グリーンビルディングに注目 先行投資として期待高く

2021年09月03日 10時00分

認証物件少ない道内に好機

 ESG(環境・社会・企業統治)重視の流れを受け、環境認証を受ける不動産物件が国内で増えている。日本政策投資銀行と日本不動産研究所による環境不動産認証制度「DBJ Green Building(グリーンビルディング)認証」は、2012年に43件だったが、21年3月末時点で1073件まで拡大。脱炭素化など社会的な流れも追い風に、注目度は年々高まっている。(経済産業部・宮崎 嵩大記者)

認証を受けている大同生命札幌ビル

 建築物の省エネ性に加え、駅からの距離や医療・託児施設設置などの利便性、耐震性や防犯カメラ、24時間警備の有無をはじめとした防犯・防災、地域とのつながりなど幅広い基準で建築物を5段階評価する認証制度。対象となるのは新築、改修、既存を問わず、オフィス、物流施設、商業施設、レジデンスの4種。

 特に国が脱炭素を強く掲げた20年に大きく件数を伸ばした。7割が東京都内の物件で、3割が他の政令指定都市など。道内は札幌市内を中心にオフィス8件、物流1件、商業6件、レジデンス8件とまだ少ない。

 制度運営に携わる日本不動産研究所(本社・東京)の古山英治次長は「選ばれる物件になるため、これからの時代に必要な認証になる」と話す。

 認証に向けては、節水機器や太陽光・風力発電システムの導入、リサイクル資材のほか断熱性能を高める資材・工法の利用などが評価対象で、通常より1―2割ほど多くコストがかかるという。ただ「先行投資としての期待値は高く、認証物件が少ない地域こそ今がチャンス」と強調する。

 札幌市内も再開発によるオフィス大量供給を控えていて、既存のオフィスビルは入居者の維持が課題となる。大規模改修などと併せて認証を受けられれば「ほかの物件と差別化を図れる」(古山次長)。

 オフィスを借りる企業側の環境意識も向上している。日本不動産研究所による分析では、立地などの条件が同じ場合、同認証を受けた物件の方が5.9%賃料が高くなることが分かった。また、事業者に対するヒアリングでは、テナント誘致に要する期間が短くて済むという意見も多かった。「賃料が高くても環境認証物件を選ぶケースが増えている」という。

 環境負荷を考慮した建築物でなければ、生き残れないという世界的な流れも生まれ始めている。英国ではエネルギー性能が一定以下の物件賃貸は違法。オランダも23年1月以降、性能基準を満たさないオフィスの使用が禁止される。古山次長は「将来的に日本でも同様のルールが設けられる可能性もあり、早めの備えが必要」と指摘する。

 日本不動産研究所は20年、間口を広げるため、ホームページに自己査定システムを設けた。本認証同等の精度で、新築の場合、設計段階での申請・認証も可能。北広島市で建設中のエスコンフィールドHOKKAIDOも同認証最高評価を受けた。

 設計会社、ゼネコンによる利用が多く、認証基準に沿う設備などの導入が積極的に進んでいる。「気軽に使ってもらい、今後、認証を受けることが建築物のスタンダードになれば」と期待する。

 ESG投資に対する関心の高まりで、資金調達の選択肢が増えるのも環境認証が持つメリットだ。現在の認証先は、このメリットを受けやすいJ―REITなど投資法人が8割を占めている。ただ、近年は「物件の価値を高めたい」と考える不動産事業者の認証取得も増加しているという。

 同認証は進化を続けていて、8月には新たに木材利用の取り組みを評価項目に追加した。さらに、他の用途の施設も認証対象とすべく、協議を進めている。建築物に対する価値観のアップデートが求められる時代になっている。

(北海道建設新聞2021年9月2日付1面より)


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