【新年特集2025】オホーツクの強み生かし関係人口創出/都市圏にない魅力発信
オホーツク管内の自治体は土地の魅力を再確認して発信し、関係人口拡大に力を注いでいる。夏場の冷涼な気候、知床世界自然遺産や冬場の流氷といった絶景、紋別市と大空町には空港がある。これらは全てオホーツクの強みだ。都市圏にはない自然との共生空間が人々の心を引きつける。特定の地域に思いを寄せ、継続的に関わろうとする関係人口創出を目指す管内自治体の取り組みを紹介する。(画像はスポーツ合宿利用の多い北見市モイワスポーツワールド)
スポーツ合宿で人気 北見市
晴れの日多く冷涼気候
スポーツ合宿で北海道有数の受け入れ実績を持つ北見市には毎年、道内外から多くの競技チームが集まる。選手や関係者は市内に宿泊し、それは関係人口に直結する。選ばれる理由やその経済効果を調べた。
北見市教育委員会スポーツ課によると、2023年度のスポーツ合宿は144チームで2338人(実人数)。競技は14種目に上り、サッカーが30チーム522人、ラグビーが11チーム426人、スキーが35チーム381人、カーリングが20チーム204人。夏冬を問わず、多くの選手が汗を流す。
選ばれる理由についてスポーツ課の乾帝貴事業係長は「本州と比べて冷涼で湿度も低い気候であること。日照時間も長くて晴れの日が多い。こうしたことから練習もしやすいのでは」と分析。最長で17日間、市内に滞在した競技チームもあり、リピート率も高い。
日本女子プロサッカーリーグ所属のノジマステラ神奈川相模原は、2024年の合宿地に北見市を選んだ。広報担当者は「待遇の良さや受け入れ体制が充実していると感じた。トレーニングで天然芝のフルピッチを最大限に活用できる。気候も涼しく、コンディションを保(たも)てた」と振り返る。
スポーツ合宿による2023年度の経済効果は約4億円。主に宿泊、食事、移動に使われるため、市民にとって大きな恩恵だ。
宿泊施設不足が課題
課題は宿泊施設不足。乾係長は「各チームと話をして調整した上で、来てもらうようにしているが『毎年泊まっているホテルが予約できなかった。開催を見送る』といったケースもあった」と話す。「全てのホテルが各チームの要望に応えられるわけではない。そういった意味で足りなくなる時もある」と宿泊施設の質も重視されていることを説明する。
一方で、合宿地としてただ選ばれるのを待つだけではなく、選手を最優先に考えた〝おもてなし〟の姿勢が欠かせない。乾係長は「サッカーのチームで朝にグラウンドに水をまいてほしいという要望があった。なるべく応えたい」。選手が気持ちよく練習できる環境整備に力を注ぐ。
競技チームとそれを受け入れる北見市。スポーツ合宿は双方にメリットがあり、関係人口の増加にも一役買っている。
鹿屋体育大学 関 朋昭教授
多くのチーム集まる 魅力あるまちに
北見市スポーツ合宿実行委員会で、2017年からアドバイザーを務める鹿屋体育大の関朋昭教授。スポーツ合宿がもたらす経済効果などを聞いた。
保育園留学スタート 湧別町
子どもたちの成長後押し
湧別町は2024年9月、キッチハイク(東京)と共同で展開する保育園留学制度を始めた。認定こども園などでの一時預かり保育や移住体験住宅を活用したワーケーションをまとめて提供する。町は子どもたちの成長を後押しするとともに、関係人口創出につなげる考えだ。
主に首都圏に住む子育て世帯が全国各地の保育園を選び、1―2週間ほど現地に滞在する。北海道では厚沢部町が認定こども園はぜるで2021年に初導入し、現在は小樽、湧別、上士幌、清水、浦河の5市町も取り組んでいる。全国では47市町村が採用している。
湧別町は2024年11月末時点で1組(父母、子ども2人、祖母の計5人)が参加。25年は既に2組の予約が入っている。滞在中は職員住宅を改修して設置した移住体験住宅に入居してもらう。システムキッチンやユニットバスを導入し、平坦な床にリノベーション。子ども用の椅子やフォークやスプーンなど備品を用意した。
町の日常は特別な体験
湧別認定こども園では「ピースフルスクールプログラム」を採用し、意欲や忍耐力といった非認知能力、主体性を育むことを目標としている。保育園留学の導入は「自然・異文化体験を通じて子どもの感性や社会性を育てる」ことが目的。プログラムと合わせて、感受性豊かな子どもを育てる。
湧別町が保育園留学先に選ばれる理由として担当者は「紋別空港から車で30分ほどとアクセスしやすく、オホーツクのほぼ中央に位置しているといった地理的要因も大きいのでは」と推察する。
首都圏から来た参加者は「庭で走り回ったり花火ができる」「新鮮な海産物が食べられる」など、町民にとっては何気ないことが特別だったと話す。
保育園留学は移住・定住と異なり、滞在期間は決まっているが関係人口増加に直結する。「町を好きになった。また来たい」と思われることが何より大事だ。町は湧別高校への入学生を道外から募集している。保育園留学を経験した子どもたちが、将来入校してくれることを期待する。
移住相談拠点生かし 美幌町
多様な働き方の受け皿に
関係人口拡大の先に狙うのは移住・定住だ。美幌町は第6期総合計画(期間2016―26年度)で「住みやすく、人が集まる基盤をつくる」を掲げる。2021年5月の新庁舎完成後、まず手掛けたのが移住相談拠点施設を設置するWorking Space KITEN(移住相談等環境構築)事業だ。
コロナ禍で進んだテレワークと移住への関心の高まりをチャンスと捉えた。2022年度、みどりの村農村公園内にある休憩施設(W造、平屋、延べ216平方メートル)を改修し、移住相談拠点に転換する環境構築事業を展開。地域共創を掲げる東京のまちづくり会社・FoundingBaseが事業を担う。
「転職なき移住」をはじめ、多様な働き方の受け皿となることが目的。移住相談とともにサテライトオフィス、コワーキング兼イベントスペース、地域と来訪者の交流空間創出を目指した。設計を25年大阪・関西万博のパビリオンなどを手掛ける小野寺匠吾建築設計、工事を地元の宮田建設が担当した。
コンセプトは「自然と地域と人が交わり、新しいコトが進んでいく場所」。物事の起点となる願いを込め、KITENと名付け2023年4月にオープンした。
地域と交わるKITEN
自然に囲まれ、眼下に農村風景が広がるKITENは高い目標を順調にクリア。開業初年度に40%を掲げた道外利用割合は49.2%、1500人目標のコワーキング利用者は2057人に達した。
女満別空港から車で15分という地の利を生かした。宿泊先をチェックアウト後、フライトまでの時間を過ごすラウンジ需要を掘り起こしたことが奏功。FoundingBase運営リーダーの一戸現貴さんは「出張の行き帰りに北海道らしい景観、四季で変わる自然を楽しんでもらっている」と魅力を話す。
近隣市町村からの利用が多いことにも着目。地域同士の結びつきを強化するため、「オホーツクのキープレイスを目指す」と運営方針を定めた。共創を掲げるFoundingBaseは、社員3人を地域おこし協力隊として駐在させ、来訪者のやりたいことをサポート。飲食店開業を目指す町民へのキッチンスペース提供、北見市民の熱意をくみ取ったコーヒー講座などを支援。地域をまたぎ未来を創造する〝起点〟としての役割を発揮する。
今後は道外利用者を引き寄せる自然と隣り合った環境に磨きをかける。7月には、みどりの村再整備に着工して、グランピング施設新設や宿泊施設改修でワーケーション需要にも応える。
©2024 The Hokkaido Construction News Co.,Ltd.
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