建設×警備で相乗効果 凌霄にみる業界のM&A

 札幌の建設会社、凌霄(りょうしょう)が昨夏に警備業のプロテクト・ガード(本社・旭川)をグループ化し、事業の相乗効果を出している。建設関連業界とはいえ内容はまったくの異業種である警備業を、どう生かすのか。凌霄の経験は、建設業のM&A(合併・買収)としてモデルケースの一つになるかもしれない。 計画的人員配置 受注数増へ直結  「今春の建築現場はいつになく人手を確保できた」。凌霄の佐々木勇輔社長(38)は笑顔を見せる。土木と建築の両方を手掛ける同社は創業から11年。例年、春は年度替わりで土木の仕事が減る半面、商業施設のテナント入れ替えなど民間建築の仕事が忙しくなり、慢性的な働き手不足が軽減されることはなかった。  ことし「助っ人」として現場に加わったのは、昨年7月にグループ化したプロテクト・ガードの社員たちだ。土木現場が多い警備会社にとって春は閑散期で、むしろ過剰人員に悩まされる時期。建築の経験はなくても、資材運びや片付けなど資格のいらない作業は無数にある。  凌霄から見れば計画的な人員配置ができることで、例年より受注を増やせる。警備会社経営には一定時間の従業員研修など独特のコストもかかるが、それ以上のメリットが生じるというわけだ。 警備員不足深刻 専門業者と協力  なぜ警備業とのM&Aに着目したのか。背景にあるのはここ数年の深刻な警備員不足だ。交通誘導員がいないだけで道路工事が始められず、結果として工期が延び、下請けである凌霄の評価点にまで影響が及ぶこともあったという。「ならば自分たちで警備もやりたい。だがゼロから始めると時間がかかりすぎる。専門業者のM&Aを考えていたところ、当社社員の人脈でプロテクト・ガードの曽木一裕社長とご縁ができた」(佐々木社長)。  プロテクトは1989年設立で、昨年30周年の節目を迎えた。昨春佐々木社長が旭川の本社を訪ねたところ、2代目社長の曽木氏も、経営環境の厳しさからちょうど事業売却を検討していた。人間的にもウマが合い、初対面でほぼ双方の意思が固まる。佐々木社長は旭川訪問を重ね、創業者の曽木義孝会長からも合意を取り付けた。 効果は想定以上 売上増加目指す  義孝・一裕両氏が持っていたプロテクトの全株式を、佐々木氏個人が買い取るM&A契約。デューデリジェンスを終え、7月中旬に譲渡が完了した。買収資金は北央信用組合の仲介で、日本政策金融公庫札幌支店が融資した。  凌霄とプロテクトの間に資本関係はなく、同じ株主を持つ兄弟会社という位置付けだ。佐々木社長は「2社が親子関係だと、片方が不調ならもう片方が稼げばいいなどの甘えが出る。別会社の方が成長する」と話す。  相乗効果は想定以上だ。警備員の確保に悩む元請けから建設・警備をセットで受注するのはもちろん、警備の取引先から建設の仕事が舞い込む例も出てきた。警備の事業エリアは道北から道央以南に拡大中だ。  2社合計の年間売上高は約6億円。目標は2年以内の10億円突破だ。建設業界は後継者難などから今後M&Aが盛んになる。凌霄は将来、キープレーヤーの一つとなる可能性がある。(経済産業部 吉村慎司) (北海道建設新聞2020年7月3日付2面より)