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【アートランダム 柴橋伴夫】/第52回 「瑞祥のかたち」を夢見つつ

皇居東御苑内の一角に1つの美術館があります。それが「三の丸尚蔵館」です。この美術館は、宮内省が管理・運営しております。ここには、皇室伝来の書跡・絵画・工芸品など数多く所蔵されております。新春にふさわしく、めでたい作品に焦点をあてた個性的な展覧会が開催されております。タイトルは「瑞祥のかたち(Inviting Fortune)」といいます。3月2日まで開催されております。

瑞祥(ずいしょう)とは、〈めでたい〉ことが起こる前兆を指すことばです。吉兆の意味もあります。日本人は、古くから瑞祥の図や彫刻を愛でてきました。例えば龍は、中国では神獣・霊獣となり皇帝のシンボルとなりましたが、日本では〈水の神〉として、龍神信仰がうまれました。禅寺の天井には、寺を火災から護ることを願って龍図を描いております。この展覧会では、古代中国において不老不死の仙人が住むと考えられた蓬莱山や霊峰・富士、長寿のシンボルとして松や鶴、さらに宝船や霊獣などを主題にした作品が多く集められております。江戸時代から近代にかけて活躍した作家による日本美術の名品が華やかに展示されております。横山大観「日出処日本」や、〈奇想の画家〉伊藤若冲「旭日鳳凰図」、2代海野美盛「鳳置物」などです。

今回この展覧会の出品作から、皆さんおなじみの1つの〈おめでたい〉作品を紹介したいと思います。宝船の「長崎丸」です。宝船とは、七福神や八仙が乗る宝物を積み込んだ帆船のことです。その大きな帆には「寳(宝)」、「壽(寿)」などといった縁起の良い一文字が書かれております。

また宝船が描かれた絵図を、正月2日にその絵を枕の下に入れて寝ると、良い初夢を見ることができると言われてきました。さてこの宝船「長崎丸」は、大正時代に江崎栄造という工芸家がべっ甲細で制作したもの。長崎県から皇室に献上されたもので、農産物や水産加工物など長崎の物産が二十七種類積載されております。

みなさんは、どんな初夢を見たでしょうか。昔の人のように宝船が描かれた絵図を枕の下にして寝た方はいないかもしれませんが、これからでも遅くないので、何か縁起物の、〈瑞祥のかたち〉を想い描きながら寝るといい夢を見ることができるかもしれません。

何よりも2025年には紛争や戦火が収まり、平和な一年になることを、夢ではなく現実になることを願いたいと思います。

柴橋伴夫(しばはし・ともお):1947年岩内町生まれ。北海道教育大札幌校卒。展覧会評を美術誌「美術ペン」や新聞などに寄せる。「ギャラリー杣人」(喜茂別町)の館長。コラム「アートランダム」では、道内ゆかりの絵画や建築、彫刻といったアート作品や展覧会などアートな話題を紹介する。


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