
本間純子のいつもの暮らし便 第53回/同系色で関連付ける?
「赤系の色で好きな色は?」と問われたら、あなたは何色を思い浮かべますか? 淡いピンクの桜色、強さを感じる茜色、紫に寄ったマゼンタ、落ち着いた樺色、いずれも赤系の色です。白を少しずつ加えた明るい赤系と、少しずつ黒を加えた暗い赤系をつなぐと、明暗のグラデーション(明度の同系色)になります。色相環の赤の左右にある赤紫や橙は、類似の色相関係で、これは色相の同系色。また、赤にグレーを加えていくと徐々に鮮やかさが失われますが、これは彩度違いの同系色です。このように赤の周囲にはさまざまな赤系の色があります。
確定申告書は、紙で提出する頃から結構カラフルで、収入金額や所得金額の欄が、緑、明るい青、赤などに色分けされていました。それぞれが太く黒い線で区切ってあるので、色が無くてもわかりますが、よりわかりやすいようにと考えたのでしょう。はっきりした色が付けられていました。インターネットで申告するようになったある年、緑、青、赤などの欄に関連する項目が、黄緑、水色、ピンクのように色分けされています。「緑と黄緑」「青と水色」「赤とピンク」のように明度の同系色でつなぎ、スムーズな入力作業を促す国税庁の配慮のようです。でも、私の頭に「?」が立ちました。色弱のタイプP型、D型の人は、「赤とピンク」などの色の結びつきを、明度の同系色と認識しないかもしれない…と。
「黄緑と黄色とオレンジ」「水色とピンクとグレー」は、混同色の代表的なグループで、P型、D型には似た色に感じられ、見分けるのが難しい色です。「黄色?オレンジ?」「ピンク?いやグレー?」と、かなりモヤモヤすると言います。ページが改まり、唐突に黄色やグレーに見える欄が現れたら、理解するまでに少し時間が必要かもしれませんし、モヤモヤ時間が増えそうな気もします。「緑と黄緑」「青と水色」「赤とピンク」の色のひも付けは、必須だったのでしょうか。
日本には300万人以上のP型、D型の人がいると言われています。全員が確定申告をする訳ではありませんが、あの時、モヤモヤした人はきっといたはずです。確定申告のおしまいに、アンケートがありました。「確定申告書の色使いを、見分けにくいと感じる人がいると思われるので、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)に相談してほしい」と書き込みました。すると、次の年から、すっきり見やすい申告書に大変身!私だけでなく、同様の意見を寄せた人がいたのでしょう。すぐに対応してくれた国税庁に感謝です。
同系色を使用した指示書や案内図、プレゼンのスライドなどは、日常的によく見かけます。わかりやすく色を付けたつもりが、わかりにくい残念な色使いになっていることが少なくありません。色を付けない方がわかりやすい場合もあります。印刷する前、もしくはデータを送信する前に、いま一度確認しましょう。「その色は本当に必要でしょうか?」
本間純子(アリエルプラン・インテリア設計室代表)
札幌を拠点に活動するインテリアコーディネーターで、カラーユニバーサルデザインに造詣の深い人物。コラム「いつもの暮らし便」は、インテリアの域にとどまらず、建物の外装や街並みなど幅広く取り上げます。
©The Hokkaido Construction News Co.,Ltd.