コラム「透視図」

道政のバトン

2019年04月25日 09時00分

 全国の書店員が一番売りたい本を選ぶ「本屋大賞」の2019年受賞作品が決まった。大賞に輝いたのは瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』(文藝春秋)。幼いころに実の両親と別れ、血のつながらない親の間を転々とし4回も苗字が変わった女性の物語である

 ▼それだけ聞くと不幸な展開を想像するかもしれない。実際は違う。主人公はどの家庭でも愛され、健やかに成長していく。心温まる話である。この小説もそうだが、「バトンを渡す」のひと言から浮かぶイメージは力強く前向きだ。もともと陸上競技のリレー走に端を発する言葉で、ある時点の貴重な成果(バトン)を次の走者に信頼して手渡す動作だからだろう

 ▼本道でも最近バトンの受け渡しがあった。北海道知事を4期16年務めた高橋はるみ氏が22日に任期を終え退任し、翌23日に前夕張市長の鈴木直道氏が新知事に就任したのである。本道初の女性知事から全国最年少の若手知事へ。渡されたバトンはきっとずっしり重かったろう。高橋道政の持ち味は堅実さとしなやかさ。冒険こそしないものの、女性ならではの親しみやすさでメディアやCMにも度々登場し、本道の食や観光を積極的にPRしてきた。優位性を持つ分野の潜在力を顕在化させてきた功績は大きい

 ▼さて、鈴木氏の手腕はいかに。就任記者会見ではまず「攻めの道政、行動する道政」を掲げたそうだ。しばらく続いた堅実路線を、大胆に切り替える決意の表れでないか。道政は終わりのないレース。いろいろな走り方があっていい。バトンは渡されたのである。


日本認知症官民協議会

2019年04月24日 09時00分

 目の不自由な人が道で危険な状況に陥っているのを見て、安全に歩けるようにしたいと考えたのが出発点だったそうだ。点字ブロックを開発した岡山市の発明家三宅精一氏のことである

 ▼氏は試行錯誤の末、1965年に製品を考案。67年に最初のブロックを市内の交差点に敷設した。ところが当初6年ほどはほとんど注目されず、普及も進まなかったらしい。世は高度成長期。福祉への関心がまだ低かったのである。潮目が変わったのは73年頃。バリアフリーの思想が社会に広まり、駅のホームや東京都の福祉施設周辺地域に相次いで採用されてからだったという。氏の弟の三宅三郎一般財団法人安全交通試験センター理事長が財団のHPで振り返っていた

 ▼認知症対応も同じ道を歩むのでないか。おととい、銀行やスーパー、交通機関といった暮らしに関係する団体と認知症の当事者、中央官庁など約100団体が結集し、「日本認知症官民協議会」を立ち上げた。病を得ても暮らしやすい社会の実現を目指す。厚生労働省の推計によると、2025年には認知症患者が高齢者の5人に1人に上る。誰にとっても人ごとでない。自分が発症したとき、駅や銀行に理解のある人がいる、地域に気軽に集える場がある、不安なく出掛けられる環境が整っている―。そうであればどれだけ安心か

 ▼これら対応も点字ブロックのように、遠からず当たり前の存在になっていくに違いない。協議会は今後、当事者の視点を大切に具体策を検討していくという。これを機に認知症に対する一般の意識がさらに高まるといい。


相次ぐ悲惨な交通事故

2019年04月23日 09時00分

 たいていの人はあしたが来ることを疑いもせず日々暮らしているに違いない。ただこの世の現実は「一寸先は闇」である

 ▼タレントの阿川佐和子さんはコンサートの最中に観客が突然死したのを見た経験があるそうだ。エッセーにこう記していた。「人生というのは全く計り知れない」「本人とておそらくコンサートが終わった後、どこで夕食をとろうかとか、翌日の仕事の予定について思いを巡らせていただろう」。東京の池袋で先週、87歳の男の運転する車にはねられて亡くなった31歳の女性も、夕食の献立や子どもとのお出掛けについて思いを巡らせていたのでないか。まさか青信号の横断歩道に、時速100㌔の車が突っ込んでくるとは想像もしていなかったろう

 ▼この事故では自転車に同乗していた3歳になる女性の長女も犠牲になった。痛ましい、というほかない。本人の無念、そして遺族の怒りと悲しみはいかばかりか。どんな謝罪があろうと、二人の明るい「ただいま」の声は二度と聞けないのだ。おとといには神戸市JR三ノ宮駅前で、市営バスがやはり横断歩道を渡っていた人々を次々とひいた。この事故では20歳の女性と23歳の男性が死亡している。運転手の男は64歳のベテランだったという。年齢が関係しているのかどうか。どちらも原因はまだ分かっていない

 ▼人生はこれからという若い、幼い人たちが命を奪われる事故が相次ぐ。実にやるせない。もうすぐ大型連休である。外出の機会も増えよう。交通事故だけは絶対起こさない、遭わない―。どうか一人一人がそんな固い決意を。


他人由来のiPS網膜細胞

2019年04月22日 09時00分

 長年山登りをしていると、高さと行程の目安となる「合目」を信用しなくなる。山麓から1合目、2合目と増えていき、頂上が10合目となるところまではいずこも同じで問題ない。ところがこの目安が大抵あてにならないのだ

 ▼例えば羊蹄山に登ると森林を抜ける6合目までは一定の間隔で標識を見るが、7合目あたりから歩いても歩いても次が出てこなくなる。かと思えば8合目を過ぎたらすぐ頂上に到達する山も。もともと高さを単純に10等分しているのでなく、険しさなど人が実際に歩いた感覚も勘案して決められているのである。さて、それでは理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーの目にはこの研究がどんな山と映っているのだろう

 ▼他人の細胞から作ったiPS細胞を網膜細胞に変え、重い眼病患者に移植する世界初の臨床研究のことである。高橋氏は先週の日本眼科学会で患者5人の経過を観察した結果、安全性が確認されたと発表。「実用化に向け7合目まできた」との見方を示していた。研究対象は「加齢黄斑変性」。移植後1年以上たっても患者5人に目立った拒絶反応はなかったそうだ。自分の細胞で作ると拒絶反応は起こらないものの、作製期間と費用が膨大になる。他人由来ならそれを大幅に低減できるのだとか

 ▼同学会によるとこの病気は日本人の失明原因の第4位で、50歳以上の約1%にみられるという。研究成果は朗報に違いない。7合目まできたとはいえ山登りではそこから険しい「胸突き八丁」の始まることがよくある。気を抜かず一歩一歩頂上を目指してほしい。


巨大IT企業の歪んだ商習慣

2019年04月19日 09時00分

 江戸時代、藩主が愚かだと領民は塗炭の苦しみを味わったようだ。ぜいたくのために年貢を上げ、人々を領地に縛り付けておこうと法を改悪する

 ▼小説家吉川英治は短編「脚」で悪政にあえぐ農民にこうつぶやかせていた。「いッそ、鍬を捨てて、馬口労か、木挽かになろうとしても、役銀をとられるし、油屋、酒屋も株もの、川船で稼げば川運上、雑魚を漁っても、網一つに幾らの税だ」。農民は思う。「一揆だ」。いまやインターネット通販を牛耳る巨大IT企業は、傘下で店を開く取引先にとって藩主のような存在なのかもしれない。有無を言わさず高い手数料を強いたり、一方的に契約条件の変更を迫ったり。取引先に対するそんなIT企業の歪んだ商慣行が幅を利かせているという

 ▼公正取引委員会が17日発表した「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査」で判明した。まさか今どき「生かさず殺さず」でもあるまいが、利益の最大化を狙うIT企業の姿が露わになって興味深い。対象は楽天とアマゾン、ヤフーの3社。取引先の811人から回答を得た。結果を見ると規約は楽天で93.2%が「一方的に変更された」と回答。93.5%が「不利益な内容があった」とした。アマゾンはそれぞれ72.8%と69.3%。利用料も似た傾向である

 ▼これを受け政府は透明性の確保や公平な取引実現に向け新法を検討するそうだ。商売に過度の規制はいただけないが、仮想空間で一揆は起こせないとなればある程度の介入もやむを得まい。ただ、まずは藩主の善政を望みたいものだが。


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