【透視図】若者たちの心の闇
日本を代表する作詞家の阿久悠さんは、記憶していたい日々の事件を「ニュース詩」として書き留めていた。その中に若者の残忍な事件に触れた「心の闇とマッチ」がある▼一節を引く。「闇はある 誰にもある 少年だけではなく 少女にも その親にも また その親にも 生きている限り闇はある」。ただ、日本が本当に苦しかった自らの子ども時代には皆、闇を照らす数本のマッチも持っていたと記している。
あるのとないのとでは大違い。阿久さんの詩はこう続く。「か細い炎でも 闇を照らす うまくすれば 出口も見つかる 今 少年たちに必要なのは 闇の解明より 数本のマッチにあたる知恵だ」(『ただ時の過ぎゆかぬように』岩波書店)▼この残酷な事件も、犯行に加わった若者たちの誰一人としてマッチを持っていなかったのかと暗たんたる思いが拭えない。江別市の公園で、男子大学生が交際相手の女子大学生を含む多数の若者に暴行を受け、全裸で放置され死亡した事件のことである。
経緯はまだ分からないが、25日深夜から翌早朝にかけて事件は起きたようだ。昨日までに16歳から20歳の男女6人が逮捕された。社会経験の少なさゆえの若者たちの暴走で済ませるわけにはいくまい。死亡した男子学生の親ごさんらの怒り、悲しみは想像するに余りある▼阿久さんは別の詩にこう書いていた。「きびしさのない社会は 歓喜なき自由と引き換えに 生命を軽くする」。子どもを叱れない社会になって久しい。知恵のマッチを手渡すべき大人たちも今、それを失っているのでないか。
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