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【弁護士田代耕平の独り言】第100回 土地売買と土壌汚染

今回は、土地売買と土壌汚染についてお話したいと思います。土壌汚染は土地の価値に大きな影響を与えます。もし、土壌が汚染されていてこれを除去しようとする場合には、莫大(ばくだい)な費用(数千万円から数億円かかることもざらです)が発生してしまいます。それにも関わらず土壌汚染は土地を購入しようとする側には、なかなか分かりません。

そこで、売主に土壌調査をする義務があるかというと、一定の場合(水質汚濁法上の特定施設の廃止等)には土壌汚染対策法等で義務付けられていることもありますが、一般的には調査義務までは課せられていません。

もっとも、過去に土壌汚染の可能性がある利用方法がされていた場合(「地歴」と言います。クリーニング店や印刷業などは薬品を使用することから土壌汚染の可能性を指摘されることがあります)には、買主は土壌調査がないとなかなか購入には踏み切れませんので、事実上、売主が売却するために土壌調査しなくてはならなくなることもあります。

それでは、土壌調査をしないまま購入後に土壌汚染が判明した場合は、売主に責任を追及できるのでしょうか。買主は土壌汚染を発見してから1年以内に通知をすれば売主に契約不適合責任(損害賠償等)を追及できます(民法566条)。

しかし、企業間の土地売買のときは、法律上は、引渡から6カ月以内に売主に通知しなければ契約不適合責任を追及できなくなってしまいます(商法526条)。

もっとも、商法526条は任意規定とされていますので、契約書で通知期間等を変更することは可能です。逆に、売主が宅建業者の場合には最低でも引渡から2年間は契約不適合責任を負います(宅建業法40条)。

他方で、売主の契約不適合責任が免除されている場合もあるのですが、売主が宅建業者でなければ、この免責特約も有効です。もっとも、売主が事業者で買主が一般の消費者の場合には、消費者契約法で全面的な免責特約は無効となります(消契法8条)。

このように、売主と買主の属性によって契約不適合責任の通知期間や免責特約の効力が異なるので契約をするときは注意が必要です。

その中でも最も注意が必要な類型は企業間における土地の取引だと思います。あらかじめ土壌調査を行った上で売買を行うことが良いのですが、調査にもそれなりの費用が発生することから土壌汚染の可能性がそれほど高くないときには、調査をせずに売買が行われることもあります。

その時に、上記免責特約があると、購入後に土壌汚染が判明すると大変なことになります。企業間の免責特約は有効なので契約不適合責任を追及することができません。

もっとも、売主が土壌汚染を知っていた場合(悪意)には免責特約の無効を主張することができますが(民法572条)、売主の悪意の立証は容易ではありません。そこで、知らなくても「重過失」がある場合にも免責特約を無効とした裁判例もありますが、重過失の立証も決して容易ではありません(東京地判平成15年5月16日)。

やはり、地歴調査で土壌汚染の可能性がある場合には費用をかけてでも調査を行うことが必要そうです。調査を行わない場合には契約書の条項(通知期間や免責規定等)に相当な注意が必要なので弁護士等にリーガルチェックをしてもらうことをお勧めいたします。

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田代耕平(たしろ・こうへい) 札幌総合法律事務所のパートナー弁護士を務め、労働問題や不動産取引、建設関連の分野に力を入れている。コラム「弁護士田代耕平の独り言」では、幅広い業種の仕事や生活に役立つ内容について解説する。


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