【透視図】本読んでますか?
歩くことを苦にしない人が車の免許を取った途端、近くの店へ車で行くようになる。楽な方に流れるのは人の常。よくある話だろう▼そう考えるとテレビはもとよりユーチューブやSNS、映画のサブスク配信など面白いものが世にあふれている時代に、読書をしている人がまだ少なからずいることに意外の念を持つ。文化庁が先頃発表した国語世論調査によると、1カ月に1冊以上本を読む人が36.9%いたそうだ。
近くの店へは歩いて行く36.9%派の当方としては、同類の存在を知りうれしい限りである。そこで今日は同好の士に、当方がことし読んだ中で強く印象に残った本を3冊紹介したい▼まず早瀬耕の『未必のマクベス』(ハヤカワ文庫)。最初から最後まで胸の鼓動が止まらない圧巻の犯罪・経済小説であり、純愛物語でもある。次にフリージャーナリスト林智裕の『「やさしさ」の免罪符』(徳間書店)。押しつけられた〝正義〟がいかに社会を歪ませるか、事実を丹念に積み重ね検証していた。
最後はエドワード・ラザファードの『ロンドン』(集英社)。テムズ川沿いの小集落だったロンドンの変遷を、幾つかの家系を軸に紀元前から現代まで追った歴史小説である。史実を折り込みながら上下巻計1000ページ超の大冊を飽きさせずに読ませる作家の力量は見事▼英文学者寿岳文章はかつて、数千冊の本を死蔵するより一冊を深く愛し読む人の方が素晴らしいと説いた。もっともだがその一冊に出会うのが難しいのである。これを見つけるのばかりは車で楽をするようなわけにはいかない。
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