▼今でこそ人情味あふれる時代小説を数々世に送り出している山本一力さんだが、意外にも若いころ「限りなく嘘をついた」そう。『わたしの失敗』(文春文庫)で知った。原因は浮気。そのため2度結婚に失敗しているらしい。つじつまを合わせるにはうそにうそを重ねるしかない。一力さんは当時を「少しでも偽ったら、そのごまかしは弓矢となり、後々まで自分に突き刺さってくる」と振り返っている。
▼不正を主導したとされる開発担当者も、今頃は自分に突き刺さった矢の痛みに耐えかねているのではないか。20日に発覚した三菱自動車の燃費データ偽装問題のことである。自動車の燃費を実際より良く見せ掛けるため、タイヤなどの走行抵抗値を意図的に低く国土交通省に提出していたとのこと。10kgと表示されたコメを買ったのに、袋の中には9kgしか入っていなかったようなものだろう。購入者がだまされたと言って怒るのも当然である。上げ底の商品をつかまされたに等しい。
▼供給先の日産に指摘されて分かったというのだから、モラルに乏しい企業と批判されても仕方ない。以前リコール隠しもあった。車種はまだ増えそうだが、筆者もかつて三菱車に乗っていたことがある。選んだ理由は性能と信頼の高さだ。その両方をなげうってまで守りたかったものとは何か。担当者だけの責任ではあるまい。一力さんは3度目の結婚のとき、こう考えてうそをやめたそうだ。「片方が嘘つきだったら、進む道は真っ暗だ」。まずは社内の闇に光を当てることだろう。