コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 7

吉野ヶ里遺跡の石棺墓

2023年06月07日 09時00分

 弥生時代中後期の日本にあったとされる一つの国「邪馬台国」はどこだったのか。歴史愛好家ならずとも興味をひかれる話題だろう

 ▼中国の歴史書「魏志倭人伝」に「女王が都するところ」と記載され、その存在が知られることになった。都は7万戸以上の規模だというから、当時としては相当大きな勢力だったはず。ところが場所が特定できない。九州説と近畿説があり、決定的な証拠のないまま現在に至っている。分からないことは知りたくなるのが人の常。学者以外でも探求に乗り出す人が多くいた。九州説をとる作家松本清張もその一人。1972年の著書『邪馬台国の謎を探る』(平凡社)に「九州の北部のどこかに存在していたというだけでよいと考えている」と記し、答え合わせを後の研究に託していた

 ▼今回、答えにつながる新発見があるかもしれない。魏志倭人伝の邪馬台国と合致する部分が少なくない佐賀県の「吉野ヶ里遺跡」で5日、4月に見つかった石棺墓の内部調査が始まったのである。墓は約1800年前のもの。昨年まで神社があり、発掘調査ができなかった区域から出土したそうだ。4枚の石ぶたで閉じられていたが、開くと高い地位を示す赤色顔料の跡があり、見晴らしのよい所にあった事実も勘案すると有力者の墓の可能性が高いらしい

 ▼吉野ヶ里邪馬台国説が有望視されながら足踏みしていたのは、まさにその有力者の墓がなかったため。それがあったとなるとパズルのピースがぴたりとはまる。全容は1週間ほどで判明するという。論争に終止符が打たれるのかどうか。


還暦のくろよん

2023年06月06日 09時00分

 多くの人に「くろよん」の名で親しまれてきた富山県の関西電力黒部川第四発電所(黒部ダム)がきのう5日、竣工60周年を迎えた

 ▼人間でいえば還暦に当たるとはいえ、満期退職でも定年延長でもなく、まだまだ第一線で活躍する現役の働き手である。出力の33万5000㌔㍗は、揚水式を除く水力発電所の能力としていまだ全国4位の実力を持つ。少々ガタがきている同年配としては実にうらやましい限りである。戦後の急速な社会復興と高度経済成長が重なり、危機的な電力不足に陥っていた関西地方を救う「世紀の大工事」といわれた。富山の山奥に建設されたアーチ式一部重力式ダムは高さ186m。延べ1000万人を投入し、7年という異例の短工期で完成させた。資機材運搬の要「大町トンネル」での噴出する地下水との闘いは今も語り草である

 ▼大規模事業は初期投資こそ巨額だが、長く使えば使うほど「B(便益)/C(コスト)」のBの部分が大きくなっていく。くろよんもその典型だろう。こちらも還暦超えで「B/C」の改善と脱炭素社会の進展に寄与することは間違いない。既存原子力発電所が60年以上運転するのを認める「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が先週、国会で成立した

 ▼脱炭素社会の実現に向け、COを排出しない原発を見直すのは世界的な流れ。設備の長期利用は相対コストを下げ、電力会社の経営計画にも余裕が生じる。電気料金の安定にも効果があろう。日本のインフラは元来つくりがしっかりしている。60歳は通過点にすぎない。


去年の漁獲量は過去最低

2023年06月05日 09時00分

 子どものころの話である。三度の食事の合間に腹がへったとき、軽くご飯を食べるのに重宝したおかずが「さんま蒲焼」缶詰だった。よく分かる、という人も少なくないのでないか

 ▼ご飯にサンマの身を乗せ、少しとろみのついた甘じょっぱいタレをその上からたっぷり回しかける。骨まで柔らかいサンマと、タレの染みたご飯のうまいことといったら。記憶に強く残っているのは、食べる機会が多かったからだろう。家には常に買い置きがあった。それだけ安かったわけだ。当時の値段は分からない。ただ、10年ほど前までは3缶パックが300円以下で売られていた。最近見ると定番の商品に800円近い値がついている。思わず小さく叫んでしまった

 ▼サンマの漁獲量が激減したためだが、どうやら危ないのはこれだけではない。農林水産省が先週発表した2022年の「漁業・養殖業生産統計」によると漁獲量は前年比7.5%減の385万8600㌧で、比較可能な1956年以降最少を記録したそうだ。魚種別に見るとサバ類とカツオの不漁が目立つ。サバ類が28.5%減の316万㌧、カツオが28.6%減の175万㌧とどちらも3割近く減少している。温暖化による海水温や海流の変化といった漁場環境悪化をはじめ、各国の排他的経済水域の見直し、乱獲などが複雑に影響しているらしい

 ▼おかずに困ったときのお供缶詰として、「さんま蒲焼」と双璧をなす「さばみそ煮」まで高騰するともうお手上げだ。「水揚げの鯖が走れり鯖の上」石田勝彦。そんな風景が戻ることを祈るばかりである。


北海道と九州

2023年06月02日 09時00分

 明治維新後の日本で急激に増すエネルギー需要を賄うのに、中心的役割を果たしたのが石炭だった。用途は船舶や鉄道といった輸送用の動力から、製鉄に必要な熱源まで多岐にわたる

 ▼炭鉱経営自体は財閥や大手の企業が手掛けたが、政府も国策として開発を推し進め、資金をつぎ込んだ。まず九州の高島(長崎)や筑豊(福岡)で産業の近代化と集積を図り、次いで北海道の幌内や夕張に手を広げていったのである。富国強兵のためにはエネルギーがいくらあっても足りない。しかも他国に頼れない時代だ。自国で調達するしかなかった。そこで必要な全量のほとんどを供給していたのが、日本の北と南に位置する北海道と九州だったのである

 ▼デジタル化の進展で「産業のコメ」とも呼ばれる半導体の一大生産拠点が、やはり北海道の千歳市と九州の熊本県菊陽町にできるという。北と南に位置する両地域が時代を超え、再び産業や暮らしに欠かせない製品を生み出す主要な役割を担うことになるとは感慨深い。先行したのは熊本で、台湾の世界的な半導体メーカー「TSMC」が進出。来年12月の操業開始を目指し工場建設が進む。次いでことし決まったのがRapidus(東京)の千歳での新工場建設である

 ▼経済産業省は5月30日、「半導体・デジタル産業戦略」で北海道と九州を新たな中核拠点とし、費用の半分を補助する方針を打ち出した。高性能な半導体の自国生産が今後の国の盛衰を左右するだけに、政府も必死なのだろう。北海道と九州が日本の産業の新たな活力になる。そんな日も近い。


自公政権

2023年06月01日 09時00分

 きょうは「ねじの日」なのだそうだ。日本産業規格(JIS)にねじ製品類が指定されたのが1949年の6月1日。それを記念して業者団体が定めた日という

 ▼以前読んだ技術史物語『ねじとねじ回し』(ハヤカワ文庫)には、「この小さな道具こそ、千年間で最大の発明」と記されていた。目立つ道具ではないが、日用品から精密機械まであらゆる部分に使われ、物と物とをつなぐのに重要な役割を果たしている。特長は木材や鉄、プラスチックといった異質な材料も組み付けられるところ。しかも簡単に扱え、信頼性も高い。ただ、一つ注意する点があるとすれば、長い年月を経たり衝撃が加えられたりすると緩む場合があることだろう

 ▼そんなあれこれが頭に上ったのは、ニュースを通して最近の自民党と公明党の関係に触れたからである。両党をつないでいたねじだが、かなり緩んできているのでないか。衆院小選挙区の「10増10減」に伴う東京の候補者調整で対立が激化。協力解消の事態に陥っている。99年の初連立から既に24年。安全保障や憲法改正、経済財政運営と基本政策に違いのあった異質な両党の組み合わせに、当初は意外の念を抱く人も多かった。『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)で元首相も「風雪に耐えた連立」と語っている

 ▼四半世紀もたてばそれぞれの材料も経年変化は避けられない。両党とも昔とは事情が違ってきていよう。ねじが緩むのも当たり前。問題はその先である。増し締めをするのか、いったん外すのか、はたまた別の材料に取り換えるのか。せめぎ合いが続く。


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