の懸念があるし臭いも気になる。火事だって心配である。家主に苦情を言っても改善されず、トラブルになる例も多いと聞く。どうやら片付けを怠っているうちに、一人では対処できない事態に陥るようだ。知らぬ間に進行し、気付いたときにはすでに手遅れ、近隣は大迷惑、となるのがごみ屋敷の特徴だろう。ところでこれと同じことが宇宙で起こっているとしたら…

 ▼実は今の地球も膨大なごみに取り巻かれ、ごみ屋敷ならぬ「ごみ地球」の様相を呈しているのだとか。役目を終えたり壊れたりした人工衛星や剥がれ落ちたロケットの破片、いわゆる「宇宙ごみ」がその正体である。宇宙航空研究開発機構によると、10cm以上のごみが約2万個、1cm以上10cm未満に至っては約50万個にも上るという。これだけの数になるといつ現役の衛星や宇宙ステーションに当たらないとも限らない。しかも1cmのごみで自動車がぶつかったと同程度の衝撃があるという。ところが責任持って片付ける家主はいない

 ▼そこで日本の宇宙輸送船「こうのとり」6号機が、もう放置しておけぬと清掃に乗り出した。先月28日からわれわれのはるか頭上で除去実験を始めたそうだ。装置の不具合で難航しているようだが、ぜひ成功させてほしい。宇宙に出てまでごみトラブルに悩まされるなど夢がなさすぎる。


知床の日

2017年01月31日 09時49分

 司馬遼太郎が「街道をゆく」シリーズの『オホーツク街道』で、地元の流氷話を紹介していた。こんな内容である

 ▼中学校の教頭が流氷に乗ったところ、突然岸を離れて沖へ流れ出した。それに気付いた同じ学校の事務職員が勇を奮い、氷の海に飛び込んで救ったというのだ。後で事務職員はこう語ったそう。「先生は全職員の給料を持っておられた」。司馬さんは「おもしろすぎるから、作り話かも」と記していた。美しく神秘的な流氷には思わず乗りたくなるが、実は大変な危険もあると教えるための話らしい。一方で流氷は豊かな栄養をもたらし海洋生物を育む。それが陸上生物の営みをも支え、全体として独特の生態系をつくり上げているそうだ

 ▼知床が2005年、世界自然遺産に登録されたのもそんな流氷の役割が評価されてのこと。きのうは道が設けた初めての「世界自然遺産・知床の日」だった。多くの記念行事もあり、価値や保全、適正利用の在り方をあらためて考える日になったのではないか。知床と聞くといつも思い出すことがある。それは筆者が羅臼岳に登ったときのこと。途中、つえを突いて一人きりで登ってくるお年寄りと出会った。話すと80歳を超えているという。「昔、妻と一緒に来たこの山の自然が忘れられなくて」再び訪れたそうだ。奥さまは随分前に亡くなったのだとか。当時は二人で自然を愛でながら歩いたに違いない

 ▼流氷、登山、動植物。一人一人、心の中に自分だけの知床を持っている。世界にもまれな自然あればこそだろう。一人一人、守る意思も持たねば。


冬は火事の季節

2017年01月30日 09時44分

 深い印象を残すその季節特有の情景を、五七五の文字形式で刻む文学が俳句である。必ず季語を入れる決まりは多くの人がご存じだろう

 ▼ただその一つに「火事」があるのはあまり知られていないのでないか。表すのは冬。火を使う機会が増え、空気が乾燥して風も強いため火事が発生しやすいからという。こんな句があった。「火事跡の鉄瓶に蓋ありにけり」五十嵐研三、「茫然とせる横顔に火事明り」多田遊輪子。その場の風景が目に浮かぶ。加えて筆者の胸の内にはどうにも生々しい恐れの感情が湧き上がってくる。それというのも、昨年11月末に筆者の家の近所で火事が起こったばかりだからである

 ▼その日、朝早く外に出ると、濃い煙の臭いが辺りを覆っていることに気付いた。サイレンが鳴り響き、通りの向こうに何台もの消防車が集まっている。後からテレビで見たのだが、一軒家が全焼し、家族3人が亡くなったそうだ。冬はどこの家でも常に暖房の火が燃えている。人ごとと油断していられない。道総務部危機対策課がまとめた火災年報によると、死者の約9割は住宅火災で出ているそうだ。その原因の6割以上は逃げ遅れらしい。ぞっとする数字である

 ▼暖房器具本体だけでなくその電気配線にも注意が必要だ。製品評価技術基盤機構NITEが26日、注意を促していた。電源コード内の断線や最大消費電力を超えた使用で発火する例が後を絶たないという。ねじれや踏み付けも危険とのこと。「出陣のごとき身支度火の見番」西村周三。春までそれくらいの気合いで、用心を続けたい。


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