本間純子 いつもの暮らし便 第47回/魅力的な鳥獣戯画の世界
道立近代美術館で開催中の「鳥獣戯画 京都高山寺展」が人気です。7月の金曜日、時間を作って、近美に向かったところ、西門側に長い列ができていました。係の人が言うには、観覧の1時間待ちの列とのこと…。美術館の中には、その2倍もありそうな蛇行する人波が見えます。最後尾に並んでも、午後の仕事に食い込むことは確実なので、出直すことにしました。ラッキーなことに、その日はカルチャーナイトで、21時までの開館です。そこで、夜に再挑戦を決意。19時少し前に着くと、列はありません。すぐに入れると思いきや、整理券が渡されました。「1331」です。その時、入室可能な番号は「1130」。なんと200組待ち!アイスコーヒーを飲み干し、浮世絵展を時間をかけて観覧、鳥獣戯画グッズを冷やかして、やっと会場に入れることに…。
大人気の「甲巻」。みなさん、なかなか動きません。鑑賞に集中できないまま、半分押し出されるように「甲巻」を離れることになりました。作品は虫食いの跡はあるものの、どの線も美しく、生き生きとして、描き手の筆の動きが見えるようです。国宝と言われる作品はどれも雄弁で、パワフルに語りかけて来るものが多く、こちらは見ているだけですが、ヘトヘトになります。「甲巻」は、語りかけてはきませんでしたが、絵師が描く姿を見たように感じました。わずかでしたが、楽しい時間でした。
それにしても和紙と墨のこの作品は、なんと長生きなのでしょう。800年間、どの時代の人も、きっと楽しんだことと思います。中には、高山寺から借りた巻物から1枚を抜き取った、よろしくない人もいたようで、高山寺の朱色の印は、盗難防止として、紙の継ぎ目に押したものです。お手本として、描き写したくなる人も多かったはずで、実際に、鳥獣戯画を写した模本がいくつも作られました。模本の模本、更にその模本…と、多くの絵師、画家に、影響を与えたといいます。私のご先祖さまは、どこかでこの兎や蛙に出会えたでしょうか。模本の模本の…かもしれませんけれど。本物に会えた私は、よい時代に生まれたと思います。
「甲巻」の魅力は、擬人化した兎、蛙、猿などの動物たちです。動物らしい姿なのに、人のような動きをしています。猿は二足歩行することもありますが、兎や蛙はしません。骨格が違うので、後ろ足で歩いたり走ったりはできないのですが、「甲巻」の兎や蛙は、当たり前のように後ろ足で立ち上がり、走ります。その秘密を、古生物学者の荻野慎諧氏が、ユリイカ通巻772号で解説をしていました。動物の姿と人の動きの絶妙な境目を、絵師たちは探っていたようで、前肢、後肢、頭の据わりに、嘘に見えない工夫があるといいます。「生物学的な誤り」が前面に出ると、絵画として成立しなかったでしょう。しっかりした観察力と、卓越した画力が、鳥獣戯画の根幹を支え、私たちを魅了し続けています。
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