コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 6

こども未来戦略方針

2023年06月15日 09時00分

 山登りを趣味にしていると、登った経験のない人からよくこんなことを言われる。「頂上からの眺めは素晴らしいんでしょうね。一度見てみたい。でも体力も根気もないから一生その景色は見られないわ」

 ▼誰でも自分のペースをつかめば大丈夫と話すのだが、できないと思い込んでいるとなかなか一歩が踏み出せないものらしい。そこまで行けば一息つけると頭では分かっていても、気持ちがついてこないのである。岸田首相が13日表明した「こども未来戦略方針」を聞き、そんなやりとりを思い出した。方針は首相肝いりの「次元の異なる」少子化対策を実現するためのもので、児童手当の拡充など子育て中の夫婦への手厚い支援を打ち出してはいる。ただ、今はその前提となる婚姻の数自体が減っているのだ。そちらに目を向けないと結果はついてこないだろう

 ▼子どもがいたら楽しいし、国からの支援でいくらか安心と思っても、それで男女が出会いの機会を増やし、婚姻数が急に伸びるわけではあるまい。いくら首相が景色の美しさを訴えても、そもそも山に登る人が少ないのである。2010年には70万件あった婚姻が21年には51万件と、この10年で20万件近く減った。コロナ禍の影響はもちろん、長引くデフレのしわ寄せが若い人たちに集中したのが大きい。先々の苦労を考えると結婚できない、しない若者が多くなるのも当たり前だ

 ▼首相は何かというと増税や社会保険負担の増額をちらつかせる。物価高騰と相まって、結婚に二の足を踏む若者をさらに増やすだけでないか。まだ山の頂は遠い。


太陽光バブル

2023年06月14日 09時00分

 土地の資産価値が異常な高騰を見せた、1980年代後半から90年代にかけてのバブル経済の記憶はいまだ生々しい。市街地では地上げが横行し、リゾート関係地では買いあさりが進んだ。人里離れた原野のような土地が虫食い状態で売られるケースも多々あった

 ▼悪徳業者の甘い誘いに乗せられた人が現地も確認せずに購入したのである。どんな土地でも売ればほぼ買い手がつく、とにかく投機熱の高い時代だった。バブルがはじけた後の状況はご存じの通り。土地の価格は暴落し、誰の持ち物かも分からない未利用地が全国にあふれた。そのほとんどはいまだ所有者不明土地として開発や環境保全、防災の妨げになっている。そんな過去の亡霊が姿を変えてまた現れているようでないか

 ▼「野良ソーラー」などともやゆされる、管理がずさんな太陽光発電施設のことである。再生可能電力の高値買取を保証した固定価格買取制度(FIT)に金もうけの臭いを嗅ぎつけた事業者が、日本中に乱立させたのだった。大方の事業者は誠実に取り組んでいよう。ただ、FIT導入から10年が過ぎ、無責任に投げ出される施設が増えている。周辺環境や住民を無視し、強引に設置しようとする動きも後を絶たない

 ▼釧路湿原も複数の開発計画で保全が懸念されていたが釧路市は12日、中止や見直しを求めるガイドラインを公表した。ぎりぎりのところである。この太陽光バブルをつくったのは普及を急ぎ、制度を甘くした政府だろう。小手先の改善や地方任せでごまかさず、率先して事態の収拾に当たってもらいたい。


全仏オープンテニスの加藤選手

2023年06月13日 09時00分

 社会通念から逸脱した理不尽な校則を俗に「ブラック校則」と呼ぶそうだ。従業員の人権や健康を無視する「ブラック企業」を援用した言葉だろう。実際、子どものころ、おかしな校則に悩まされた人も多いに違いない

 ▼髪の長さや服装は定番で今更驚きもしないが、冬にマフラーやコートが禁止と聞くと頭に大きな疑問符が浮かぶ。校則に黒髪とあるため、地毛の茶髪を黒く染めるよう強制された例もあるのだとか。学校や教師が目の前の現実を見ようとせず、ルールにのみしばられているからそんな人を人とも思わない対応ができるのだろう。教育のための校則なのに、校則が威張って一人歩きしている

 ▼学校は狭い社会だからと笑ってばかりもいられない。どうやらこちらでも「ブラック」がまかり通っているようだ。全仏オープンテニスの女子ダブルス3回戦で、加藤未唯選手の打球が誤ってボールガールを直撃。危険行為と認定されてその場で失格の上、ポイントと賞金まで没収された一件のことである。審判は当初、警告としたものの、対戦チームの猛抗議で一転、失格を言い渡した。ビデオを確認してくれとの加藤選手の要望にも、ルールにないからと一切耳を貸さなかったらしい

 ▼多くの選手や報道関係者は審判への非難一色。そんな中で11日、全仏の責任者が失格はルールブック通りだと審判への支持を表明した。ばかげたブラック校則を盾に、思うまま生徒を押さえつける教師をかばう校長といった構図である。選手たちが最高の力を出せるようルールはある。本分を忘れているのでないか。


ウクライナでダム決壊

2023年06月10日 09時00分

 スタジオジブリの映画『ハウルの動く城』(宮崎駿監督)では、魔法使いハウルと荒れ地の魔女に呪いをかけられた少女ソフィーとの恋愛模様が描かれる。見ていて胸躍る映画で大ヒットしたが、ただ華やかで楽しいばかりの作品ではなかった。悲惨な戦争が物語に重みを加えていたのである

 ▼魔法によって人の心を奪われ、兵器に変えられた者たちが殺し合い、街々を破壊していく。そんな世界が舞台になっていた。為政者が権勢を誇りたいがために起こした愚かな戦争。国土は荒れ、庶民は疲弊していく。戦争をやめさせようと当事国に乗り込んだハウルにやっと一方の王室付き魔法使いが言うのである。「このくだらない戦争を終わらせましょう」

 ▼ウクライナ南部ヘルソン州で6日発生したカホフカ水力発電所ダム決壊のニュースに触れ、その場面を思い出した。ただし現下の状況では、「このくだらないロシアの侵略を終わらせましょう」がより適切な表現だろう。流域住民の洪水被害があまりにひどい。浸水は東京23区が丸ごと飲み込まれる規模で、80を超える町や村が被災したという。どれほどの命と財産が危険にさらされたことか。日本も毎年、水害に悩まされる。人ごとと思えない人も多かろう

 ▼ロシアの破壊工作か事故かはまだ分かっていないものの、侵略がなければ惨事は避けられた可能性が高く、起きても救助活動が円滑に進んだはず。プーチン大統領の愚かな大国主義がまた一つ不幸を呼び込んだ。しかも最悪の形で。「侵略を終わらせよ」。そう叫ぶ国際社会の声はますます大きい。


5類移行1カ月

2023年06月09日 09時00分

 米国の人気テレビドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(ネットフリックス)を毎回楽しく見ている。同好の士もいるのでないか。インディアナ州のごく平凡な田舎町ホーキンスを主な舞台とするSFホラーである

 ▼誰もが穏やかに暮らす町で、ある時から謎の失踪や奇妙な殺人など怪異な出来事が起こり出す。戸惑うばかりの大人を尻目に、仲良しグループの子どもたちが真相解明に乗り出すのだが…。物語には超能力者や裏側の世界、怪物、ソ連の陰謀まで出てきて飽きさせない。ちなみにソ連というのは設定が1980年代だからである。ドラマは今、シーズン4。各シーズンの最後は毎度、事件が一段落はするものの、恐怖はさらに続くと不穏な雰囲気を漂わせて終わる

 ▼こちらも制度上はいったん区切りを付けたところだが、やはり不穏な雰囲気は引きずったままである。新型コロナウイルスの感染症法の位置付けが、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられて1カ月が過ぎた。もとより制度が変わったからといって、ウイルスが「ではこの辺でお開きに」と気を利かせてくれるわけではない。福岡市では6日、中学と高校でクラスターが発生し、休校措置をとったという

 ▼札幌医大の推計でも、5月28日現在の7日間新規感染者数が東京で前週比12%増、大阪で16.2%増、本道でも5.1%増と拡大傾向にある。以前のような厳しさは必要ないが、メリハリの効いた感染予防を各自心掛けたい。大団円の結末を引っ張るのはドラマだけにしてもらいたいが、こればかりは。


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