【事業承継を考える】第48回「自社の企業価値とは?」準備の〝一丁目一番地〟
一般社団法人事業承継協会(東京)の認定資格である事業承継士が、経営者にとって関心が高い事業承継について現状や課題などを解説します。第48回は吉田潤生さんです。
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事業承継で本当に重要なことは『会社の価値を未来に繋ぐ』ことではないだろうか。
ではその「会社の価値」とは何か? それは事業用資産(土地・建物、設備、資金など)の評価総額のことではなく、その会社がこれまで蓄積してきた独自ノウハウや技術、人材そして信用などのこと。
試しに中小企業経営者に「貴社独自のノウハウは何ですか?」と聞くと、「独自ノウハウと言えるほど大それたものは無い」と答える経営者が意外に多いのだが、もし本当に競合他社と比べて何も勝る(=誇れる)ものが無ければ、そんな会社はとっくに存在していないはずだ。逆に言えば、地域や社会に必要とされる〝何か〟があるからこそ、今まで存続できたのではないか。
もちろん各企業は自社が保有する商品や技術、サービスなどを提供して対価を得ているわけだが、「どうやれば最大限の効果(クオリティ)を上げることができるのか?」また「どうすれば売上(利益)を上げられるか?」そして「どのような対外的アピールをするのか?」など、それぞれの企業がこれまで真剣に工夫し、改善してきた努力とその結果の蓄積の中に組織固有のノウハウが含まれる。
しかしながら、そのノウハウがきちんと伝承(承継)されていなかったり、社内で共有されずに一部のベテランといわれる人のみの〝技〟に留まってしまっていたりすることが多い。
だから経営者ですら十分に言語化(視覚化)できずに、結果としてお客さまの目線とずれた認識だったりする。(実際、顧客の声と一致しているかまで検証している経営者はごくわずかだ)
自社の企業価値を明確にすること、そしてそれを後継者のみならず従業員に伝えることこそが本当の意味での事業承継準備だろう。
これが満足に伝わっていないと、後継者は妥当性のある経営戦略を立案することが難しくなり、早晩、経営が行き詰まることが予測できる。このため、焦って新規事業の開発に夢中となって本業を疎かにしてしまい、会社を傾かせてしまうなどといったケースをたくさん見てきた。
「自社の企業価値」について真剣に考えることは、事業承継を進めるうえでの〝一丁目一番地〟なのだ。
論点が少しずれるが、2026年には『事業性融資推進法』が施行され、企業価値が融資の評価対象となっていく予定だ。経営者保証を外すためにも、今のうちから真剣に取り組んでおくことを強くお勧めする。できればその検討やリサーチなどを後継者候補と一緒に進めてほしい。それが後継者に自社の価値を理解させる近道であり、経営を学ばせる最良の機会でもあるのだから。
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