コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 4

国民の借金?

2023年05月12日 09時00分

 統計のうそや誤りを分かりやすく伝える例えの一つに「テキサスの狙撃兵の誤謬」がある

 ▼狙撃兵が納屋のドアに向かってマシンガンを乱射し、弾痕が集中している部分に後から的を描けば、神業のごとき腕を持つ銃の名手に見えるというもの。その演出を統計に置き換えるとどうなるか。出てきた数字に本来の意味とは別の、まことしやかな物語を後付けすれば、情報を受け取る人々の印象を簡単に操作できるわけ。『ニュースの数字をどう読むか―統計にだまされないための22章』(ちくま新書)で以前仕入れた豆知識である。この時期恒例のいわゆる「国の借金」のニュースを見てそれを思い出した。過去最大を更新との話題に多くのメディアが飛びつき、報道しているが、相も変わらず間違った情報を流している

 ▼財務省がおととい明らかにしたのは、2022年度3月末現在の「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」。それによると合計は1270兆4990億円に上ったという。そこまではいい。ところが、メディアはさらに合計を日本の総人口で割り、国民一人当たりの借金が1000万円を超えると喧伝した。これはおかしい。国債に限れば9割以上、合計でも9割弱を国内で保有している。国民一人当たりというなら、資産だって同じくらいあるのだ

 ▼もとよりそれはただの数字遊び。一人当たりを出す意味は本来どこにもない。メディアは公正に見える数字を使って借金物語を後付けし、危機感を演出できれば目を引くニュースにできるとの狙いなのだろう。正しい的はそこではない。


銀座の強盗

2023年05月11日 09時00分

 規則正しい生活を心掛け、服装は地味で少し堅苦しく見えるくらいがちょうどいい。言葉遣いはあくまで丁寧に。振る舞いにも真面目さが求められる。つまり、他人から見ると品行方正な人物というわけ

 ▼これは何かといえば、SFショートショートの名手星新一が想定する「盗賊会社」の社員の資質である。迷惑な態度をとったり、派手な姿で出歩いたりなどはもってのほか。警察に目を付けられてはいけないのだ。社員が次の計画に宝石商の襲撃や高級車の強奪を提案すると、それでは成功しても大騒ぎになり活動に支障をきたすと社長は言う。そしてこう諭すのである。「少量ずつでも数をこなし、安全第一とするのが、わが社の方針だ」。どうやら現実はそれほど穏やかではない

 ▼東京・銀座の高級腕時計店で8日、衆人環視のもと堂々と強盗が行われた。事件は午後6時過ぎというからまだ外は明るく、路面店だから人通りも多い。安全第一どころか、どうぞ見てくれといわんばかりの大胆な犯行である。実行犯4人は程なく警察に逮捕されたが、奪われた1億円相当の腕時計100点のうち見つかったのは70点ほど。どうやら残りを手にして逃走中の黒幕がいるらしい。実行犯はいずれも10代。闇バイトで集められた可能性もあると聞く

 ▼こちらの「盗賊会社」の社長は自分が労せず利を得るためなら、社員など平気で切り捨てる方針なのだろう。最初から実行犯たちを目立たせ、皆が捕物で大騒ぎしている間に逃げる算段だったのかもしれない。自分だけは目を付けられぬようひっそり街に紛れて。


日韓シャトル外交復活

2023年05月10日 09時00分

 往年の名歌手藤圭子さんはデビュー曲『新宿の女』(石坂まさを、みずの稔作詞)で男を信じる切ない女心を情感豊かに歌い上げた。年配の方なら当時の声と姿を鮮烈に覚えているのでないか

 ▼中にこんな一節があった。「何度もあなたに 泣かされた それでもすがった すがってた まことつくせば いつの日か わかってくれると 信じてた バカだな バカだな だまされちゃって 夜が冷たい 新宿の女」。いつか分かってくれると何度もやり直したものの、結局裏切られる。泣かされるのはいつも女。今の時代にはそぐわない価値観だが、昭和にはこの手の演歌が多かった。ところがそんな古めかしい構図を最近まで引きずっていたのが韓国に対する日本の外交である

 ▼戦後処理で事実上の賠償金を言い値で支払ったのに届いていないとされ、いくら謝罪しても足りないと非難され、慰安婦問題は不可逆的に解決したと約束しても反故にされる。日本が「まこと」を尽くしても韓国はどこ吹く風だった。その風向きに少し変化が出てきたようだ。岸田首相が7日に韓国を訪問し、尹錫悦大統領と会談。両国首脳が相互訪問する「シャトル外交」が12年ぶりに復活したのである。歴史問題を完全に解決しないと未来に踏み出せないのはおかしい、というのが尹大統領の持論という

 ▼外相時代に約束を破られた苦い経験を持つ岸田首相が関係改善に積極的というのも強い覚悟があってのことに違いない。理由の一つには高まる一方の北朝鮮の脅威があるのだろう。冷たい夜はそろそろ終わりにしてもいい。


2類相当から5類へ

2023年05月09日 09時00分

 本道出身の歌人山田航さんに、思わずハッと気づかされるこんな短歌があった。「監獄と思ひをりしがシェルターであったわが生のひと日ひと日は」

 ▼外の世界との関わりを制限され、自由がないと思い込んでいたが、振り返ってよく考えると実は守られていた。そういうことでないか。特に若い頃は何かというと親に押さえつけられている気がするものである。親は子を危険から遠ざけようとしているだけなのだが。新型コロナウイルスの感染症法上の分類がきのう、「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられた。自由社会に生きるわれわれにとって、行動制限を伴う2類相当は監獄とはいわないまでもかなり窮屈だった。ただ、それも人々を守るシェルターだったのである

 ▼今後、医療費やウイルス検査は自己負担。感染予防や療養の仕方は原則、個人の判断に委ねられる。手厚く保護してくれるシェルターがなくなるとなれば、降りかかる火の粉を自分の手で払う意識も高まろう。感染症の大規模流行は過去にもあったが、グローバル化が世界を覆った中でのパンデミックは人類初の経験だった。対策の常識が通じない。このコロナ禍は暗闇の中を手探りで歩いていたようなものだ

 ▼済んだことを嘆いてばかりもいられない。米国のコロナとの戦いを描いた『最悪の予感』(早川書房)にあったある研究者の言葉を思いだす。「今回、わたしたちは対応のまずさが身に染みた。しかし、おかげで、次に向けて備え始めることができる」。5類移行も終わりでなく、始まりだろう。


道の駅サーモンパーク千歳

2023年05月08日 09時00分

 これほど成功が目立つ国土交通省の事業も珍しいのではないか。「道の駅」の話である。今やすっかりおなじみ。ドライブには欠かせない施設となった

 ▼ちょっとした休憩やトイレに立ち寄るばかりでなく、道の駅そのものを目的に出かける人も多い。各地を巡るスタンプラリーも相変わらず人気である。地域の特産品を置いていたり、地場産食材を使ったおいしい食事を提供していたり。魅力のある道の駅が増えた。コロナ禍明けでもあり、春の大型連休(GW)はどの道の駅も大にぎわいだったようだ。なのに、この一番の書き入れ時に休んでいる施設があった。当方もGWに近場でドライブを楽しんだのだが、「サーモンパーク千歳」へ行ったところ閉まっていたのである

 ▼見ると9月の再開を目指し改装中との張り紙があった。居合わせた人は皆、がっかり。指定管理者の交代がうまくいかず、テナントともめているのは聞いていたものの、まさか観光シーズンをみすみす逃すまでの事態になっていたとは。指定管理者は4月1日の交代が決まっていた。ところが前の管理者とテナントの間で退去に関する意思疎通が適切にできておらず、テナントは続けられると考えていたらしい。ひのき舞台に店を出す覚悟をし、設備投資もしていたのだから気持ちは分かる

 ▼官の苦手な営利やサービスに民のノウハウを活用する指定管理者制度は有用で、時に交代があるのもやむを得ない。ただ方針が変わるためトラブルになる例もままある。道の駅は地域の顔となる施設。自治体がもう少し交通整理をしてもいい。


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