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本間純子 いつもの暮らし便 第52回/鯛の「タイのタイ」

私がまだ学生の頃のことです。俳優の浜畑賢吉さんがパーソナリティーをしていたラジオ番組が楽しみで、毎週チャンネルを合わせていました。選曲もすてきでしたが、浜畑さんの穏やかな語りが好きで、鉛筆が止まることもしばしばでした。劇団の旭川公演の後、いつもの食堂でいつものようにホッケの開きを所望した浜畑さん。北海道のホッケの開きがお好みで、来道する度にホッケを食べ、「エラのあたりにある魚の形をした骨」を探し続けてきたそうです。でもなかなか見つからず、今回やっと探し当てたと、本当にうれしそうに話していました。「エラのあたりにある魚の形の骨」とは、いったいどんな骨なんでしょう。手がかりは「エラのあたり」というざっくりしたもののみで、私はなかなか見つけられませんでした。

後日、この骨が「タイのタイ」と呼ばれていることを知りました。「鯛の鯛」とも「鯛中鯛」とも「魚の魚」とも言われます。胸びれを支える肩帯(けんたい)の一部で、魚の肩甲骨と烏口骨がセットになったものです。遠い遠い昔、魚は肩甲骨と烏口骨に胸びれをつなぎ、泳ぎの精度を上げました。胸びれの大きさや形、位置は、泳ぎ方と深く関係しているそうで、魚によっては胸びれと腹びれとの連携で、俊敏な方向転換を可能にしています。「タイのタイ」の目のように見える穴には、神経や血管が通り、胸びれを支えています。いい仕事をしているなぁと感じます。

私が「タイのタイ」の発掘に成功したのは、平成に入ってからです。初「タイのタイ」は、サケのカマから取り出した、サケの「タイのタイ」でした。サケの姿よりかわいらしいイメージですが、立派な背びれを持つ魚のように見えます。これを機に、鮮魚店で胸びれを見つけると「タイのタイ」目的で購入。煮付けて丁寧に解体し「タイのタイ」を取り出すようになりました。ニシンはレースのようにきゃしゃで繊細。シマゾイとキンキの「タイのタイ」は良く似ています。そして、ホッケは私も開きから取り出しました。まあるい形がキュートです。「タイのタイ」に魅了されている人は多いようで、ネット上にはたくさんのコレクションが披露されています。

ところで、正真正銘の鯛の「タイのタイ」は、スッキリとしたきれいな形をしています。鯛はお祝いの席に欠かせない魚で、赤い色と堂々とした姿は、慶事のイメージそのもの。見ているだけで幸せがやって来そうです。身離れがいいので、食べやすく、しかもおいしいのですが、残念なことに北海道ではとれません。魚屋さんで鯛のアラを見つけると、ワクワクしながら購入し煮付けにします。肩甲骨と烏口骨は離れやすく、油が残っていると変色するので、優しく丁寧に水で洗います。鯛の「タイのタイ」をお財布に入れておくと、お金が入ってくるとか、幸運のお守り…と、聞きます。でも、何より、取り出した時のハッピー感がなんとも言えません!是非、お試しを!

本間純子(アリエルプラン・インテリア設計室代表)
札幌を拠点に活動するインテリアコーディネーターで、カラーユニバーサルデザインに造詣の深い人物。コラム「いつもの暮らし便」は、インテリアの域にとどまらず、建物の外装や街並みなど幅広く取り上げます。


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