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【透視図】トランプ米大統領の乱心
ロシアがまだソ連だったころ、ソ連のプロパガンダ(思想宣伝)技法を端的に示した、西側のこんな小ばなしがあったという▼米国人がソ連人に「ソ連のエンジニアの給料はいくらか?」と問うと、ソ連人はしばらく黙り込んで考えた後、こう返した。「だって米国では黒人がリンチされているではありませんか」。人権に絡む質問に正面から答えず、そちらにも問題があると指摘して本質から目をそらさせるわけだ。
関連する都合の悪い事実を不意に突きつけられると人はひるむ。その隙につけ込み、立場の逆転を図るのである。猟犬に強烈な臭いを嗅がせて注意をそらす手法になぞらえ、「燻製ニシンの虚偽」と呼ばれているそうだ。『諜報国家ロシア』(中公新書)に教えられた▼この諜報活動に誰よりも長けているのが、かつてKGB(ソ連国家保安委員会)に所属し、後継のFSB長官も務めたプーチン露大統領である。どうやら12日のトランプ米大統領との電話会談でその手腕を存分に発揮したらしい。
ロシアのウクライナ侵略で最近、事実を歪めたトランプ氏の発言が目立つ。米テレビ局CNNによると18日の米ロ高官協議後、戦争はウクライナが始めたとの印象を与える主張を開陳。19日にはSNSでゼレンスキー大統領を選挙なき独裁者と酷評した▼勝手な想像だが、トランプ氏の〈すぐ戦争を止めよ〉との要求に対し、プーチン氏が〈そちらは米国第一主義、こちらもロシア第一主義なだけ〉とかわす姿が目に浮かぶ。さて、トランプ氏は実際、プーチン氏にどんなニシンを嗅がされたのか。
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