コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin

獅子身中の虫

2022年08月06日 09時00分

 宣言や協約など重要な取り決めを記した文書の冒頭には、たいてい最も基本となる大切な理念が置かれている。ちなみに〈国際連合憲章〉の第1章第1条1はこんな一文から始まっていた

 ▼「国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのために有効な集団的措置をとる」。その措置も国際法に則った平和的手段であることが求められる。この任務に主要な役割を果たすのが安全保障理事会。中でも「拒否権」を有する米国、フランス、英国、ロシア、中国の常任理事国5カ国の責任は重い。ただ現在の世界が不幸なのは、これら5カ国のうちのロシアと中国が率先して国際秩序を破壊していることである

 ▼ロシアのウクライナ侵攻に続き、今度は中国が実質的な台湾封鎖の暴挙に出た。「重要軍事演習」との体裁を整えてはいるものの、台湾を取り囲むように6カ所の海空域を設定し、4日に合計11発もの弾道ミサイルを撃ち込んだ。しかもそのうち5発は日本の排他的経済水域内に撃ち込んでいる。過去に例がない事態という。まかり間違えば日本人の生命や財産が失われていた。中国軍は全て正確に着弾したと発表。つまり最初から狙って実行したのである。世界平和に責任のある国のすることではない

 ▼ロシアや中国は右手で都合の悪い制裁に拒否権を発動し、左手で気に入らない国を殴りつける。国連という獅子の身中に住む虫だろう。先の大戦が終わってもうすぐ77年。世界平和を希求した国連の屋台骨が揺らいでいる。


5類

2022年08月05日 09時00分

 英作家J・K・ローリングさんのファンタジー小説『ハリー・ポッター』では、波瀾(はらん)万丈な魔法学校の毎日や仲間との冒険が描かれる。シリーズ化された映画の大ファンという人も少なくないのでないか

 ▼見どころの一つは魔法界の支配をたくらむ闇の魔法使い「ヴォルデモート卿」と主人公ハリーとの因縁の戦いである。多くの魔法使いはあまりの恐怖から卿を「名前を言ってはいけないあの人」と呼ぶ。ヴォルデモートの名を口にしただけで、ひどい災いが身に降りかかるような気がするのだろう。ところで新型コロナウイルスを巡っても、恐怖からか、高度な政治判断からか、名前を呼ぶのを殊更に避けているものがあるようだ。感染症法上の分類の「5類」である

 ▼政府新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志が2日、第7波への対応として感染者の全数把握の段階的見直しや一般医療施設での受け入れを提言。5類への引き下げに見えるが、その言葉は使われなかった。日本感染症学会など医療4学会も連名で同日、症状が軽い場合は慌てて検査や受診をする必要はないとの声明を発表。ところが、やはり5類の文言はない。感染者と濃厚接触者を全数把握し隔離する現行の2類相当の運用が、現実にそぐわないとの内容なのにである

 ▼すっかり「名前を言ってはいけないあの類」になっているようだ。それもこれも政府が呪文のごとく、「今は見直しの時期ではない」と繰り返しているからだろう。国民にとって決断の先送りしかできない政府ほど怖いものはない。


安倍元首相の国葬

2022年08月04日 09時00分

 最近読んだ『座右の寓話』(戸田智弘、ディスカヴァー携書)に「二人の商人」という一節があった。困難を乗り越えて仕事に挑む喜びを伝える話である。大要はこうだ

 ▼二人の商人が夏の暑い盛りに重い荷物を背負って峠を上っている。途中の休憩場所で一人の商人が嘆く。「この山がもう少し低いといい」。するともう一人が言う。「私はこの碓氷の山が、もっともっと、いや十倍も高くなってくれたら有難い」。そうなれば自分は誰も行けない山の彼方まで行き、思う存分商売をするというのだ。ある種の開拓者魂である。商売に限らず、どの世界にも進んで困難に立ち向かっていく人がいる。政治家では安倍晋三元首相がその一人だったのでないか

 ▼このところ「国葬に賛成だ」、「いや断固反対だ」との議論がかまびすしい。国家に特段の功労があった人物が国葬の対象なら、首相在職期間が憲政史上最長となり、地球儀を俯瞰(ふかん)する外交で訪問国が歴代最多となった実績は十分それに値しよう。史上最長は選挙に勝ち続けたからこそ。外交成果も目覚ましい。2日に台湾を電撃訪問したペロシ米下院議長が強調した「自由で開かれたインド太平洋戦略」も安倍氏が提唱したものだ

 ▼国葬で「神格化」を懸念する声もあるが、徳川家康のように安倍東照宮が建つわけではない。「弔意の強制」も、昭和天皇の大喪の礼でのビデオ店の繁盛を思えば考えすぎ。国民の精神は自由で柔軟だ。国葬の費用は2億円超。国会は空転しても経費が1日3億円かかる。税金の無駄遣いとの批判も当たるまい。


最低賃金引き上げ

2022年08月03日 09時00分

 市場で繰り広げられる激しいシェア争いを表す言葉に「パイの奪い合い」がある。焼き菓子のパイは昔ながらの丸形を思い浮かべた方がイメージをつかみやすかろう。「源氏パイ」(三立製菓)のようなハート型では話が分かりにくい

▼その丸いパイを切り分けるとき、大きなピースを手にした者が勝ちというわけだ。例えば一つのパイを10社で分け合う場合、1社が5割を確保したら残りを9社で分けることになる。パイ、つまりは市場規模が十分に大きければいいが、小さいと市場から落ちこぼれる会社も出てこよう。業界全体の発展のためには市場規模を拡大する工夫も必要になる。ところで今はもっと身近なところに、このパイの奪い合いと似た現象が見られる。会社の賃金がそれだ

▼厚生労働相の諮問機関、中央最低賃金審議会が1日、2022年度の最低賃金を全国平均で31円引き上げることを決めた。物価上昇に見合った賃金見直しは社会的要請とはいえ、余裕で上げられる会社はそう多くあるまい。経済が成長を続け、企業業績も伸びている状況ならどこからも異論は出ないだろう。ただ、今は売り上げのパイを年々縮ませている会社も少なくない。コストを吸収できる内部留保をどっさり抱える大手ばかりではないのである

▼最低賃金を上げた結果、熟練の技や経験を持つ社員と新入社員の給与差がなくなる会社も出ていると聞く。縮んだパイを分け合うのだから当然だ。それでは全体の士気も下がる。政府には経済成長と社会負担の軽減に本腰を入れてもらいたい。民間に強いるだけでなく。


道の巨大地震被害想定

2022年08月02日 09時00分

 釧路の夏の名物といえば、間違いなく海霧もその一つである。『放浪記』などで知られる小説家の林芙美子も釧路を訪れたとき、やはり霧の出迎えを受けたようだ。随筆「摩周湖紀行―北海道の旅より―」にこう記していた

 ▼「釧路へ着いたのが八時頃で、駅を出ると、外国の港へでも降りたように潮霧(ガス)がたちこめていた。雨と潮霧で私のメガネはたちまちくもってしまう」。海霧は濃く、近い所も見えない。旅情はあるものの不便もある。当方も釧路に住んでいたころ、見通しの悪さにはずいぶんと悩まされた。海霧は釧路沖で暖流と寒流がぶつかって発生し、夏の南風に乗って押し寄せてくる。釧路市街地が沿岸低地に集中しているせいでやすやすと侵入してくるのだ

 ▼こちらもそんな地形的側面が大きく影響しているのだろう。道が28日、初めて公表した巨大地震の市町村別被害想定で、津波による死者数が最も多いとされたのは釧路市の8万4000人だった。人口約16万人のおよそ半分に当たる。日本海溝と千島海溝沿いを震源とする巨大地震の被害想定を〈夏・昼〉〈冬・夕〉〈冬・深夜〉の3条件で推計したそうだ。道内の死者数は最大で14万9000人。活動人口が多く避難は遅くなりがちな〈冬・夕〉の場合だった

 ▼市町村で死者数が2番目に多い4万人の苫小牧市も、やはり霧の街。地形的側面はいかんともしがたいが、早期避難や津波避難ビルなどの整備で最大9割の被害を減らせるというから、心して備えたい。冬には霧が出ないため、避難の邪魔にならないことは幸いである。


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