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【おとなの養生訓 當瀬規嗣】第292回 飲酒と入浴、危険極まりないのが明白

昔から、飲酒をした後の入浴は体に良くないとされています。子供の頃、父親が酔っぱらってから入浴しようとすると、母が強い言葉で止めることがしばしばありました。私もそういうものだと思い込み、一緒になって止めていたものでした。そんなわけで、成人になっても飲酒後に入浴することはありません。温泉宿に行って、食事で飲酒した時も、温泉に入ろうとする家族や同僚を見送って、自重しています。

飲酒後の入浴は、さまざまな危険性をはらんでいます。まず、重要なのは、入浴によりアルコールの分解速度が遅くなるといわれていることです。入浴して体が温められると、皮下の血管が開いて、体から熱を放出して体温の上昇を防ごうとします。このため肝臓への血流が相対的に減少し、血液中のアルコールを肝臓で分解する効率が落ちると考えられています。

つまり、入浴中はお酒を飲み続けているのと同じと考えられるのです。深酒した後の入浴は、どんどん酔いが回って、酩酊(めいてい)状態に陥りやすいのです。体が温まった状態で酩酊となると、一歩進んで眠気が出てきます。

これはアルコールによる意識障害なので、それだけで危険なわけですが、湯船につかりながら寝落ちしてしまいます。そうすると、そのまま体が沈んでしまい、溺死する危険性があるのです。顔がお湯につかっても意識が戻らないからです。

冬場の入浴時は、血圧の激しい増減がしばしば起こります。脱衣で寒さを感じ、急速に血圧が上昇します。そして湯船に入ると、血管が拡張するので血圧が急速に下がります。

このとき、血圧が下がりすぎ、ショック状態になることがあるのです。これをヒートショックといいます。ショック状態は、脳への血流が減って意識を失う危険性が高くなります。

また、血圧の激しい増減は、動脈の壁を傷めて、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす危険性もあるのです。飲酒は血圧の増減の幅を大きくすると考えられ、ヒートショック、心筋梗塞、脳梗塞を起こりやすくするのです。

どう考えても、飲酒後の入浴は危険極まりないのです。特に冬場の北海道は要注意です。年末で飲酒の機会が増えます。でも、帰宅後、入浴するのは避けてください。素直にご就寝するのが得策です。

當瀬規嗣(とうせ・のりつぐ)
札幌医大名誉教授、北海道文教大人間科学部健康栄養学科教授。生理学を研究する傍ら、テレビ・ラジオなどのメディアにも出演している。北海道建設新聞掲載のコラム「おとなの養生訓」では、現代のビジネスマンに欠かせない「健康」に関する情報をわかりやすく解説している。


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