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【弁護士田代耕平の独り言】第103回 もう遺言書作りました?

皆さまは遺言書をもう作成されていますでしょうか?現役世代の読者の皆さまの中で遺言書を作成されている方は少ないとは思いますが、今回は、遺言書についてお話したいと思います。

遺言書は、厳格な要式行為ですので、少しでも不備があると無効になってしまいます。自筆証書遺言といって、自分の「手書き」で作成することもできるのですがミスがないように注意が必要です。

例えば、日付を「11月吉日」などと記載してしまうとそれだけで無効です。遺言書を作成しようと考えるときは通常、高齢になっていることが多く、1人で遺言書を不備なく作成するのはなかなか大変ですので、費用はかかりますが、公証人役場というところで公正証書遺言を作成する方が安心です。遺産の金額によって公証人の費用は異なりますが、通常は数万円程度です。

また、自筆証書遺言の場合には、形式に不備がなかったとしても、本当に本人の筆跡なのかということが問題となって相続人間で熾烈(しれつ)な争いになることがあります。このような場合には筆跡鑑定などが行われますが、数十万円の費用が発生します。

なお、遺言書に書いたことは、遺言者は必ず守らなければならないと考えている方もいらっしゃいますが、それは勘違いです。例えば、長男に自宅を相続させるという遺言(遺贈)を書いてしまうと、自宅を売却などができなくなると考えてしまうのですが、自分の財産ですので自由に売却できます。遺言書と矛盾する行動をするとその部分の遺言は撤回されたものとみなされるのです(民法1023条2項)。

また、気が変わったときには遺言書を自由に撤回することができます。もっとも、新たに遺言書を作成して撤回する必要があります。口で言うだけではだめなのです。実務では、遺言書が何通も出てくることがありますが、最終の遺言書が効力を有することになります。

なお、遺言書の撤回権を放棄することはできないとされていますので(民法1026条)、これが最後の遺言書で絶対に変更しないと書いても後の遺言書で撤回や変更をすることができてしまいます。

何度も遺言書を書き変えるなんてことは信じられないかもしれませんが、ご親族から(強い?)要望を受けて何度も書き変えているようです。『こんな遺言書を親父が書くわけがない!兄貴に書かされたんだ!』とか『高齢の親父がこんな遺言書を書けるはずはない!』などと主張される方もいますが、誰かのお願いで書いたとしても、それが脅されたりだまされたりして書かされたものでない限り問題ありません。

また、通常の契約とは異なり遺言の作成に必要な意思能力の程度は若干低くてもよいと考えられていて、高齢であることだけを理由に遺言書の効力を争うのは難しそうです。遺言書は、お亡くなりになった後のことで本人に不利益はないので若干緩いのです。

高齢の両親が大病で入院されると、今までほとんど顔を見せに来なかったお子さんが急に毎日お見舞いに来てキャッシュカードなどを預かって金銭管理を始めるようなことがあるようですが、それは両親との最期の時間を過ごすためなのだと信じたいところですが、多くの紛争を見てくるとなかなか素直にそういう気持ちにもなれないのが弁護士業の悲しいところです。

田代耕平(たしろ・こうへい) 札幌総合法律事務所のパートナー弁護士を務め、労働問題や不動産取引、建設関連の分野に力を入れている。コラム「弁護士田代耕平の独り言」では、幅広い業種の仕事や生活に役立つ内容について解説する。


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