【事業承継を考える】第49回 ハッピーリタイアへ年金活用
一般社団法人事業承継協会(本部・東京)の認定資格である事業承継士が、経営者にとって関心が高い事業承継について現状や課題などを解説します。第49回は中山裕司さんです。
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最適役員報酬額の検討
帝国データバンクの調査(全国「社長年齢」分析調査(2023年))によれば、23年時点での社長の平均年齢は60.5歳である。前年より0.1歳上昇し、33年連続で増加して過去最高を更新している。同調査によると、社長のうち70歳以上の割合が25%を超え、60歳以上が50%を上回っている。このようにシニア経営者が増加する中、事業継続の観点で見落とされがちな課題として「年金」が挙げられる。
私は社会保険労務士として法人経営者から年金に関する相談を受ける機会が多い。典型的な相談内容としては、「特別支給の老齢厚生年金を受給できる年齢になったが、厚生年金保険料を引き続き支払う必要があるのか」や「何歳まで保険料を支払う必要があるのか」といったものが挙げられる。経営者は役員報酬が高額である場合が多く、それに比例して社会保険料の負担も大きいため、これらの課題は切実な問題である。
これらの質問に対する一般的な回答として、老齢年金の受給可能年齢に達しても、厚生年金適用事業所で勤務を続ける70歳未満の代表取締役や常勤役員、そして従業員も厚生年金保険料を支払う義務がある。厚生年金保険法第9条では「適用事業所に使用される70歳未満の者は被保険者とする」と規定されていて、法人は強制適用事業所となるためである。
また、昭和60年の法改正により、厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に段階的に引き上げられた。この結果、65歳未満でも条件を満たせば特別支給の老齢厚生年金を受給することが可能である。ただし、報酬額が一定以上の場合、在職老齢年金制度により年金が一部または全額支給停止となるケースがある。
70歳になれば厚生年金保険料の支払い義務がなくなる。しかし、役員報酬が一定額を超える場合、在職老齢年金制度による年金支給停止措置が続く可能性があるばかりか、支給停止された年金額は繰下げ受給による増額の対象外である点も留意すべきである。
こうした状況を踏まえ、シニア経営者は事業承継後及び引退後のライフプランを考慮し、最適な役員報酬額を一度検討することが望ましい。例えば、報酬を一定額以下に抑えることで在職老齢年金の支給停止を回避することが可能である。適切な報酬設計は、事業承継と生活設計の両面に寄与するものである。
なお、年金制度は頻繁に改正されるうえ、加入条件や適用範囲は個人の状況によって大きく異なるため、具体的な判断については専門家への相談を推奨する。
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