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【透視図】日本被団協にノーベル平和賞

米国でもこんな内容の作品が興行的な大成功を収める時代になったのか―。原爆の父と呼ばれた米物理学者ロバート・オッペンハイマーの栄光と悲劇を描いた映画『オッペンハイマー』(ユニバーサル)の第一印象である▼そこでは当時最先端の原子力爆弾開発を主導する知的興奮とともに、大量破壊兵器を誕生させてしまうことへの不安や、広島と長崎で多くの民間人が犠牲になった現実に苦しむ姿も描かれていた。

あの原爆は大戦の終結を早め、世界を平和に導いた正義の新兵器。米軍兵士の命も救った。それが多くの米国人の戦後一貫した考え方だったろう。開発や投下に疑問を呈する主張が表舞台に立つことはなかった。ところが今、映画が高い評価を受けている▼原爆の悲惨さを証言してきた方々の運動の成果でもあるに違いない。11日に「ノーベル賞2024」の平和賞に選ばれた日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)もその一つである。68年間にわたり被爆者の立場で核兵器廃絶を訴えてきた。

受賞理由は、草の根の運動で核兵器のない世界の実現に力を尽くしてきたこと。原爆の怖さを実際に知っているのは広島と長崎の人のみ。強い願いと責任感で運動を続けてきたのである▼ただ、先の映画にはこんなやり取りもあった。開発を進めるオッペンハイマーに友人が問う。「物理学の発展に泥を塗るのか」。彼はこう答える。「ナチスより先に完成させなければ世界は救えない」。この構図は現在も変わらない。今の愚かな人類には抑止力が頼り。日本被団協の願う世界の実現はまだ遠い。


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