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【おとなの養生訓 當瀬規嗣】第291回 文明進化が生んだ「悩み」

われわれの先祖はサルであり、その前はネズミのような動物であったと考えられています。ネズミを代表とするげっ歯目と呼ばれる哺乳類は、夜行性の習性を持つものが多いとされます。特にネズミやムササビ、モモンガは夜行性が顕著です。木の上で活動するサルの仲間にも夜行性を示すものが多くあります。われわれの先祖は体も小さく、他の動物の餌食となりやすいので、それを避けるために夜行性になったとも考えられます。

夜行性のもう一つの利点は、夜間に木の実など栄養豊富な餌を独占できたということです。そのために体に対する脳重量の比率が上がり、より活発に、そして知的な活動を可能としました。

ネズミやリスが餌をためたり、サルが群れを作って活動したりするようになったのは、このためと考えられます。そして、脳が発達したサルは、霊長類、ついにはヒトに進化します。

発達した大きな脳を持つヒトは、脳の活動を支えるために、他の動物より睡眠する時間が多くなったと考えられています。今のヒトは個人差もありますが、6―8時間の睡眠が必要で、それもイヌやネコのような、すぐに目が覚める浅い睡眠ではなく、ある程度の時間の熟睡が必要といわれます。

睡眠の間に、覚醒時に使い続けた脳を休ませ、修復をする必要があるからです。この結果として、ヒトを代表とする霊長類は、夜行性では都合が悪くなり、昼行性へ移行したと考えられます。

ところが、ヒトはさらに進化して、火を手に入れ、自由に活用するようになりました。食べ物に火を入れて安全に食べることが可能になりました。さらに火を明かりとして活用するようになり、夜間に睡眠以外の生活手段を手に入れたのです。明かりは夜間の活動の幅を広げました。

そして文明が起こり、ヒトは24時間、何らかの活動を続けるようになりました。一部のヒトは、夜間に仕事をして昼間に眠るという夜行性の生活が当たり前になったのです。こうして、ヒトは睡眠不足という他の動物にはない悩みを抱えることになりました。

仕事だけでなく、テレビ、動画、SNSなどを夜遅くまで利用して、睡眠のリズムが狂ってしまい、慢性的な睡眠不足になっている人が多いと指摘されています。脳にダメージが蓄積され、より深刻なトラブルに進展する危険性が高まっているのです。

當瀬規嗣(とうせ・のりつぐ)
札幌医大名誉教授、北海道文教大人間科学部健康栄養学科教授。生理学を研究する傍ら、テレビ・ラジオなどのメディアにも出演している。北海道建設新聞掲載のコラム「おとなの養生訓」では、現代のビジネスマンに欠かせない「健康」に関する情報をわかりやすく解説している。


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