コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin

巨額詐欺事件

2021年12月03日 09時00分

 俗に「欲の皮ほど深い川はない」という。芥川龍之介の『魔術』もそんな人間の欲について掘り下げた短編だった

 ▼主人公たちがバラモンの秘法を学んだ青年の家に集まるところから話は始まる。青年は魔術で石炭を金貨に変え、テーブルに積み上げた。青年が元に戻そうとするとある男がもったいないと言い出す。欲のない主人公は元に戻すのに賛成だ。激しい議論の末、トランプで勝った者が総取りすると決めた。主人公は勝って元に戻そうと考えたのである。男は自分の全財産も加えて賭けたが運は巡ってこない。勝利を確信した主人公はそこで気持ちが揺らぐ。「私は向うの全財産を一度に手に入れることが出来る」。そう思った途端、金貨は幻のように消えてしまった

 ▼詐欺の疑いで1日までに逮捕されたソニー生命保険社員の石井伶容疑者も今、同じみじめさを感じているのでないか。ソニー生命の海外子会社名義口座から米国の銀行口座に不正送金させる手口だったという。その額なんと170億円。報道によると石井容疑者は当時、ソニー生命の財務部所属で子会社の社員も兼務していたという。ことし5月中旬、在宅勤務だったのをいいことに、社内の正式な手続きを経たと偽って送金を指示したとみられている。指を動かすだけで資金を右から左へ。魔術師にでもなった気分だったのかもしれない

 ▼被害は送金の翌日、別の社員が口座残高を確認したことで発覚したそうだ。機械はごまかせても人をだますことはできなかった。しかし170億円とは。いくらなんでも欲の川が深すぎだろう。


立憲民主党新代表に泉氏

2021年12月02日 09時00分

 先の大相撲九州場所で全勝優勝を果たした横綱照ノ富士の取組は見事のひと言だった。15日間のうち、一瞬でもヒヤッとするような場面があったのは2、3日でないか。それとて負けを予感させるほど追い詰められる展開ではなかった

 ▼大相撲界を長年引っ張ってきた名横綱白鵬が引退した後の一人横綱である。重責を一身に受ける立場だが、悲壮感などはみじんも感じさせなかった。かなり精進を重ねたに違いない。照ノ富士と同じくらいの強さと品格を備えるとは言い難いものの、衆院選で絶対安定多数を得た与党自公政権も政治の世界では横綱ということになろう。その伝でいくと野党第1党の立憲民主党は大関である。横綱に一歩も引かぬ覚悟と名勝負を生む技が求められよう

 ▼さて、この衣替えでこれからの取組にも変化が見られるだろうか。11月30日に行われた立憲民主党の代表戦で、泉健太氏が新代表に選ばれた。泉氏は党前政調会長。決選投票で逢坂誠二元首相補佐官を破り代表の座を勝ち取った。やはり相撲に例えると立憲民主の国会対応は、猫だましで意表を突いたり、初切(しょっきり)で披露される砂かけのような嫌がらせをしたりと少々意地の悪さが目立つ。横綱を意識しすぎ、がっぷり四つの政策論争に二の足を踏んでいるようにも見える

 ▼有権者の多くが下す〝批判だけの政党〟の評価もそんなところに起因していよう。泉氏は批判政党の印象を払拭し、政策発信を強めるとの考えを表明している。衆院選明けの初場所となる臨時国会は6日に召集される。堂々たる戦いを見たい。


ロブスターも苦しい?

2021年12月01日 09時00分

 古くからの漁師町、山口県仙崎で生まれ育った童謡詩人金子みすゞに『大漁』の詩がある。「朝焼 小焼だ 大漁だ。大羽鰯の 大漁だ。浜はまつりの ようだけど 海のなかでは 何万の 鰯のとむらい するだろう」。感受性の強いみすゞの目には悲しい光景に映ったらしい

 ▼『おさかな』という作品では「海の魚はかわいそう」「いたずら一つしないのに、こうして私に食べられる」と魚の悲運を嘆いてもいる。分け隔てない命への優しさに胸を打たれはするものの、こうしていちいち食べ物に感情移入していてはさぞ生きずらかったろうと思わずにいられない。香ばしく焼けた魚を前にして、魚がたどったつらい運命に思いをはせる人はまれだろう

 ▼ところがこんなニュースを聞くと、今どきは〝海産物はかわいそう〟と思えない方が野蛮なのかといささか考え込んでしまう。英国でロブスターやカニを生きたままゆでることが法律で禁止される可能性があるというのである。時事通信がきのう伝えていた。ことし5月、議会に動物福祉法改正案が提出されたのを機に、政府が軟体動物や甲殻類も苦痛を感じる動物かどうか調査していたらしい。依頼を受けた専門家チームが出した答えは〝痛みや苦しみを感じる科学的証拠がある〟だった

 ▼生きたままゆでるなど残酷の極み。牛や豚同様、穏やかに処理する方向へ転換すべきというわけだ。ゆくゆくはロブスターもカニも、気絶させてから調理する流れになるのかもしれない。浜ゆで毛ガニを前にすると涙よりよだれが出る当方には理解が追い付かない。


オミクロン株

2021年11月30日 09時00分

 宇宙船「ノストロモ号」の乗組員が未知の凶暴な宇宙生物に次々と襲われていく―。ご存じリドリー・スコット監督のSFホラー映画『エイリアン』(1979年)である。映画史に残る傑作だった。まがまがしくも美しいエイリアンの姿を思い出すだけで鳥肌が立つ

 ▼終盤の息詰まる攻防を覚えている人も多かろう。最後まで生き残った女性がエイリアンもろとも母船を爆破。自身はシャトルで脱出する場面である。ほっとした女性は冷凍睡眠装置に入ろうとするが、そこでエイリアンもシャトルに乗り移っていたことに気付く。命を懸けた壮絶な戦いがまた始まる。倒したはずの相手がしつこく繰り返し襲ってくるのは、ホラー映画の常道だろう

 ▼物語だからこそ怖くても楽しめる。現実だとそうはいかない。一時は制圧したかに見えた新型コロナウイルスが、再び世界各国で猛威を振るい始めた。新たな脅威となる「オミクロン株」という変異株まで出現したそうだ。エイリアン並みにしつこい怪物でないか。オミクロン株は最初に南アフリカで見つかった。英国やドイツ、香港などでも確認されているという。WHOはデルタ株と同じ「懸念される変異株」に指定し、警戒を呼び掛けている

 ▼収束状態が続く日本も危機感を強め、きょうから全ての外国人の新規入国を原則停止した。海外との交流が元に戻りかけていただけに残念だが、第6波の懸念が拭えない以上、様子見もやむを得まい。このウイルスは急に姿を消し、人間に隙ができるとまた攻撃してくる。どうやらほっとするのはまだ早いらしい。


Go To トラベル再開

2021年11月29日 09時00分

 日常のしがらみから解放されるせいだろうか。旅に出るとどこか浮かれた気分になる。弥次さん喜多さんの珍道中を描いた十返舎一九の『東海道中膝栗毛』にも、そんな場面が多く出ていた

 ▼例えば「三島宿のおふざけ」の段。白い手拭いをかぶると粋な男に見えると言って喜多さんがほっかむりをする。女たちから注目を浴びたと大喜びだ。弥次さんがあきれて指摘する。「おまえがかぶってるのはふんどしだよ」。道理で女たちが笑うわけである。そこで一九はこんな一首を挟む。「手ぬぐひとおもふてかぶるふんどしはさてこそ恥をさらしなりけり」。蛇足と知りつつ記すが、恥と布を「さらし」に掛けている。とはいえ旅の恥はかき捨て。こんな失敗が楽しいのも旅ならではである

 ▼政府の観光支援事業「Go To トラベル」が来年1月にも再開されることが決まったらしい。ワクチン接種や陰性の証明などが利用の前提になるものの、コロナ禍から解放され久々に羽を伸ばせる旅だ。さぞ楽しかろう。再開後は1人1泊当たり、旅行代金が割引率30%で上限1万円、クーポンが平日3000円など。高級旅館に人気が集中した前回の反省を踏まえ、苦境に立つ中小の旅館に客が流れる仕組みに変えたそうだ

 ▼既に独自の観光支援を始めている自治体も多い。試みに道内温泉地の予約状況を確認してみると、しばらく先まで週末はほぼ満室だった。皆出掛けたくてうずうずしていたのだろう。大勢がマスクなしで大騒ぎする旅はいただけないが、弥次喜多のような少人数の旅ならそう密にもなるまい。


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