コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 92

中国共産党100年の野望

2021年07月05日 09時00分

 NHK教育の「ハーバード白熱教室」(2010年)で知られるマイケル・サンデル米ハーバード大教授の近著『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)が面白いと評判なので早速読んでみた。現代社会の格差と分断に鋭く切り込んだ一冊である

 ▼教授は世の多くの人が信じる〝才ある人が努力したから成功した〟との常識に疑問を投げ掛ける。そう見えているだけで実際は違うのでないか、というのだ。理由は二つ。一つは家が裕福か貧乏かで人生が左右されること。もう一つは「自分がたまたま持っている才能を高く評価してくれる社会に暮らしていること」。いずれも自分の手柄とはいえず、問題は運がいいか悪いかだと説くのである

 ▼中国共産党の習近平総書記にもぜひこの本を読んでもらいたい。中国は今、米国に次ぐ世界2位の経済大国として栄華を誇っているが、全て自分たちの力だけで成し遂げたと思い違いをしているように見える。協調と平和の国際環境あればこその繁栄なのだが。「中華民族の偉大な復興」「台湾独立の動きを断固打ち砕く」「外部勢力のいじめや抑圧を許さない」。天安門広場で1日開かれた中国共産党100年記念祝賀式典での習近平氏のそんな演説に、危うさを感じた人も多いのでないか

 ▼国が成長したのは中国共産党の手柄。他国の意見を入れるつもりはない。これからも好きなように振る舞う。そんな宣言に聞こえた。サンデル教授の論考によると、幸運を自らの手柄とするのはうぬぼれだという。その自覚のない中国と民主主義国との分断は深い。


天下分け目の戦い

2021年07月02日 09時00分

 その後の国の命運を大きく左右する戦いというものが日本の歴史の中でも幾度かある。豊臣秀吉亡き後に徳川家康率いる東軍と、反家康で結集した西軍がぶつかった1600年の関ヶ原の戦いもその一つ。「天下分け目の戦い」と呼ばれた

 ▼近代では日露戦争で当時世界最強だったバルチック艦隊を撃破した日本海海戦だろう。旗艦〈三笠〉が掲げたZ旗の信号文「皇国の興廃この一戦にあり」はあまりに有名である。大げさなのは重々承知だが、今の日本にとってはこの7月が新型コロナウイルスとの戦いの大きな節目となるのでないか。全国へ波及する懸念が格段に大きい東京の新規感染者数の増加がこのところ著しい。6月30日には5月26日以来、ほぼ一カ月ぶりに700人を上回った

 ▼一方、ワクチン接種は政府と自治体、職域合わせて1日当たり全国で100万回を超え、きのうまでに累計4500万回以上を達成。このペースを維持できれば今月中に少なくとも8000万回の接種を終えられる計算だ。ウイルスとワクチン、峠を挟んで両陣一歩も引かぬ態勢でにらみ合っている状況だろう。少し前まではワクチン側やや優勢と考えられていたものの、感染力の強いデルタ株の急拡大と、海外から人が流入する東京五輪の開催で戦いの行方は混沌(こんとん)としてきた

 ▼とはいえ今はワクチンを武器に休むことなく攻め続けるだけ。感染しても重症化しないのなら医療への負担は軽くなり、経済も回せるようになる。日本の興廃この7月にあり。もちろん最前線で戦うのはわれわれ一人一人である。


旭川医大学長の問題行動

2021年07月01日 09時00分

 引き際の見事さが語り継がれる経営者の一人に本田技研工業創業者の本田宗一郎氏がいる。勇退を決めたのは事業が軌道に乗り、これからさらに発展が見込まれるという時だった。健康で気力も十分だったが、自分の頭が固くなっていることを自覚したのである

 ▼そんなときにできることは「己れの古さに気づいた時、あっさりと若い生きのいい連中にバトンタッチすることだけだ」(『俺の考え』新潮文庫)。潔い。だからだろう。頭が古いのに組織の頂点にしがみつきたがる経営者には辛口だった。そういう者は会社がうまくいかなくなると「なんでも金や政治力でカバーしようとする」というのである。「頭が痛いのに、お尻に膏薬をはるようなものだ」。なかなか手厳しい

 ▼旭川医大の学長選考会議が28日発表した吉田晃敏学長の数々の問題行動を聞き、先の話を思い出した。吉田学長は69歳で任期は2007年から現在まで14年と長期に及ぶ。楯突く者は即刻排除する絶対君主のような存在だったらしい。吉田学長が注目されたきっかけは新型コロナ患者受け入れを進言した当時の大学病院長に辞任を迫った一件だった。調べると他にも職員へのパワーハラスメントや700万円超の不正支出、学外での暴言などいろいろ問題が出てきたそうだ。トップの座にしがみつきたいがために不都合な事実は金や政治力で抑え込んでいたのだろう

 ▼同会議は文部科学相に学長解任を申し立てている。吉田学長も異論を謙虚に聞けなくなった時点で潔く身を引けばよかった。お尻に膏薬で晩節を汚したのでないか。


児童の列にトラック

2021年06月30日 09時00分

 多くの親は深くうなずくのでないか。「親の愛は実に純粋である、その間一毫も利害得失の念を挟む余地はない」。『善の研究』で知られる哲学者西田幾多郎が1907年の随筆に書いた一節である

 ▼西田はその年1月に6歳の次女を亡くしたばかりだった。「亡児のおもかげを思い出ずるにつれて、無限に懐かしく、可愛そうで、どうにかして生きていてくれればよかったと思うのみ」。悲痛な叫びが記されている。そんな経験をしたい親は一人もいない。ただ、運命は時に残酷だ。千葉県八街市の市道でおととい、集団下校をしていた児童5人の列にトラックが突っ込み、2人が死亡する痛ましい事故があった。1人が意識不明の重体、2人が重傷という。わが子が「ただいま」と当たり前に帰ってくる日常を断ち切れられた親御さんの悲しみはいかばかりか

 ▼事故を起こしたのは近くの運送会社に勤める60歳の男だという。原因は捜査中だが、男の呼気から基準値を超えるアルコールが検出されているそうだ。報道によると男は東京へ荷物を運んだ後、会社に戻る途中で酒を飲んだらしい。道に飛び出した人を避けようとして電柱に激突し、その弾みで児童をはねたと話しているが、人がいた形跡は見つかっていない

 ▼居眠り運転との説もある。いずれにせよ飲酒が事故を招いたのは間違いあるまい。被害者にとって飲酒運転は通り魔と同じ。人殺しと呼ばれる前になぜ気づけなかったか。犠牲になった子どもたちの未来は理不尽に奪われた。親は元気に育ってくれさえすればと日々祈る思いだったろうに。


経産省官僚逮捕

2021年06月29日 07時00分

 東京の子どもたちの日常を描いた『たけくらべ』(1895年)で知られる小説家の樋口一葉は、お金に苦労する一生を送った人だった。父と兄が相次いで死に、17歳で戸主になったためである。それだけにお金の怖さや、それに操られる人の醜さもよく分かっていたようだ

 ▼日記にこう記している。「利欲に走れる浮世の人あさましく、厭はしく、これ故にかく狂へるかと見れば、金銀は殆ど塵芥の様にぞ覚えし」。お金に目がくらみ、それまでは普通に生きていた人が別人のようになってしまう例はいつの時代もあるものだ。欲まみれになっても人に迷惑を掛けないならまだいいが、悪事に手を染める人も少なくない。今回の事件はその典型だろう

 ▼新型コロナウイルスの感染拡大により売り上げが落ちた中小企業などを支援する国の家賃支援給付金をだまし取ったとして、経済産業省のキャリア官僚2人が詐欺容疑で逮捕された。「盗人を捕らえてみればわが子なり」のことわざを地でいくような事件である。2人は不正受給のために東京都文京区を所在地とするペーパーカンパニーを立ち上げ、神奈川と都内の実家や自宅を事務所と偽って給付を申請した。役割分担を綿密に相談し、証拠データは周到に消すなど悪質さが目立つという

 ▼給付金は同省が所管する事業。2人は制度を熟知していた。生活に困っている人を助ける実務を担う組織の中に、その大切なお金を横からかすめ取る者がいたわけだ。金銀でなく、その者たちがちりあくたと呼ばれても仕方ない。これ以上にあさましい行為があろうか。


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