コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 341

2016年熊本地震

2016年04月16日 08時50分

 ▼英国やフランスなど欧州で広く使われていることわざに、「火と水はよい召使いだが悪い主人である」という言葉があるそうだ。火も水も生活になくてはならないが、人間が制御できる範囲を超えて暴れ出せば大変な惨禍をもたらす。このことわざは、普段便利に使っていても、危険を忘れていると思わぬ災害に遭うことを教える。人の立つ大地もまた同じだろう。都合良く召使いのままでいてはくれない。

 ▼いつまでも静かに生活を支え続けてもらいたいのだが、そうもいかないらしい。14日午後9時26分に熊本県で大きな地震が発生した。気象庁は「2016年熊本地震」と命名したが、益城町で最大震度7を記録したというから、地域住民は生きた心地もしなかっただろう。多数の家屋が倒壊し、少なからず死者も出ていると聞く。負傷者も相当な数に上っているようだ。今も着の身着のまま避難所に身を寄せている人もおられよう。心配なことである。心よりお見舞いを申し上げたい。

 ▼現地では自衛隊や警察、消防などが懸命の救助活動を続けている。地元の建設会社もインフラの復旧を進めていることだろう。一日も早く日常を取り戻せるといいのだが。日本では近年、地震や噴火が頻繁に起こるようだ。震度7の大地震も阪神、新潟県中越、東日本、そして今回とここ20年に集中している。イタリアには油断をいさめる「千年起きなかったことが一時間で起きる」のことわざがあるそうだ。もはや「災害は忘れたころにやって来る」と言っていられる時代ではない。


目隠し政治

2016年04月15日 09時13分

 ▼マーケティング調査の1手法、ブラインドテストをご存じだろうか。被験者に、飲食料品の商品名を伏せ、または目隠しをした状態で提供し、どちらが好きか選んでもらうものである。客観情報が得られるため現状を分析するのに重宝する。有名なのは「ペプシチャレンジ」だろう。街頭で通行人にコカ・コーラと飲み比べをしてもらい、どちらが好みか聴いたものだ。テレビCMを覚えている人もいよう。

 ▼何もブラインドテストをしようと考えたわけでもあるまいが、自民党は環太平洋経済連携協定(TPP)承認案などを審議する衆院特別委員会の理事懇談会に、ほぼ黒塗りの政府交渉資料を提出したという。交渉経過は伏せたまま、さあこのTPP、酸いのか甘いのか、という訳である。民進党は猛反発し、審議拒否に踏み切った。その後両党は話し合い、今月20日に党首討論を実施することで合意し、きょうから特別委を再開することにしたようだ。しっかりと議論してもらいたい。

 ▼ところが今度は、政府・与党の中から、TPP承認案と関連法案の今国会での成立を先送りする声が出てきた。野党ともめ、採決を強行することにでもなれば、夏の参院選で不利になると判断してのことらしい。交渉経過を全て明らかにするのが外交上難しいのは分かる。ただ、国会審議を先送りにするのは、TPPで農業に多大な影響が出る本道にとって、いささか肩透かしを食わされる気分だ。24日には衆院道5区補選もある。調査ならまだしも、政治で目隠しなど御免被りたい。


狭山池

2016年04月14日 08時59分

 ▼日本書紀に崇神天皇の詔を記した一文がある。大要こんな内容という。「農は天下の中心で、人々が生きていくにはこれが頼りだ。しかし今、河内の田に水が少ないため農民は仕事ができない。ため池を多く築造し、仕事ができるようにせよ」。こうしてできたのが現存する日本最古のため池「狭山池」(大阪狭山市)だそう。遺構の年代測定で、616年に伐採された木材が使われたことが分かっている。

 ▼飛鳥時代初期に築造されたわけで、ことしはそれから実に1400年にもなる。ダム形式のため池だそうだが、土木施設としてもかなりの長寿命と言っていい。奈良時代の行基、江戸時代の片桐且元など名だたる人物が当時の最新土木技術を駆使して改修し、維持し続けてきたとのこと。さらに2001年に完了した「平成の大改修」では洪水を調節する機能を加え、治水ダムに生まれ変わらせたという。公共事業による社会資本整備が生活を向上させた典型例と言えるのではないか。

 ▼社会資本整備の効果には、大きく分けてフローとストックがある。フローは直接需要や所得の創出、ストックは生活や安全・防災性の向上、農業施設なら収量増がその中身。改修コストを差し引いても、狭山池のストック効果が相当なものだと分かる。現代は金融社会だが、1400年間も広く利を生み続ける金融商品など考えられないだろう。近年何かと肩身の狭い公共事業だが、今も全国に狭山池のような良質の社会資本が整備されていることに、もっと多くの人が気付いていい。


ムヒカ氏

2016年04月13日 08時58分

 ▼ホセ・ムヒカ前ウルグアイ大統領がきのうまで日本に滞在していた。ムヒカ氏といえば大統領在任中、給料の9割を寄付していたことでよく知られる。「カネのために政治家になったわけじゃない」(『悪役』汐文社)と語っていたそうだ。氏の人柄を聞いたとき、やはり清貧の士だった「財界総理」土光敏夫元経団連会長を思い出した。土光さんも木の古い家でつましく暮らす、お金にきれいな人だった。

 ▼言行一致の人には説得力があるということだろう。そのムヒカ氏が10日、広島を訪れた。FNNが伝えていたが、原爆ドームや平和記念資料館を見学した氏は「日本に来て広島を訪問しないことは、日本の歴史に対する冒涜(ぼうとく)だ」と話したそうだ。この言葉には胸を熱くさせられた。被爆という悲惨な事実への深い理解に敬服するほかない。あらためて考えさせられもしたのである。核兵器保有国首脳はこれまで広島を、冒涜とは言わないまでも、軽視してきたのでないか。

 ▼そういう意味では画期的な出来事と言っていい。G7外相会合の参加閣僚が11日、広島でそろって原爆死没者を慰霊したのだ。核兵器保有国の閣僚が訪れるのは初めてのこと。会合では核軍縮と不拡散に向け「広島宣言」も採択。これですぐ事態が動くわけではないが、「冒涜」が「重視」に変わっただけでも前進だ。ムヒカ氏は常々、世界の前に立ちはだかる危機の原因は政治にあると指摘している。核兵器もそうだろう。いつまで張り合うのか。核兵器こそつましくありたいもの。


サザエさん

2016年04月12日 09時00分

 ▼子どもから大人まで皆に愛されている漫画といえば、「サザエさん」(長谷川町子著)は間違いなくその一つだろう。それもそのはず、1946年に4コマ漫画で新聞連載が始まり、作者が亡くなった今もテレビアニメは続いている。連載開始のころの作品を見ると、闇市への買い出しや戦災孤児のための寄付集め、引き揚げ者へのねぎらいと、戦後すぐの世相がユーモアたっぷりに描かれていて興味深い。

 ▼サザエさんが「男女同権とうろん大会」の壇上に立ち、「男性よ女性をかいほうすべし」と訴える話もある。サザエさんが誕生したこの年4月10日、戦後初の衆院選で女性が初めて参政権を行使したのを題材にしたのだろう。当時の文部省が投票を棄権しないようにと出した文書「婦人の皆様へ」がなかなか振るっている。「皆さんは、男性よりもずっと鋭い直観力と云ふか、一種のカンを持って居られます。人物の真偽を、そのカンで嗅ぎ分け、必ず真ものに投票せられるでせう」。

 ▼そんな時代を画する選挙から70年。ことしは選挙権年齢を18歳以上に引き下げる公職選挙法が施行される。これまで以上に若者の声が国政に届く。準備はいかにと思い総務省の「18歳選挙」HPを見たのだが、気のせいか若者受けを狙った工夫ばかりが目立つ。一方で、「人物の真偽を、そのカンで嗅ぎ分け」と女性にかつて期待したように、新たな有権者である若者を信頼する文言は見当たらない。18歳になったカツオ君なら、「若者を甘く見てもらっちゃ困る」と言うのでないか。


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