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本間純子 いつもの暮らし便 第50回/たかがハンガーと侮るなかれ

数年前のことです。スカートハンガーのクリップ(スカートを挟んでいる部分)が折れました。2個のクリップでスカートをつり下げるものなので、クリップ1個では持ちこたえられません。困りました。20年以上前から愛用しているこのクリップハンガー、あるファッションショップの備品だったものです。ハンガー入れ替えのため、「よかったらどうぞ」と頂戴した10本のうちの1本でした。プラスチック製ですから、経年劣化による寿命といえばそれまでですけれど、使い勝手が良かったので、修理を試みました。が、再起はかないませんでした。

お店の備品のクリップハンガーを客が使うことはないので、使用感など考えたこともありませんでしたが、実際に使ってみると、これがなかなかよろしくて、店では重宝されていただろうと想像できます。クリップの指でつまむ部分の前後の開きが小さく、スカートの厚みの中に収まるほどのスリムさです。クリップをつまむ部分の開きが大きいと、クリップ同士が絡み合い、スッと取り出せません。出し入れの良さは、売り上げに影響しそうです。黒一色のプラスチック製で、おしゃれ度低めのフォルムですが、クリップには、指があたる程よい位置に凸があって滑りにくく、小さな力でもしっかり開きます。機能重視のデザインです。

後日、他のハンガーのクリップも折れてしまったので、「これは後継を探さなくては…」と、ハンガー売り場の探索を始めました。でも「たかがクリップハンガー」「されどクリップハンガー」です。なかなか見つかりませんでしたが、昨年ついに、日用品を扱うショップで、全体が薄手でフラットな印象のハンガーに出会いました。木の本体に金属のクリップが付いたおしゃれなデザインです。早速、購入。なかなか良い使い心地です。クローゼットからの出し入れもストレスフリー。素材は金属なので、さびさせないよう注意さえしていれば、長く使えそうです。

スラックス(今はパンツと呼ばれることが多いようですが…)の保管は、二つ折りにしてバーに掛けたりもしますが、スカートは二つ折りにすると、シワになりやすいので、ベルト部分でつるすのが一般的な方法です。先日、2本追加購入した時に、改めてプラスチックと金属のクリップを比較したところ、とても似ていることがわかりました。クリップのつまむ箇所の開きはどちらも25ミリ、スカートを挟む部分は10ミリ程度の開き具合です。この寸法があれば、スカートはスルリと挟み込めます。もしかしたら、この数字、スカート用クリップハンガーの究極の数値かもしれません。

洋服ハンガーもクリップハンガーも、衣類を支えるクローゼットの脇役です。その部品の一つのクリップは、注目度が低めかもしれません。でも、人知れず、ひそかに売り上げに貢献し、売り場スタッフのストレスフリーを実現しているとしたら、このデザインの貢献度は高い!とクリップを眺めつつ…思うこの頃です。

本間純子(アリエルプラン・インテリア設計室代表)
札幌を拠点に活動するインテリアコーディネーターで、カラーユニバーサルデザインに造詣の深い人物。コラム「いつもの暮らし便」は、インテリアの域にとどまらず、建物の外装や街並みなど幅広く取り上げます。


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