コラム「透視図」

ALS患者嘱託殺人

2020年07月28日 09時00分

 シェイクスピアの作品を読んでいなくとも、悲劇『ハムレット』のこのせりふを知っている人は多いのでないか。「生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ」

 ▼できればそんな局面に立たされたくはないが、運命は時に残酷だ。人に究極の選択を強いる場合がある。難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)に苦しみ、安楽死を願ってSNSで知り合った医師に薬物の投与を依頼した女性も、そう悩んだ末のことだったろう。女性は昨年11月30日、急性薬物中毒で死亡。投与に関わった2人の医師が先週、嘱託殺人の疑いで京都府警に逮捕された。報道によると女性はおととしの春頃から、SNSで安楽死を希望する思いを発信していたらしい

 ▼生を全うすべきか、安楽死という名の自殺を容認するべきか。まだ日本に合意できる答えはない。文芸評論家本多秋五はかつて論集『芸術・歴史・人間』で自殺を肯定的に捉えこう記していた。「生命が死にも劣る状態に置かれるのを耐えがたく思えばこその自殺ではないか」。反対の見方もある。劇作家の倉田百三は知人が重度の肺結核を悲観して自殺した現場に遭遇。温かさの残る手を握ったとき、「生に対する無限の信仰と尊重とを抱いて立つとき自殺は絶対的の罪悪ではあるまいか」(『愛と認識との出発』)と感じたそうだ

 ▼難しい。ただ女性も一人で抱え込むのでなく周りの人と共に考えられたらよかった。ALSでも前向きに生きる人はたくさんいる。そうなれたかもしれないのだ。手を貸した医師は最初から死なせる方にしか関心がなかったとしか思えない。


ホッキョクグマ絶滅

2020年07月27日 09時00分

 荒々しい大地にエスキモー、ホッキョクグマ、オーロラ―。北米アラスカの自然を撮り続けた写真家の星野道夫さんは、かつて世界の多様性と心の豊かさについてこんなことを語っていた

 ▼「ぼくたちが毎日を生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい」(『旅をする木』文藝春秋)。われわれは日頃、仕事や家事、雑事に追われて暮らしている。当たり前すぎて追われていることにも気付かないほどだ。そんな中で、例えば自分が生きている同じ時代にホッキョクグマがのっしのっしと歩いている事実を意識できたとしたらどうだろう。少しほっとするような、豊かな気持ちになるのでないか

 ▼そう問い掛けていた星野さんがもし今も生きていれば、このニュースを聞いてがっかりしたに違いない。2100年までに、ホッキョクグマはほぼ絶滅するとの論文が発表されたという。先週、英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジに掲載されたそうだ。AFP時事が伝えていた。気候変動の影響で海氷が減り、餌のアザラシを狩れる時間が確保できなくなっているのが主な原因らしい。ホッキョクグマといえども泳ぎ続けてばかりはいられないのだ

 ▼これまでも絶滅の危機は叫ばれていたが、期限を明らかにした研究は今回が初めてという。ホッキョクグマがいなくなると一つの時間が永久に消える。地球からまた少し多様性が失われるわけだ。心の豊かさは言うに及ばず。


ゲリラ豪雨

2020年07月22日 09時00分

 本道ではあまり見られないが、夏の風物詩の一つに夕立がある。少し前まで晴れていたのに突然激しく降り出し、すぐに上がってしまう。その特徴から各地で独特の名が付けられている

 ▼群馬県の一部では「山賊雨」と呼ばれているそうだ。稲刈り中に雷光を見たと思ったら三束を刈る間もなく土砂降りになるからだという。「三束」が「さんぞく」に転じたわけだ。長崎県では「婆威(ばばおど)し」の異名を持つ。雨は生活や災害と密接に関わるだけに、「名は体を表す」で分かりやすい名が付けられているのだろう。その伝でいくと、近年最も知られている新しい雨の名は「ゲリラ豪雨」でないか。風情はないものの突如襲ってくる感じがよく出ている

 ▼そのゲリラ豪雨が今夏、夕立もほとんどなかった本道で数多く発生するかもしれないという。これから9月にかけて、過去5年平均の約1・7倍に当たる220回もの発生が予想されているのだ。民間気象会社ウェザーニューズ(千葉市)が先週発表した。今期は太平洋高気圧の西への張り出しが強いため、東・西日本では天気が安定する半面、高気圧の縁の北日本では湿った空気が流れ込みやすくなるのだとか。集中するのは8月上旬らしい

 ▼ゲリラ豪雨は予報の網をすり抜けて発生するから厄介だ。時間は短くとも大量に降るため、街なら都市型水害、川の上流域なら下流域の氾濫や土石流が懸念される。降水範囲が狭いため近隣でも案外危険を察知しにくい。道民は山賊にもゲリラにも不慣れである。常に情報を集め最悪の事態だけは回避したい。


夜の街

2020年07月21日 09時00分

 昭和演歌には夜がよく似合う。思わぬ出会いや悲しい別れの舞台になるからだろう。ネオンライトに照らされた街は常ならぬ空間となり、そんな物語を作り出す

 ▼藤圭子さんのすごみある声が印象深い『圭子の夢は夜ひらく』(石坂まさを作詞、曽根幸明作曲)もそういった歌だった。しかもお相手は毎日変わる。「昨日マー坊 今日トミー 明日はジョージか ケン坊か 恋ははかなく過ぎて行き 夢は夜ひらく」。今のご時世だと、この歌が事実なら「夢は夜ひらく」というより「感染は夜広がる」だなと冗談の一つも言いたくなるところである。夜ごと付き合う相手をとっかえひっかえするのは、一人でも多く感染者を出そうとしている新型コロナウイルスの思うつぼでないか

 ▼ホストクラブや風俗店まがいのキャバクラで最近、クラスターが発生する例が相次いでいる。気持ちが緩んだせいか、10万円が手に入ったからか、特に20―30歳代の比較的若い人が「夜の街」に繰り出し、感染を広げているという。ススキノのキャバクラでも先日、クラスターが発生してしまった。濃厚接触者は600人に上るとの話もある。しかも風俗的な業態だけに自ら名乗り出る人も少なく、追跡は困難を極めているのだとか

 ▼やはり大切なのは水際対策。政府は「夜の街」の積極的な立ち入り調査に踏み切るそうだ。日常を忘れて楽しむ空間に政府の介入は好ましくないが、事ここに至っては仕方あるまい。藤さんは歌の最後で「一から十まで 馬鹿でした」と歌っていた。「夜の街」はそんな人ばかりではないのだが。


藤井聡太七段が新棋聖に

2020年07月20日 09時00分

 青年期は際限の無い可能性に期待を膨らませると同時に、先の見えない未来への不安におびえる時期でもあるということだろう。「青年の日はながくしてただつよくつよく噛むだけのくちびる」光森裕樹。まだ感受性がみずみずしいだけに、唇をかむような1日はいつまでも終わらない気さえして苦しい

 ▼圧倒的強さを見せつけて勝利したこの17歳の青年も、そんな唇を強くかむ長い1日を何度も経験したはずである。将棋の棋聖戦で、挑戦者の藤井聡太七段が渡辺明三冠(棋王、王将、棋聖)を破りタイトルを奪取した。17歳11カ月での初戴冠は、1990年に屋敷伸之九段が作った18歳6カ月の最年少記録を更新する快挙だ。天才とも呼ばれるが、ここに至るには自分を厳しく鍛え上げてきた毎日の積み重ねがあったに違いない

 ▼勝負を決めた16日の5番勝負第4局では中盤まで渡辺二冠にやや押されていたものの、競り合いから逆転し、最後には得意の戦型「矢倉」で相手をねじ伏せた。舌を巻く強さである。藤井棋聖は現在、王位戦7番勝負にも挑戦している。札幌で先週行われた第2局にも勝利し、木村一基王位相手に2連勝とこちらも快進撃が続く。来月4、5日に予定される第三局を制すると王手である。熱烈な将棋ファンでなくとも気になるところでないか

 ▼ただ、若くしてタイトルを持つことは、常に挑戦を受けて立つ気の抜けない生活が早く始まることを意味する。歓喜と苦悩の間を揺れ動く難儀な日々がこれから長く続こう。棋聖はきのう18歳になった。棋士人生はこれからが本番である。


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