コラム「透視図」

いなかのほんね

2021年04月19日 09時00分

 どこに住み何をして暮らしを立てるか。ほとんどの人が一度は向き合わねばならない問いだろう。巡り合わせによっては、何度かやり直す人もいるかもしれない。それは自分が生きる上で一番大切なものを見つけ出す作業でもある

 ▼最近、そんな人生の一大事について、あらためて考えさせられた本があった。学生たちが道内の過疎地に住む人々にインタビューし、生の声を集めた『いなかのほんね』(中西出版)だ。「不便なところになぜ住むの?」。そんな〝ド直球〟の質問をぶつけられたのは岩見沢市美流渡、毛陽、万字地域に住む10組の方々だった。まとめたのは道教育大の学生26人と美流渡在住の編集者來嶋路子さんである

 ▼「いなか」に暮らすわけも職業もそれぞれだが、共通するのはそこが気に入っていること。横浜から移住し花のアトリエを主宰する大和田誠、由紀子夫妻は旅から戻ったとき感動したという。「こんな静かでよいところに住んでたんだって。帰ってこれたのは幸せだったなあと」。88歳の元左官職人細川孝之さんが美流渡へ越してきたのは、まだ炭鉱華やかなりし80年以上前。市街地での仕事も増えたが、「だんだん離れがたくなっていったんだよね。住めば都だよ」

 ▼札幌から移り住んだ上美流渡のパン屋女将中川文江さんの言葉も胸に染みた。「地方ってダイヤモンドの原石。いろんな人が集まってくると可能性が広がる。そして化学変化していくでしょ」。新型コロナに生き方、働き方の見直しを迫られている今だからこそ、「いなかのほんね」にじっくり耳を傾けたい。


東芝買収劇

2021年04月16日 09時00分

 子どものころによく見ていた米コメディーアニメ『トムとジェリー』(MGM)に時折こんな場面があった。猫のトムが何か選択を迫られたとき、右耳の横に天使が現れ紳士的に振る舞うよう説き、左耳の横には悪魔が現れて自らの欲望に忠実になるようそそのかすのである

 ▼例えばネズミのジェリーを捕まえたとき、天使は「武士の情けだ。逃がしてやりな」、悪魔は「うまいぞ。すぐに食っちまえ」といった具合。経営の混乱が続く大手電機メーカー「東芝」の耳の横にも、そんな天使と悪魔が現れているようだ。英投資ファンド「CVCキャピタル・パートナーズ」が1株5000円程度で全株式を取得すると提案したのに対し、香港ファンド「オアシス・マネジメント」がそれは低すぎるとして「1株6200円以上が妥当」との意見を出したのである

 ▼丸ごと面倒を見るからと低めの株価で買収を持ち掛けるCVCと、いやいや東芝の価値はそんなものじゃないと安値に異を唱えるオアシスという構図か。ただ、高い方が天使といえないのがこの手の話の難しいところ。ファンドは利益を最大化するためさまざまな仕掛けを施す。企業の価値や永続性にはこだわらないファンドも多いのだ。選択を間違えると、うまい所だけ食べられて終わりとなりかねない

 ▼重要な岐路に立たされた東芝だが、14日、車谷暢昭社長が突然辞任した。「トムとジェリー」並みのドタバタぶりである。ここにきて他の米、カナダ系ファンドが買収に乗り出しているとも聞く。どうやら「仲良くけんか」とはいかないようだ。


ヒグマ遭遇事故

2021年04月15日 09時00分

 厚岸町床潭の山林で山菜採りをしていた釧路市の60代男性が10日、ヒグマと遭遇して死亡した。ニュースを聞き、恐怖感を呼び起こされた人も多いのでないか。これから山菜採りが本格化する季節である。人ごとではない

 ▼男性は妻と山林に入っていた。妻が男性の叫びを聞いて駆け付けると、もみ合いになっていたという。妻は助けを呼びに行ったが、戻ったときには既に頭部などをかまれて亡くなっていたそうだ。報道によると母グマが子グマを守るため襲った可能性があるという。現場から少し離れた所に冬眠用の穴があり、そばに子グマの死骸があったらしい。見通しが悪い沢だったのも災いした。不運が幾つも重なった結果の事故だろう

 ▼元来、ヒグマは凶暴な動物ではない。『図解 なんかへんな生きもの』(ぬまがさワタリ絵・文、光文社)にも、「ヒグマは決して血に飢えた殺人モンスターではなく、むしろ(大抵は)穏やかで慎重な性格をした野生動物だ」とある。静かに暮らしたいだけなのだ。実際、ヒグマによる死亡例はそれほど多くない。昨年の道内交通事故死者数が144人なのに対し、ヒグマ事故の死者数は0人。1989年からことし1月までの31年間でも15件しかない。多いように思うのは恐怖心ゆえだ

 ▼とはいえ山に入るときに警戒を怠っていいわけではない。事前に出没情報を集め単独行動はしない。常に周囲に気を配り音で人の存在を知らせる。そんな基本ルールもしっかり守りたい。ヒグマの庭にお邪魔するのである。礼儀をつくして無用なトラブルは避けたいものだ。


ヤングケアラー

2021年04月14日 09時00分

 音楽バラエティーの草分けともいえる『シャボン玉ホリデー』(日本テレビ)の定番コントに、「寝たきりの父親の世話をする孝行娘」があった。父親役はハナ肇、娘役がザ・ピーナッツである

 ▼やりとりは毎回同じ。父親が病気で床に伏せっている。娘「おとうさん、おかゆができたわよ」。父親「すまない、おまえには迷惑ばかり掛けて。おっかあさえ生きていてくれたらな」。娘「それは言わない約束でしょ」。そんな往年の定番コントを思い出したのは、「ヤングケアラー」という聞き慣れない言葉を耳にしたからである。本来なら大人がするべき親兄弟の介護や家事を、日常的に担っている若年者のことだという。もはや子が親に仕える時代ではないが、今でも似たような状況に置かれた若年者はかなり多いらしい

 ▼厚生労働省が昨年12月からことし2月にかけて初の実態調査を実施。結果をおととい発表した。「世話をしている家族がいる」と回答した中学2年生が6%、高校2年生が4%いたそうだ。学校基本調査の2020年度データを見ると、中学生は全国で321万人、高校生は308万人。先の比率だと、およそ中学に19万人、高校に12万人のヤングケアラーがいる計算になる。家庭のことだけに誰にも相談できず、抱え込む子どもも少なくないのだとか
 
 ▼調査では健康状態が悪かったり、学業や部活に支障が出たりと深刻な影響が出ている実態も明らかになった。早く見つけて福祉支援につなげる必要がある。こればかりはコントのように「お呼びじゃない」と逃げるわけにはいかない。


太陽光発電施設が里山壊す

2021年04月13日 09時00分

 里山にはどこか郷愁を呼び起こす趣があるようだ。街で生まれ育った人でもその風景にはなぜか不思議と懐かしさを感じる。毎日の暮らしと密接なつながりを持つ里山に親しんできた人はなおさらでないか

 ▼国木田独歩もそうだったらしい。故郷への募る思いを詩『山林に自由存す』にこうつづっていた。「山林に自由存す われ此句を吟じて血のわくを覚ゆ 嗚呼山林に自由存す いかなればわれ山林を見すてし」。山林と聞くといささか雅趣に欠けるが、里山のことである。独歩は故郷を離れて10年が過ぎたころ、自分が世間のしがらみに縛られている現実に気付いた。かつて自由に駆け回った山林を喪失感とともに懐かしく思い出したに違いない

 ▼独歩はじめ多くの人の愛した里山だが、最近は消滅に一層の拍車が掛かっているそうだ。太陽光発電所にどんどん埋められているのである。国立環境研究所が初の調査を実施し、太陽光発電による土地改変で最も失われたのは里山だったとの結果を先日発表した。施設は国内に8725カ所あり、面積は合わせて229平方㌔mに達する。その66%が10㍗以下の中規模型。二次林・人工林、人工草原、水田、畑といった里山地域での設置がほとんどを占めるという

 ▼同研究所は身近な自然や生態系を損なっていると警鐘を鳴らす。昨今は不良施工によるパネル崩壊や土砂流出も目立つ。業者に環境影響評価を課す自治体も出てきたが、国はいまだ見ないふり。太陽光発電の健全な発展には適切な設置管理が必要だろう。「山林にパネル存す」では風情がない。


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