コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 340

夕張再生計画

2016年03月08日 08時49分

 ▼吉野源三郎の名前にピンと来なくても、代表作に『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)があると聞けば、それは読んだ覚えがある、という人も少なくないのでないか。叔父さんがコペル君にいろいろなことを諭す。中にこんな一節があった。「一筋に希望をつないでいたことが無残に打ち砕かれれば、僕たちの心は目に見えない血を流して傷つく」。生きる上で希望がいかに大切かを教えているのだろう。

 ▼財政再生団体になっている夕張市の成果や課題を検証していた第三者委員会「夕張市の再生方策に関する検討委員会」が4日、鈴木直道市長に報告書を提出した。その内容を見ると、風向きがだいぶん、南寄りの暖かなものに変わってきたようだ。地方創生実現のため、財政再建と地域再生の調和に向けて新たな段階に移行することを求める、というのである。つまり、市民に辛抱を強いるばかりの時期はもう終わりにし、誇りや希望が持てるように計画を見直していこうというのだ。

 ▼再生計画は夕張市民にとって過酷なものだった。債務返済優先のため税金など負担が増える一方、行政サービスは削られる。市民の希望は次々と打ち砕かれた。それ故だろう、人口は計画が始まってから現在までに約30%も減ったという。計画は見直されても、苦しみはまだ残る。吉野は叔父さんにこうも語らせていた。「正しい道に従って歩いてゆく力があるから、こんな苦しみもなめるのだ」。10年間、夕張は挑戦し続けた。その姿に希望をもらった人がどれだけ多くいたことか。


啓蟄と就活

2016年03月05日 09時10分

 ▼寒さ厳しい冬は人間にとって過酷だが、昆虫にとっては平和な季節であるらしい。『虫のはなし』(技報堂出版)によると、活動期の夏はいつ天敵に食べられてしまうか分からない「受難の季節でもある」とのこと。土中でのんびり眠りながら冬を越している間に、寒さも飢えも通り過ぎてしまうのだとか。きょうは旧暦二十四節気の啓蟄だ。昆虫たちもそろそろ身支度を整えていよう。活動の季節である。

 ▼啓蟄で出てくる虫はもともと、昆虫だけでなく冬眠の習性を持つヘビより小さな生物を指していたそう。「啓蟄やただ一疋の青蛙」(原石鼎)の句もある。幸田露伴は「蛇穴を出れば飛行機日和なり」と詠んだ。自身をヘビとし、暗い穴から出ると爽やかな青空が広がっていたのだろう。解き放たれる喜びが感じられて味わい深い。とはいえ本道は3月に入ってから大荒れの天気に見舞われ、真冬に逆戻りした感がある。啓蟄の「け」の字もないのが実際で、春はまだお預けのようだ。

 ▼啓蟄とほぼ時を同じくして本番を迎えたのが2017年春卒業予定者の就職活動である。1日に会社説明会や広報活動が解禁になった。ことしは面接や試験といった選考が昨年より2カ月早い6月からに前倒しされるため、短期決戦型になるようだ。毎年のように変わる採用日程に学生も戸惑っているだろう。何はともあれ走り回る日々ではないか。ただ、就活だけで燃え尽きたりはしないでほしい。就職が決まって穴を出たら、そこに見たことのない爽やかな青空が待っているはず。


電力自由化

2016年03月04日 09時39分

 ▼作家水上勉は豪雪地帯で送電線を守る人々を見て心を動かされたそうだ。随想にそのときの思いを、こう記している。「文明の火壺から出る電力も、かくれたところで、人々が蟻のように働いてこそ消費者の手にとどくことを忘れないでほしい」(『続・閑話一滴』PHP研究所)。4月からそうして届く電力の小売り全面自由化が始まる。道内でも新規参入業者が家庭向けの顧客獲得に動きだしたようだ。

 ▼料金は下がり、サービスも多彩というのだから利用者としてはうれしい。ただ、少々ふに落ちない点もある。東京など道外で調達した電力を本道で売ることもできるというのだ。遠距離送電は損失が大きいから顧客と直接つなげるわけではない。料金だけのやり取りになるのだが、地域の電力設備をそれで持続させていけるのだろうか。現在の料金は、地域の電力会社が「蟻のように働いて」電力設備を維持してきた費用に加え、需給動向を見通すことで決めているもののはずである。

 ▼心配なのは、激しい競争で料金が道外に流出し、経済も収縮して地域の安定した電力環境が維持できなくなること。取り越し苦労ならいいのだが。家庭向けでないものの、2月には新電力大手が事業撤退との報もあった。同じ事が今後ないとも限らない。道内の新電力であれば地域安定供給の責任を将来にわたって共有できるだろう。さてビジネスライクな販売店に、そこまで高い意識を期待できるのか。自由化のつもりが、気が付いたら不自由になっていたのでは目も当てられない。


電力自由化

2016年03月04日 09時39分

 ▼作家水上勉は豪雪地帯で送電線を守る人々を見て心を動かされたそうだ。随想にそのときの思いを、こう記している。「文明の火壺から出る電力も、かくれたところで、人々が蟻のように働いてこそ消費者の手にとどくことを忘れないでほしい」(『続・閑話一滴』PHP研究所)。4月からそうして届く電力の小売り全面自由化が始まる。道内でも新規参入業者が家庭向けの顧客獲得に動きだしたようだ。

 ▼料金は下がり、サービスも多彩というのだから利用者としてはうれしい。ただ、少々ふに落ちない点もある。東京など道外で調達した電力を本道で売ることもできるというのだ。遠距離送電は損失が大きいから顧客と直接つなげるわけではない。料金だけのやり取りになるのだが、地域の電力設備をそれで持続させていけるのだろうか。現在の料金は、地域の電力会社が「蟻のように働いて」電力設備を維持してきた費用に加え、需給動向を見通すことで決めているもののはずである。

 ▼心配なのは、激しい競争で料金が道外に流出し、経済も収縮して地域の安定した電力環境が維持できなくなること。取り越し苦労ならいいのだが。家庭向けでないものの、2月には新電力大手が事業撤退との報もあった。同じ事が今後ないとも限らない。道内の新電力であれば地域安定供給の責任を将来にわたって共有できるだろう。さてビジネスライクな販売店に、そこまで高い意識を期待できるのか。自由化のつもりが、気が付いたら不自由になっていたのでは目も当てられない。


ガウディの夢

2016年03月03日 09時32分

 ▼スペインのバルセロナ市で着工から134年たった今も完成していないサグラダ・ファミリア贖罪(しょくざい)教会を知らない人はいないだろう。建築家アントニ・ガウディが構想した巨大聖堂だ。世界遺産でもある。図面や模型が少なく造形も複雑なため完成まで300年かかるといわれてきた。ところがその工期が大幅に短縮されているという。現在は2026年完成に向け工事が進んでいるそうだ。

 ▼秘密は潤沢な資金とITを使った建築技術にあるとのこと。先日、札幌市内で上映されたドキュメンタリー『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』に教えられた。同教会には毎年、世界中から300万人を超える観光客が訪れるらしい。この拝観料収入が最先端技術の導入を可能にしたのである。ガウディの独特なデザインを実現するためにCADは建築用でなく航空機用を採用。石材はコンピューター制御の切削機で加工し、複雑な部材は3Dプリンターで形成するといった具合だ。

 ▼石造に見えて実はRC造というところも多いそう。一方で40年近く建築に携わってきた彫刻家の外尾悦郎さんは、石が自分を動かし像が生まれるのだと話していた。そんな職人の技が尊ばれる場でもあるのだ。外尾さんは『ガウディの伝言』(光文社新書)に、観光客が増えたのは1992年バルセロナ五輪からだったと記している。こちらもレガシー(遺産)になれるといいのだが、と願わずにいられない。東京五輪に向け、日本の新国立競技場はことしから本格的な設計に入った。


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