菅首相が3日、自民党総裁選に立候補せず、任期いっぱいで退任する意向を表明した。驚いた人も多かったろう
▼報を聞き、あらためて氏の著書『政治家の覚悟』(文春新書)を読み返すとこんな一文に目が止まった。「政治がしっかりと方向性を示し、国民の皆様にもご協力をお願いすることが必要です。しかし、そのためには、同時に政治家自身が国民の皆様への説明責任をしっかりと果たしていく必要がある」。なぜ政権を維持できなかったか。将来を予想していたわけではあるまいが、昨年10月に出した本に図らずも答えを記していたようだ。同9月の首相就任から1年、国民にしっかり向き合い、説明する姿を見る機会はさほど多くなかった。自ら約束したことをしないのでは見放されても仕方ない
▼「緊急事態宣言を今回で最後にする」と大見得を切っては何度も宣言を繰り返し、野党やマスコミからたたかれ続けたのも痛手だったろう。いつの間にか、すっかり「物言えば唇寒し」になってしまった。とはいえこれまでの実績を全く評価しないのもフェアではない。携帯電話料金の引き下げや福島第1原発の処理水放出で見せたリーダーシップはなかなかのもの。最大の功績は何といってもワクチンである
▼ワクチンがまだ形にもなっていない昨年から確保に道筋を付け、不可能だと笑われても1日100万回接種の旗を降ろさなかった。常識にとらわれ接種が遅れていれば、第5波でどれだけ死者が出ていたか知れない。政治家の覚悟は確かにあったと見るべきだろう。ただ言葉は足りなかった。