見出し画像

【透視図】技能実習生の失踪が過去最多を記録

いい働き口があると紹介業者にそそのかされ、勇んで現場に行ってみると、そこはひどく過酷で劣悪な職場だった。オホーツク海でカニを捕る労働者の悲惨な実態を描いた小林多喜二の名作『蟹工船』である▼中にこんな一節があった。「学生は十七、八人来ていた。六十円を前借りすることに決めて、汽車賃、宿料、毛布、布団、それに周旋料を取られて、結局船へ来たときには一人七、八円の借金になっていた」。

気づいたときには借金がさらに膨らんでいて、逃げられない状況に追い込まれていたわけだ。船の上は外の目が届かない、いわば密室状態。殴られても蹴られても命じられた仕事をこなすしかない。かなり改善されたとはいえ、技能実習生にとってはそれに近いと感じさせられる職場がまだ一部あるのだろう▼2023年に失踪した技能実習生が全職種合計で、過去最大の9753人に上ったそうだ。出入国在留管理庁が最近まとめた調査で判明した。20年の失踪数から3800人以上増えている。

国別で最多は5481人のベトナムだが、これは母数が大きいせい。数は減っている。懸念は1765人のミャンマーで前年比約3倍。政情不安での来日が多く、制度がよく理解されていないようだ▼職種別で気になるのは全体の47%を占める建設分野。職場の改善や親身な世話、言語への配慮などを進めているが、それでも文化の違いや借金に耐えられない人は出る。蟹工船のような悪質な受け入れ先を排除し、相思相愛の関係を増やしていく。失踪者を一人でも減らすため地道に取り組みたい。


©2024 The Hokkaido Construction News Co.,Ltd.

ここから先は

0字

透視図

¥1,000 / 月 初月無料

北海道建設新聞のコラム透視図をまとめた月額マガジンです。ご購読中に追加されたコラムを、全て読むことができます。

記事の更新情報は公式X(Twitter)アカウントでお知らせしています。