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【おとなの養生訓 當瀬規嗣】第290回 伝世された「太る」遺伝子

われわれ人類の遠い先祖は、2億5000万年前から始まった中生代に出現したといわれます。その頃は、ご存じ恐竜が地球上を闊歩(かっぽ)していた時代です。先祖は小さなネズミ程度の大きさであり、恐竜と遭遇すれば、食われるか踏みつぶされるのが落ちという状況だったと考えられます。

そのため先祖は、恐竜の動きが鈍る夜間に主に活動していたと考えられています。夜陰に乗じて餌を探しまわり、おなか一杯食べて、昼は木陰や岩の影に潜んでいたと考えられるのです。

そこで、夜間に食べた栄養素を体に効率よくため込む必要があり、そのように働く遺伝子を持っていました。この遺伝子は午後10時ごろから午前2時ごろまでの間に発動し、脂肪の代謝にかかわる酵素を作り出します。

この酵素は、食べた栄養を基本的に脂肪にして蓄積するように促します。つまり「太る」酵素なのです。先祖は少ない摂食の機会を最大限に活用し太ることで、1日の必要カロリーを賄っていたのです。

この「太る」遺伝子は、もっぱら昼に活動するようになったわれわれにも受け継がれています。午後10時ごろから午前2時ごろの間は、通常なら床に就く前から睡眠中ということになるので、この遺伝子は有効に働くことはありません。

ただ、この時間帯に食事をする可能性はあります。一つは夜食です。夕食後5、6時間たった頃ですので、空腹を感じる時間帯であることは間違いありません。仕事や勉強などで頭を使っていたり、深夜勤務で体を使っていたりするなら、食事をして脂肪としてためられても、すぐに消費してしまうでしょう。

しかし、酒席での夜食や酒席の終わりの締めの食事は、気を付けた方がいいでしょう。まず、アルコールは肝臓に作用して、糖分を血液中に放出することを妨げます。これをアルコール性低血糖と呼びますが、軽度のものは血糖の低下により食欲を増強するからです。空腹を感じていますが、それまで食べた栄養は消費されず、肝臓などにたまっているだけなのです。

軽い低血糖の状態で、午後10時ごろから午前2時ごろに食欲に負けて何か食べてしまうと、全部脂肪になります。それまで食べたものと夜食として食べたものの両方が体にたまっている状況です。これを繰り返すのは肥満となるリスクになります。締めは危険です。

當瀬規嗣(とうせ・のりつぐ)
札幌医大名誉教授、北海道文教大人間科学部健康栄養学科教授。生理学を研究する傍ら、テレビ・ラジオなどのメディアにも出演している。北海道建設新聞掲載のコラム「おとなの養生訓」では、現代のビジネスマンに欠かせない「健康」に関する情報をわかりやすく解説している。


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