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【北の民俗文化】第25回「カラスからの呼びかけ」「ひと」と「鳥」とのさらなる対話を!

私が20歳まで過ごした故郷空知・栗山町では、「スズメとカラスが水浴びすると天気が良い」とか、「カラスが家の上で鳴くと凶事がある」とか言われていました。何歳のときか忘れてしまいましたが、私が帰宅すると必ず鳴き声をあげて迎えてくれたこと、また、夕空のなか、群れを成して山に飛んでいく光景が思い出されます。現在住んでいる住宅の近くでカラスをみるにつけ、思い出します。

同時に、『日本の民話1動物の世界』(瀬川拓男・松谷みよ子編、角川書店、昭和48年5月)掲載の「動物の始まりその1太陽とからす」というアイヌ民話を紹介します。

遠いむかし。天空は深い闇に包まれていた。地上にはじめて太陽が上ろうとしたとき、巨大な悪魔は、巨大な口をあけ、太陽をひとのみしようと待ち構えていた。悪魔は知っていた。すべての生命に、光と熱がいることを。太陽が万物の育ての親であることを。その太陽を破壊し、すべての生命を根絶やしにしてこそ、闇の世界は悪魔のものであった。

さてここに、世界の創造主カムイがいた。カムイは悪魔のたくらみを知って、彼をだますために無数のからすを造り出した。からすの羽毛は、悪魔の支配する闇の世界と同じ色をしていた。まさに太陽が上ろうとしたとき。無数のからすは羽音も高く天空にはばたいた。からすの群れは矢のように地上へ向かっていた。悪魔は驚きの叫びを上げた。無数のからすがわが口に飛び込み、わがのどもとにくちばしを突き立てた。のどの突き刺すからすをむしり取り、のどにはりつくからすの羽毛を取り去ろうしたが、からすの群れはあとを絶たず、巨大な悪魔の口を襲うのだった。

そのとき、早くも太陽が上った。天空も、地上も、光にあふれ、光に輝いた。みなぎる光の中に、キラキラと輝く海と、さんさんと緑にはえる山脈が浮かび上がった。すべての生命がこの世に生を受け、海にも陸にも生物があふれた。今では黄金色の草原に、雄鹿の群れが駆けて行く、雌鹿の群れが駆けて行く。今では鮭の群れが川をうずめ、銀のうろこをきらめかせ、水しぶきを飛ばす。地上に住みついたアイヌは狩猟を行ない、豊猟の日々、彼らは太陽を救ったからすのことを忘れない。

たとえからすが、人間に対してかってにふるまい、人間が、自分とその家族のために整えた食べ物をかすめ取ろうと、たとえからすが大胆であつかましく、傍若無人にふるまおうと……。アイヌは今でもからすを敬い、からすのためにイナウ(木幣)を供えている。

「この2018年ほど、都会に生きるカラスに魅せられ、ほぼ毎日札幌のカラスを観察しています」中村眞樹子氏は、その著書『なんでそうなの 札幌のカラス』(北海道新聞社、2017)で、「人間の暮らしと密接にかかわり合うカラスの本当の姿を知り、頭の良いかれらの行動の理由を探り、上手に付き合っていけたら―。それが私の願いです。」(「はじめに」)と書かれています。その著書の五編(きほん・食べる・珍しい行動・子育て・困った)48Qの「はて?」を手がかりに「上手にカラスとお付き合いしたいですね。」

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阿部敏夫(あべ・としお) 1941年栗山町生まれ。北海道学芸大(現北海道教育大)札幌分校卒。博士(民俗学)。コラム「北の民俗学」では北海道の生活や記録・記憶を通して当時の人々の暮らしぶりや心情に着目し、現在に生きる者へのヒントを伝える。


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