コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 340

うそのデータ

2016年04月23日 09時10分

 ▼今でこそ人情味あふれる時代小説を数々世に送り出している山本一力さんだが、意外にも若いころ「限りなく嘘をついた」そう。『わたしの失敗』(文春文庫)で知った。原因は浮気。そのため2度結婚に失敗しているらしい。つじつまを合わせるにはうそにうそを重ねるしかない。一力さんは当時を「少しでも偽ったら、そのごまかしは弓矢となり、後々まで自分に突き刺さってくる」と振り返っている。

 ▼不正を主導したとされる開発担当者も、今頃は自分に突き刺さった矢の痛みに耐えかねているのではないか。20日に発覚した三菱自動車の燃費データ偽装問題のことである。自動車の燃費を実際より良く見せ掛けるため、タイヤなどの走行抵抗値を意図的に低く国土交通省に提出していたとのこと。10kgと表示されたコメを買ったのに、袋の中には9kgしか入っていなかったようなものだろう。購入者がだまされたと言って怒るのも当然である。上げ底の商品をつかまされたに等しい。

 ▼供給先の日産に指摘されて分かったというのだから、モラルに乏しい企業と批判されても仕方ない。以前リコール隠しもあった。車種はまだ増えそうだが、筆者もかつて三菱車に乗っていたことがある。選んだ理由は性能と信頼の高さだ。その両方をなげうってまで守りたかったものとは何か。担当者だけの責任ではあるまい。一力さんは3度目の結婚のとき、こう考えてうそをやめたそうだ。「片方が嘘つきだったら、進む道は真っ暗だ」。まずは社内の闇に光を当てることだろう。


新フレーズ

2016年04月22日 08時58分

 ▼道産子であれば昔から耳になじんでいて、少し聞いただけですぐにそれが何か分かってしまうフレーズがある。例えば「お、ねだん以上」ニトリ、「一番そばに」ツルハ、「おはようとともに」道新スポーツ、という具合。つい口ずさんでしまう人もいよう。商品名を前面に出す形もあり、「出てきた出てきた山親父」の千秋庵、「三方六の柳月」など挙げればきりがない。耳慣れは身近さの証明でもある。

 ▼いずれも会社や商品を消費者に強く印象付けるものだろう。ニトリなら納得できる品質の良さを、ツルハなら生活に寄り添う姿勢を、道新スポーツなら情報が朝早く手元に届くことを、それぞれその言葉に乗せて伝えている。本来の目的とは方向が別なのだが、共通のご当地CMの記憶を持つ道産子同士、妙な仲間意識を覚えるのも一つの効果といえようか。そんなことを思い出したのも今月初め、北海道の新たなキャッチフレーズ「その先の、道へ。北海道」が決まったからである。

 ▼ある言葉が会社の顔になるのと同様、「その先の」は今後の北海道を体現するものになるのだろう。従来の「試される大地 北海道」は拓銀破綻の翌年1998年にできたからか、試練に立たされる北海道、との受け止め方も多かったように思う。そういう意味では当時を的確に捉えていたのかも。ともあれ北海道新幹線とともに走り出したこともあって、新たなフレーズからは、未来に向け可能性が開かれていく勢いを感じた。もちろん、それが「試される」のはこれからなのだが。


キャパの時代

2016年04月21日 09時12分

 ▼20世紀を代表する報道写真家にロバート・キャパがいる。悲惨な戦いが続く当時のインドシナ戦線の現実を世界に伝えるため、ライフから取材を懇請されたキャパは、危険だからと引き留める友人にこう答えたという。「生と死が五分五分なら、俺は又パラシュートで降りて写真を撮るよ」(『ちょっとピンぼけ』ダヴィッド社)。自分が伝えなければ事実は闇の中のままだ、とのジャーナリスト魂だろう。

 ▼キャパの写真の中でよく知られているものの一つは、第2次大戦でノルマンディー上陸作戦に従軍した一連の写真である。兵士が泳ぎながら進軍していく情景を切り取ったものだ。画像がぼやけていたため、「キャパの手は震えていた」と言われたが、実は助手の現像ミスだったらしい。ただ、兵士と共に最前線にいた写真家はキャパだけで、彼のおかげで世界は上陸作戦の困難な実態を知ることができた。この写真でキャパは、米報道界最高の栄誉ピュリッツァー賞を受賞している。

 ▼そのピュリッツァー賞がことしで第100回を迎えたという。18日に受賞者が発表された。公益部門には海産物輸出のため奴隷同然に使われる東南アジアの人々をスク

ープしたアソシエーテッド・プレス、ニュース速報写真部門には小舟で危険な海を渡る難民を捉えたロイターとニューヨーク・タイムズが選ばれている。何が本当に起きているのか分からなければ問題の解決などできないのは、キャパの時代も今も同じ。さて日本のジャーナリズムもその使命を果たせているだろうか。


山菜とヒグマ

2016年04月20日 09時01分

 ▼このところの本道は晴れたり降ったり、寒くなったり暖かくなったりと、忙しい天気だった。春らしいと言ってしまえばそれまでだが、体調を崩した人も少なくないのではないか。札幌管区気象台によれば、あすからは広く高気圧が張り出し、晴れの日も増えてくるらしい。向こう一カ月は晴天の日こそ少ないものの、平均気温は平年より高目に推移するようだ。さあそうなると待ち遠しいのは週末だろう。

 ▼山菜採りの時期である。ウド、ギョウジャニンニク、ワラビ、タケノコ、タラの芽。自然の恵みをまた味わえると思うとうれしい。といっても当方、山歩きはするが採る趣味はない。勝手ながら毎年、知り合いから頂くのを楽しみにしている口だ。愛好家は宝物たる山菜を探し求め、道なき道をものともせず山に分け入るのだから頭が下がる。「山独活のリュックの口にはみ出せり」(吉田清子)の句もある。聞くと、宝庫のような場所を見つけたときなど、愉快で仕方がないという。

 ▼心配なのはヒグマとの遭遇だろう。道環境生活部が平成に入ってから27年間の人身被害をまとめているが、実に67%が春と秋の山菜・キノコ採り時に発生していた。2015年度の目撃件数が過去10年で最高の1200件だったのも気になるところ。ことしは雪解けが早く、既にヒグマも活発に動き始めていると聞く。山の幸が食べごろになる春を待ちかねていたのは何も人間ばかりでない。自然の食卓テーブルは広いのだから、遠慮してヒグマの席に近寄らないようにしたいものだ。


地震被害拡大

2016年04月19日 08時58分

 ▼火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長はWeb「NHKそなえる防災」の2013年コラムで、「最近の地震の起こり方は9世紀後半の日本にそっくり」と警鐘を鳴らしていた。9世紀後半は、貞観をはじめ各地で大地震が相次ぎ、新潟や伊豆、阿蘇では大噴火が続いた「まさに大地動乱の時代」。歴史を見れば地震の多い現在の日本はむしろ普通の状態で、20世紀が「異常に静か」な時代だったのだという。

 ▼熊本地震の被害が拡大している。18日までに42人が死亡、1100人以上が負傷した。行方不明の人も出ている。避難者は熊本や大分などで10万人を超えたらしい。報道を聞くたび胸を痛めている人も多かろう。今は亡くなった人のご冥福を祈り、少しでも速く救難救助が進展するよう見守るばかりである。残念なことは前震の後の本震で命を落とした人が多かったこと。山場を越えたと思えば警戒を解きたくなるのが人情である。自然災害は人の期待になど頓着しないから恐ろしい。

 ▼日本は近年、未曽有の大地震を乗り越えてきたため経験値は上がっている。今回も政府、自治体、関係機関の初動対応は速かった。草の根の動きも活発だ。ただどうだろう。先導すべき政府の災害対策は、まだ対症療法に重きを置いた20世紀型にとどまっているのではないか。復興は高齢化や過疎もあり、以前より格段に難しさを増している。ましてや藤井氏が危惧するように「異常に静か」な時代から動乱の時代に移っているなら、災害対策にも21世紀型の新たな枠組みがなくては。


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