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【弁護士田代耕平の独り言】第101回 公益通報者保護法

最近、知事のハラスメント(疑惑)を告発した公務員がお亡くなりになった事件が報道されており、その告発が公益通報に当たるのではないかという指摘がされています。

知事は「業務時間中に『うそ八百』を含め、文書を作って流す行為は公務員として失格だ」など発言されていたようです。そして、告発した方は停職3カ月の懲戒処分になり、公益通報者保護法で禁止されている公益通報者への不利益処分だったのではないかと問題視されています。

この事件の真相は今後の調査で明らかになっていくと思いますが、何が問題になっているのかを理解するために、今回は、公益通報者保護法の概要についてお話したいと思います。

公益通報者保護法は、比較的新しい法律で、自動車メーカーのリコール隠しや牛肉産地偽装問題などが内部告発を契機に明るみに出たことから、公益通報者の保護の必要性も認識されて平成18年に成立した法律です。

所属する組織の不正を公表することは大変勇気がいることです。従業員等は雇用契約に付随する義務や就業規則で守秘義務が課せられており、企業情報を外部へ開示することは基本的に許されません。守秘義務に反して企業情報を外部に漏洩した場合は会社から懲戒処分や損害賠償請求をされかねません。

また、組織は、その不正が判明しないように通報をもみ消して公益通報者に対して不利益を与えるなどのことが往々として行われてきました。このようなことにならないように公益通報者保護法が制定され公益通報者への不利益取扱や損害賠償請求が禁止されました。しかし、企業情報を通報することが何でもかんでも許されているわけではありません。

まず、特定の人を誹謗(ひぼう)中傷するなどの『不正の目的』での通報は保護の対象になりません。もっとも、会社への反感などがあっても直ちに『不正の目的』とは言えないと考えられています。

次に、通報の内容も何でもいいわけではなく、通報対象事実は刑法等の一定の法律違反に関する事実に限定されています。従って、いわゆるパワハラというだけでは通報対象事実には該当せず、パワハラが暴行罪や脅迫罪等に該当する場合でなければなりません。

さらに、通報先によって要件が加えられます。内部通報(社内の窓口への通報)であれば、公益通報者が不正行為であると考えたことで足りるのですが、外部通報(いわゆる報道機関等へのリーク)の場合には、不正行為が行われていると信じる『相当の理由』(証拠等)などの存在のほか、内部通報では証拠隠滅等(もみ消し)の恐れがあることなどの要件が加重されています。

このように、外部通報には一定のハードルがあることから内部通報制度の重要性は高く、令和2年には従業員300人以上の会社には通報窓口等の設置義務が課せられ、その窓口担当者(従事者)に守秘義務(罰金30万円)が課せられることになりました。これによって今までよりは安心して内部通報を行えることを期待されます。

なお、弁護士には守秘義務があり(弁護士法23条)、公益通報に該当するかなどの相談をすることは問題ないので(東京地判平成15年9月17日)、公益通報で悩んでいる方は弁護士に相談することをお勧めいたします。

今回の事件を契機に公益通報制度が会社にも従業員にも正しく理解され、勇気ある告発で自ら命を絶つようなことがない社会になることが、お亡くなりになった方へのせめてもの弔いなのではないでしょうか。

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田代耕平(たしろ・こうへい) 札幌総合法律事務所のパートナー弁護士を務め、労働問題や不動産取引、建設関連の分野に力を入れている。コラム「弁護士田代耕平の独り言」では、幅広い業種の仕事や生活に役立つ内容について解説する。


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