コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 9

地震が気になる

2023年05月24日 09時00分

 地球をバスケットボールの大きさに見立てると、地殻は0・5㍉程度のごく薄い膜でしかないそうだ。以前、一般向けの科学読み物で仕入れた知識である

 ▼ざっくり言うと地球表面から核の中心までの距離は6370㌔。地殻はそのうち、海洋で10―35㌔、大陸で最大75㌔(ヒマラヤ山脈)ほどにすぎない。そんな薄い膜のすぐ下でプレートが暴れるのだから、地面が揺れるのも当たり前。地球とは何と奇妙なものか。最近、全国各地で比較的大きな地震が相次ぐ。今月に入ってから、5日の石川県能登地方を震源とする震度6強を皮切りに、11日の千葉県南部の5強、13日の鹿児島県トカラ列島の5弱と続いた。おとといも東京の伊豆諸島で5弱を観測している

 ▼発生場所はばらばらで、どうやら直接の関係はないらしい。震源も内陸だったり海だったり。地震の引き金となるプレートもそれぞれ違う。とはいえ余震でもない大きめの単発地震が短期間にここまで集中すると、いささか心配になるのが人情だろう。先の科学読み物では地球をスコッチエッグに例えていた。ゆで卵をひき肉で包み、パン粉をまぶして揚げた料理である。表面はカリッと固いが内部は層構造で中間が柔らかい。地球では地殻の下のマントルが軟らかい卵に当たる

 ▼マントルは流動しているため力を及ぼす範囲が広い。ただ内部ゆえリアルタイムで様子は分からないのが現実である。科学がもっと進めば全ての地震が一本の糸でつながるのかもしれない。今は頻発する地震を、しっかり備えよとの地球の呼び掛けと考えるほかないか。


G7広島サミット成功

2023年05月23日 09時00分

 茶道を完成させた千利休は茶会を常に一生に一度の機会と捉え、真剣に向き合っていたという。この心構えを「一期一会」と名付け、世に広めたのが幕末期の大老井伊直弼だった

 ▼宗観の茶名も持つ井伊が茶道における主客の心得を詳述した『茶湯一会集』にこう記している。「茶湯の交会は、一期一会といひて、たとえば幾度おなじ交会するとも今日の会にふたたびかへらざる事を思えば、実に我一世一度の会也」。そこで何より大事なのは主催者たる亭主が心を配り、自らの趣向通りに万事遺漏なく準備を整えること。良い場があれば客もおのずから実意を示し、茶会は会心の出来になるそうだ。先進7カ国首脳会議(G7サミット)で亭主役を務めた岸田首相も今頃、まさに会心の笑みを浮かべているのでないか

 ▼少なからぬ成果を上げ、近年、存在感の低下が叫ばれていたG7サミットの価値を再確認できる集まりとなった。急きょ決まったウクライナのゼレンスキー大統領訪日に驚いた人も多かったろう。ゼ氏の出席で、平和な世界を目指す民主主義国の結束がより強固なものとなった。中でもかつて原爆を投下した米国のバイデン大統領を含むG7と欧州連合の首脳がそろって原爆資料館を訪問し、原爆死没者慰霊碑に献花する場面は核廃絶の強いメッセージを発信した

 ▼広島開催もそうだが、今回は岸田首相の趣向がことごとくきれいにはまったようだ。グローバルサウスと呼ばれる国々を招待し、新たな国際秩序に向けた布石を打ったのもその一つ。日本で一期一会の機会を持てた意義は大きい。


危ない健康茶

2023年05月22日 09時00分

 身近な製品が意外なものから出来ていると聞き、感心させられることがある。例えば、ライオンの解熱鎮痛薬「バファリン」の半分は優しさで出来ているそうだ。もちろん比喩的な話。胃腸への負担が少ない成分配合をうたったCMの文句だが、なかなかうまいことを言うと思ったものだ

 ▼日本コカ・コーラの「アクエリアス」も負けていない。やはりCMでこう伝えていた。「見えない『がんばれ』が詰まってる」。入っているのが「優しさ」や、「がんばれ」という励ましであれば問題はない。製品の性格を正しく表現してもいよう。直接口にするものだけに、安全と安心は何より大切な情報である。ただ、中には名前と中身が違う危ない製品も世の中には出回っているらしい

 ▼国民生活センターが先週、大手通販サイトなどで「健康茶」として売られていた商品に、健康への影響が懸念される医薬品成分「ステロイド」が含まれていたと発表したのである。こちらは比喩でなく、実際の成分だからたちが悪い。検出されたのは「ジャム―」の表記がある商品複数で、花粉症に効果があるとの触れ込みだったという。人によってはけいれんや感染症悪化を招く可能性があるため、飲用している人は医療機関に相談をと呼び掛けている

 ▼「健康食品」で体調不良を起こす例が近年後を絶たない。下痢やアレルギー、果ては肝障害まで報告されているというから事態は深刻だ。健康に気をつけて体を壊しては元も子もない。飲用前にかかりつけ医に尋ねるのもお薦めである。優しさならいくら入っていてもいいが。


G7広島サミット

2023年05月19日 09時00分

 俳人の長谷川櫂さんによると、異質のものを受け入れ、選び、変容させる「和」の力が日本に大きなエネルギーをもたらす根源になっているそうだ。『和の思想 日本人の創造力』(岩波現代文庫)で学んだ知見である

 ▼はるか昔、この国の人々は自分たちのことを「わ」と呼んでいた。それにいつしか「倭」の漢字が当てられ、「和」に改められたところで、調和が日本人の理想像になったと長谷川さんは推測する。「対立するもの、相容れないものを和解させ、調和させる」「殺し合ったりせず安らかに生きたい」。日本人はその思想で全てを発展させてきたというのである。納得できる話でないか。岸田首相も今、そんな心境でいるに違いない

 ▼首相が議長を務める先進7カ国首脳会議(G7サミット)がきょうから21日まで、広島市で開かれる。最大のテーマはロシアのウクライナ侵略や中国の一方的な現状変更の試みに対抗すべく、民主主義国の指導者の集まりとして一枚岩の結束をアピールすることだ。G7を構成する日本や米国、欧州各国は価値観を全て共有しているわけではない。それぞれ事情があり、経済的な利害関係もあれば、ロシアや中国との立ち位置もばらばら。各国首脳は皆、腹に一物ある手強い人物ばかりである

 ▼岸田首相はそんな立場も意見も違う猛者たちを「和」の思想でどうまとめるのか。最終日の共同宣言は慣例で開催国首脳の意向が尊重される。きれい事だけでは存在感も国際社会への影響力も持ちえまい。対立するものを調和させ事態を動かす。首相の真価が試される。


電気料金値上げ

2023年05月18日 09時00分

 太平洋戦争時、国民の戦意高揚のため盛んに使われた標語に「欲しがりません勝つまでは」があった。説明するまでもあるまい。この戦争に勝つまでは嗜好(しこう)品やぜいたく品は欲しがらないという意味である

 ▼必要最低限の物資で我慢して暮らし、国民一丸となって目的を達成しようとの雰囲気を醸成した。国民学校の女子児童が、大政翼賛会と新聞社の募集する国民の決意を表す標語に応募したものという。リズムの良さに加え、国民性にぴたりとはまったところが流行語となった理由だろう。その精神は連綿と続いているようだ。日本社会にはいまだに、目的に達するまで自罰的に我慢を強いる傾向がある。昨今の電気を巡る情勢にもそんな構図が見えはしないか

 ▼政府はおととい開いた物価問題に関する閣僚会議で、国に申請が出されていた北海道電力など電力大手7社の電気料金値上げを了承した。各社平均で15―39%余りの大幅な値上げとなる。値上げの実施予定日は6月1日。もうすぐである。一方で電力需給を安定させ、料金も下げられる原子力発電所の多くは止められたままだ。中でも東日本では一つも再稼働していない。原子力規制委員会の審査が終わらないためだが、東日本大震災から12年もたつのにこのありさま

 ▼全てが整わなければ動かさない。高い電気料金で我慢しよう。「欲しがりません勝つまでは」というわけだ。その間にお金はもとより、技術も人材も失われつつある。どこかで目的を取り違えたのでないか。敗戦に向けて突き進んだかつての日本の暗い雰囲気を思う。


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