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【弁護士田代耕平の独り言】第102回 縄伸び縄縮み

『縄伸び』『縄縮み』という言葉はご存じでしょうか。あまり聞きなれない言葉ですが、不動産に携わる方でしたら聞いたことがあるかもしれません。公簿面積(土地の登記記録に記載されている面積)が実際の実測面積よりも小さいことを『縄伸び』、登記面積が実際の実測面積よりも大きいことを『縄縮み』といいます。昔は縄を張って測量をしたことからこのような言葉になったようです。

そもそも、登記記録(登記簿)という公的な記録に記載されている面積(地籍)が実際の面積と異なることがあるということに驚きを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、(特に道外の都市部では)縄伸び縄縮みは往々にして発生します。

その理由は、明治時代の測量技術で算出された面積が、そのまま現在の登記に反映されているため必ずしも正確ではないことや、年貢を軽減するために面積を少なく申告していたことなどがあったと言われています。そのためか『縄縮み』よりも『縄伸び』(過少申告)の方が多いようです。

地籍調査や土地区画整理事業などで現地復元能力(自然災害等によって境界が分からなくなってしまっても筆界を復元できること)を有する正確な地図(「14条地図」と言われています)が作られ、土地の面積も正確に測られるようになり順次地籍も正確になってきているようですが、法務局に備え付けられている図面には、明治初期に作成されたものをベースにした『公図』(地図に準ずる図面といわれています)が未だに4割近くあるようです。

全国の地籍調査の進捗具合は53%、北海道は62%、東京は25%、最下位は京都の8%です(地籍調査Webサイト)。意外に(?)と思われるかもしれませんが都市部の方が進捗が悪いのです。土地が複雑に細分化されていたり権利関係が複雑になっており調査が難航しがちのようです。

なお、『公図』という呼称は公の図面であって信頼性が高く正確なように聞こえますし、コンピューターに登録したものが公開されており一見きれいに見えますが、その多くが明治期に作られたものをコンピューターに移し替えたものにすぎません。このように、公簿面積は必ずしも正確ではないのです。

ところで、我々が土地の売買をしようとして価格を検討するときは、坪単価や平米単価を想定して土地全体の価格を考えるのではないでしょうか。公示価格なども平米単位で地価を公示しています。きちんと確定測量をしてから売買契約をすればいいのですが、測量費用等の関係などから測量せずに売買されることもあります。

後日、測量して面積が不足していた場合にはトラブルになりかねません。そこで、公簿面積と実測面積との間に差異が生じても互いに異議を申し立てず売買代金増減の請求をしないという公簿売買が行われていますが、やはり、公簿面積なのだから大丈夫だろうと安易に考えず、きちんと測量をして売買した方が安全だと言えます(実測売買と言います)。

北海道は歴史的に比較的安全なようですが、道外の物件は要注意です。『縄伸び』によって、買主が購入後に公簿よりも実際の面積が広いことに気づいても、わざわざ売主に伝えることは少ないと思いますので、本当は思ったより広い土地を取得できて喜んでいる買主もいるのかもしれません。

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田代耕平(たしろ・こうへい) 札幌総合法律事務所のパートナー弁護士を務め、労働問題や不動産取引、建設関連の分野に力を入れている。コラム「弁護士田代耕平の独り言」では、幅広い業種の仕事や生活に役立つ内容について解説する。


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