持っているのに一度も使ったことがない。現実の世界であればそれは無駄とされるのだろうが、架空の話であれば事情は変わってくる
▼江坂遊のショートショート「無用の店」(光文社文庫所収)で売られるのがまさにそんな商品だ。例えば傘を買えばその人の上には絶対に雨が降らない、医薬品ならその日から全く病気をしなくなる、といった具合。使わないというよりも、使う必要をなくす効果があるというわけ。もっとも通常品と比べ相当に値は張る。それだけの価値は十分にあるのだが。さて、こちらは使う事態になるのか、そうならずに済むのか。政府はきのう、国連平和維持活動(PKO)で南スーダンへ派遣する陸上自衛隊部隊に、安全保障関連法に基づく新任務「駆けつけ警護」を付与する閣議決定をした
▼国連や非政府組織の職員が武装集団などに襲われたとき救援に向かう任務だが、これにより自衛隊は他国で武器を使用する正当な根拠を持つことになる。次期派遣部隊から適用されるという。世界には自力で状況を改善できない国がまだ多くある。国連も支援しているが、難しいのは国内紛争がやまないこと。竜虎相はむ危険地帯に丸腰の人間は送れない。となると軍の出番。自衛隊PKOの役割もそこにある
▼これまでは職員らが襲われても救援に行けず、宿営地を守るにも他国軍に頼るしかなかった。それが自衛隊で可能となれば安全確保の選択肢が増え、現場にとって一つの安心材料になるのでないか。もちろん持っていても使う必要など起きないのが一番。無駄で十分だが。