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【新年特集2025】北海道胆振東部地震から6年/被災3町の復興本格化

2018年9月の北海道胆振東部地震から6年余り。大規模な土砂崩れや建物倒壊の被害が特に大きかった厚真、安平、むかわの3町は災害復旧が完了し、本格的な復興の段階に入っている。近隣の千歳市内にラピダスが進出するほか、脱炭素化がここ数年で注目されるようになる中、どのように地域のにぎわいや活性化を実現するのか。町長に復興の歩みと展望を聞いた。


厚真町/宮坂 尚市朗町長

森林再生道半ば、エネ転換を推進

厚真町の宮坂尚市朗町長は「町民が負った心の傷を癒やすのに必要な時間だった」と、この6年を振り返る。吉野地区では大規模土砂災害で町民が犠牲になり、多くの自然も失われた。国による災復は2023年に完了したが、森林の再生は道半ばだ。

取り組みは着実に前進している。北海道などの関係機関とまとめた実施計画に従って植林をし、2023年度に森林再生率は30%を超えた。「時間がかかるのは仕方がない。ゆっくりでも計画通りに豊かな自然を取り戻す」と強調する。

森林には震災の爪痕が残る。計画的な植林が求められる

ブラックアウトの経験から再生可能エネルギー活用の意識が高まった。公共施設に再エネ設備を導入し、災害時の電力を確保する。脱炭素化を進めながら町民の安心感につなげる考えだ。

新電力にも注目する。北海道電力の苫東厚真発電所ではアンモニア燃料への転換に向けた検討が始まっている。苫小牧地域で水素供給網を構築する動きも見据え、「町内産業への活用が進めば脱炭素化のアピールになる。引き続き注視したい」とする。

災害時の拠点になる役場庁舎は老朽化などにより建て替える計画だが、当初のスケジュールより後ろ倒しになっている。資材高騰などに伴う事業費の大幅増が原因だが、「役場は心のよりどころ。未来につながる投資として計画を推進する」と力を込める。

地域コミュニティーの重要性も説く。町内で気軽に声掛けができる空気感や雰囲気を「新しい豊かさ」と位置付ける。ラピダスの千歳進出で移住者が増える可能性を踏まえ、「町全体が一つの共同体だ。心が温かくなるまちづくりをし、移住者を受け入れる体制を整える」と意気込む。

安平町/及川 秀一郎町長

逆境チャンスに、JRで経済活性化

安平町の及川秀一郎町長は就任からわずか4カ月後に被災した。掲げた公約と目の前の復旧をてんびんにかけながら課題の解決に臨んだ。「逆境をチャンスに変えることだけを考えた。前を向くしかなかった」と当時を振り返る。

特に力を入れた取り組みが早来学園の新設だ。被害の大きかった早来中学校と老朽化が顕著だった早来小学校を統合した義務教育学校。ICT導入など新たな教育の在り方が全国から注目されている。

千歳へのラピダス進出の動きもあり2022、23年に人口社会増を達成。「教育環境に魅力を感じてくれる人が多い。町としても自信になる」と喜ぶ。

追分地区の活性化も目指す。道の駅あびらD51ステーションが2023年に来場者300万人を達成。むかわ町と連携した恐竜展を開催するなどイベントを展開する。「早来は教育、追分は文化的な拠点にしたい」との考えを示す。

フォーラムなどで教育関係者が集まる早来学園。全国から注目されている

活性化の鍵となる手段の一つはJRの活用だ。「鵡川駅までの日高本線を使ってもらう工夫が重要だ。電車で行き来すればアルコールも楽しめるし、地元経済が活性化する」との構想を描く。地元タクシー会社の利用を促す町民向け割引券を予算化した実績もあり、行政、事業者、町民の3者に利点がある「トリプルウィン」の発想でまちづくりを展開する。

むかわ町/竹中 喜之町長

事前復興計画が鍵備えは「最重要」

市街地の建物倒壊を受け、むかわ町は北海道内で初となる事前復興計画を定め、大規模災害への備えを強化する。竹中喜之町長は「いざという時の行動指針になる。まち全体が混乱しないためにも絶対に必要な準備だと考えた」と強調する。

事前復興計画があれば、大規模災害への備えとして町民の安心感につながる。計画の本質は「まちづくりの先取り」だ。被災からの復旧とまちづくりを並行して進める難しさを痛感したからこそ、その必要性と重みを知っている。年度内策定の見込みで、他自治体のモデルケースになり得る。

まちなか再生にも注力する。穂別地区は民間事業者のノウハウを生かすDBO方式を採用し、復興拠点施設を中心とする整備の第一弾で博物館などを新築する。鵡川地区では第二弾として、道の駅四季の館を中心とするにぎわい創出を目指す。

JR鵡川駅周辺。まちなか再生でにぎわいを創出する

民間事業者との関わり方も重視する。被災以降これまでに約70団体と包括連携協定を締結。官民が一緒になってまちづくりの最適解を探り、人的支援を得る体制を整えた。

千歳へのラピダス進出効果にも期待する。「ラピダスが掲げる北海道バレー構想のエリアに近く、波及効果を得るチャンスはある。ただ、冷静になって見極める姿勢が大切だ」と話す。

想定する復興は少し先にある。「関係人口の創出につながれば地域全体が盛り上がる。災害に強く、若い人でにぎわいが生まれる町を目指す」と青写真を描く。


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