コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 84

菅首相退任

2021年09月08日 09時00分

 菅首相が3日、自民党総裁選に立候補せず、任期いっぱいで退任する意向を表明した。驚いた人も多かったろう

 ▼報を聞き、あらためて氏の著書『政治家の覚悟』(文春新書)を読み返すとこんな一文に目が止まった。「政治がしっかりと方向性を示し、国民の皆様にもご協力をお願いすることが必要です。しかし、そのためには、同時に政治家自身が国民の皆様への説明責任をしっかりと果たしていく必要がある」。なぜ政権を維持できなかったか。将来を予想していたわけではあるまいが、昨年10月に出した本に図らずも答えを記していたようだ。同9月の首相就任から1年、国民にしっかり向き合い、説明する姿を見る機会はさほど多くなかった。自ら約束したことをしないのでは見放されても仕方ない

 ▼「緊急事態宣言を今回で最後にする」と大見得を切っては何度も宣言を繰り返し、野党やマスコミからたたかれ続けたのも痛手だったろう。いつの間にか、すっかり「物言えば唇寒し」になってしまった。とはいえこれまでの実績を全く評価しないのもフェアではない。携帯電話料金の引き下げや福島第1原発の処理水放出で見せたリーダーシップはなかなかのもの。最大の功績は何といってもワクチンである

 ▼ワクチンがまだ形にもなっていない昨年から確保に道筋を付け、不可能だと笑われても1日100万回接種の旗を降ろさなかった。常識にとらわれ接種が遅れていれば、第5波でどれだけ死者が出ていたか知れない。政治家の覚悟は確かにあったと見るべきだろう。ただ言葉は足りなかった。


パラリンピック閉幕

2021年09月07日 09時00分

 スーパーなどの売り場に並ぶ種々の食品トレー容器を製造販売するエフピコ(本社・福山、東京)は、障害のある人が数多く現場で活躍しているそうだ。『小さくてもいちばんの会社』(坂本光司、講談社)に教えられた

 ▼知的障害のある子どもの親の会「あひるの会」との交流から1986年に雇用を開始。特別に用意した仕事をあてがっているわけではない。全員が正社員として、製造の基幹業務に携わっている。その働きは雇用の受け皿になってきた特例子会社の社長をして「機械ですらミスが多く、彼らの仕事にはかなわない」と言わしめるほど。適切な場や機会があれば障害者がどれだけ力を発揮できるか証明する事例だろう

 ▼パラリンピックもそういった場や機会の一つに違いない。「彼らにはかなわない」と驚きと感動をくれるところも同じである。手足がない、目が見えない、体が自由に動かない―。気の毒との思いを拭えないまま見始めるのだが、途中から障害など全く気にならなくなっている。競泳、陸上、ラグビー、テニス、ボッチャ。全22競技539種目。選手たちのプレーを純粋に楽しんでいる自分がいた。観戦していたほとんどの人がそうだったろう

 ▼当初はリハビリを兼ねていたというが、現在はルールが細かく設定されているだけの普通のスポーツ競技会と変わらない。しかも障害を持つ人と持たない人が同じ社会で分け隔てなく暮らすにはどうすればいいかを示唆してもいる。東京2020パラリンピックが5日、閉幕した。多くの人が共生のバトンを受け取ったのでないか。


渋沢1万円札印刷開始

2021年09月06日 09時00分

 日本実業界の父と呼ばれる渋沢栄一の生涯を描くNHKの大河ドラマ『青天を衝け』は、次回からいよいよ「明治の栄一編」に入る。多くの人が知る渋沢翁の業績はここからのものだろう。新編では市場経済の担い手となる実業界を、ゼロからつくり上げていく姿が見られるはず。今から楽しみである

 ▼パリ編最後となる前回の放送では、新編につながる紙幣との出会いに触れていた。明治政府発行の太政官札である。1868年の動乱期に出されたこの札は偽造が容易でかえって経済を混乱させた。そこで政府はドイツに印刷を依頼し、72年にあらためて精巧な紙幣を発行。この時の責任者が大蔵省紙幣頭の渋沢翁だった。後に国立銀行の設立を進め、日本初の近代的な銀行券の発券にも力を尽くしたのはご存じの通り

 ▼よほど紙幣に縁のある人とみえる。2024年度上半期発行が予定される新デザインの1万円札に肖像が使われるのは当然かもしれない。1日に東京都内の国立印刷局で印刷が始まったそうだ。紙幣を刷新する一番の理由は昔と変わらず偽造防止である。新札には世界初の最先端ホログラム技術が導入され、斜めにすると肖像が動いて見えるという。視覚障害者や外国人も識別しやすいよう、紙を立体化したり、色や字体を工夫しているのも特徴だ

 ▼初代1万円札の聖徳太子に慣れ親しんだ世代には、昭和も遠くなりにけりの思いがあろう。二代目の福沢諭吉も在任40年である。高度経済成長からバブル、失われた30年を経て、渋沢翁の新1万円札は次にどんな世の中を見ることになるのか。


眞子さま年内結婚

2021年09月02日 09時00分

 封建時代の気風がまだ色濃く残る明治中期には相当に勇気のいることだったろう。歌人の与謝野晶子は作品で女性の奔放な側面をおおらかに描き続けた。歌集『みだれ髪』が殊によく知られる

 ▼私生活もそのままだったらしい。既に結婚していた与謝野鉄幹に恋をし、不倫関係に陥った末、ついに自分のものにしてしまったのは有名な話。現代なら週刊誌やテレビのワイドショーが〝略奪婚〟と騒ぎ立てるに違いない。そんな情熱的で一途な晶子の性格が表れている詩に「恋」がある。前段を引く。「わが恋を人問ひ給ふ。わが恋を如何に答へん、譬ふれば小き塔なり、礎に二人の命、真柱に愛を立てつつ、層ごとに学と芸術、汗と血を塗りて固めぬ。塔は是れ無極の塔、更に積み、更に重ねて、世の風と雨に当らん」

 ▼秋篠宮家の長女眞子さまと婚約内定者の小室圭さんが年内に結婚されるとの報に触れ、この詩を思い出した。眞子さまも世の風と雨に当たるのをいとわず、2人の恋を押し通すことにしたようだ。物静かで聡明との印象だが、情熱的で一途な面もおありらしい。金銭問題を抱える小室さんとの結婚に反対する人が多い中での決断である。皇籍を離脱し一時金も辞退、婚約や結婚の儀式もしないという

 ▼先の詩はこう続く。「猶卑し、今立つ所、猶狭し、今見る所、天つ日も多くは射さず、寒きこと二月の如し。頼めるは、微かなれども 唯だ一つ内なる光」。眞子さまも二人の立つ所が寒きことは誰より承知していよう。それでも内なる光を信じて進むと決めたのだから、後は見守るほかない。


防災の日

2021年09月01日 09時00分

 日本語学者森田良行氏が著書『日本語をみがく小辞典』(角川ソフィア文庫)に、「流れる」の付いた言葉には「ろくでもない事柄ばかりしかないようだ」と記していた

 ▼流れ弾、流れ者、流れ歩く、質流れ。並べられた幾つかの例を見ると確かにその通り。外から働く勢いに負けて本来の位置からずれていく現象を表すため、「常軌を逸する」「自己を失う」といったマイナスの印象が定着したのだと氏は説明する。あまり良い印象がないのには雨が多い日本の気候風土も大いに関係しているのでないか。堤防が決壊して家が流されたり、土石流が発生して集落が飲み込まれたり。「流れる」の言葉にはとかく自然災害の影がつきまとう。ことしも梅雨時から今月にかけて常軌を逸する長雨や豪雨が相次いだ

 ▼「秋出水まっすぐ我に向かって来」久保田孝子。秋出水とは川の氾濫による洪水を指す秋の季語である。きょうは防災の日。由来は関東大震災にあるが、この時期に多い台風への備えも呼び掛けるものだ。三つが上陸、一つが最接近して本道に甚大な被害をもたらした2016年の台風も8月中旬から月末にかけての今頃だった。そこで得られた多くの教訓と難しい災害復旧に心血を注いだ関係者の奮闘は、きのうまで本紙1面で連載していた「連続台風から5年」に詳しい

 ▼使い古された言い方ではあるが、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という。人は日常に流されているうち、大切な教訓も忘れてしまうものだ。機会あるごとにこういった事例などに触れ、災害への思いを新たにする必要があろう。


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