山登りを趣味にしていると、登った経験のない人からよくこんなことを言われる。「頂上からの眺めは素晴らしいんでしょうね。一度見てみたい。でも体力も根気もないから一生その景色は見られないわ」
▼誰でも自分のペースをつかめば大丈夫と話すのだが、できないと思い込んでいるとなかなか一歩が踏み出せないものらしい。そこまで行けば一息つけると頭では分かっていても、気持ちがついてこないのである。岸田首相が13日表明した「こども未来戦略方針」を聞き、そんなやりとりを思い出した。方針は首相肝いりの「次元の異なる」少子化対策を実現するためのもので、児童手当の拡充など子育て中の夫婦への手厚い支援を打ち出してはいる。ただ、今はその前提となる婚姻の数自体が減っているのだ。そちらに目を向けないと結果はついてこないだろう
▼子どもがいたら楽しいし、国からの支援でいくらか安心と思っても、それで男女が出会いの機会を増やし、婚姻数が急に伸びるわけではあるまい。いくら首相が景色の美しさを訴えても、そもそも山に登る人が少ないのである。2010年には70万件あった婚姻が21年には51万件と、この10年で20万件近く減った。コロナ禍の影響はもちろん、長引くデフレのしわ寄せが若い人たちに集中したのが大きい。先々の苦労を考えると結婚できない、しない若者が多くなるのも当たり前だ
▼首相は何かというと増税や社会保険負担の増額をちらつかせる。物価高騰と相まって、結婚に二の足を踏む若者をさらに増やすだけでないか。まだ山の頂は遠い。