コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin

現代のゲオルギウス

2022年05月23日 09時00分

 英ジャーナリスト、ダグラス・マレー氏の著書『大衆の狂気』(徳間書店)に、現代社会を読み解く鍵になりそうな言葉を教えられた。「隠居後の聖ゲオルギウス」である

 ▼元になっているのはこんな話だ。ドラゴン退治では右に出る者なしの大勇者ゲオルギウスは最強のドラゴンを倒した後、もう存在しない敵を求めて荒野をさまよい歩き、ついにはかすみに向かってまで剣を振り回すようになったというのである。今の社会も同じで、例えば問題が持ち上がったとき、最初の情報が誤認だったと判明したり解決したりした後も、しつこくあらぬ炎上の種を探そうとする者たちがいる。テレビや新聞といったマスメディア。それが現代のゲオルギウスだろう

 ▼2011年の福島第1原子力発電所事故で被ばくした人は「子孫に遺伝的な影響が起こる」と誤解している人が4割に上る。環境省が初めて実施した全国調査でそんな実態が明らかになったそうだ。10年以上たつのにこの認識。もちろん遺伝の事実はない。科学的に裏付けられた数々の論文やデータにはほとんど触れず、影響があるかのように被ばくの恐怖をあおり続けてきたマスメディアの責任が問われよう

 ▼国連科学委員会も日本を代表する科学者団体も早くから繰り返し福島原発事故による放射線被ばくの健康影響はないと明言してきた。最近も福島医大が11―20年度に実施した妊産婦調査で放射線の影響はないとの結果を発表している。現代のゲオルギウスも、かすみに向かって剣を振り回すのをやめた方がいい。そこにドラゴンはいないのだ。


キラキラネーム

2022年05月20日 09時00分

小説家の井上荒野さんは年に2回ほど、「プロではない人の小説」を読む機会があるそうだ。文学賞の選考などだろう。そこでいつも残念に思うのは「タイトルが下手すぎる」こと。エッセイに記していた

 ▼下手にも2種類ある、と荒野さんは例えを出す。一つは「本棚」のように全く工夫のないもの。もう一つが「蒼白のアンフィニ、または円周率と愛の相似点」のように、こだわりと頑張りが過剰なものだという。精魂込めて書いた作品にこだわりのタイトルを付けたい気持ちは分かるが、「いいでしょいいでしょ、これカッコイイでしょ文学的でしょ」の意識が透けて見えて逆にかっこ悪いというのである。これは人の名前にも通じると荒野さんは指摘する。いわゆる〝キラキラネーム〟も「あきらかにがんばりすぎ」

 ▼そんながんばりがエスカレートするキラキラネームに一定の基準を設けようと、法制審議会が検討を進めている。戸籍法部会が先頃、戸籍の氏名の読み仮名についての中間試案をまとめた。漢字本来の読みにはない独自の読み仮名を、どの程度認めるかが焦点である。今のところ、公序良俗に反しない、意味との関連、正当な理由―といった点が目安になりそうだ。それでいくと「光宙(ぴかちゅう)」や「大空(すかい)」は認められる公算が大きいという

 ▼実は荒野(あれの)さんも筆名でなく本名。父親が張り切って命名したのだとか。その結果、「何をがんばるより先に名前と張り合ってがんばらねば」ならなかったらしい。さもありなん。キラキラもほどほどがよろしかろう。


電力需給注意報

2022年05月19日 09時00分

 菅義偉前首相は官房長官を務めていた2020年6月、豪雨による洪水被害防止のため発電や農業用ダムにも洪水調整機能を持たせる大胆な行政改革を実施した

 ▼そんな当たり前の決定に「大胆」の文言は大げさと感じるかもしれない。ところがそれまではそんな当たり前のことも、縦割り行政の弊害で実現できていなかったのである。各ダムを所管する省庁が、目的外利用は断じて認めないと言い張っていたわけだ。国内のダムを一元管理し、うまく活用すれば洪水被害を減らせることは誰にでも分かる。ただ、所管省庁としては何かあったときに責任を取りたくない。いつものお役所体質である。結局、住民への注意を強めるだけで、活用は長く棚上げにされてきた

 ▼経済産業省が17日、電力需給が逼迫(ひっぱく)する可能性がある場合、家庭や企業に節電を呼び掛ける「注意報」を出す方針を固めたとの報を聞き、菅氏の仕事を思い出した次第。注意もいいが、国として先にやるべきことがあるのでないか。ロシアのウクライナ侵略で石油やLNGを巡る世界の構図は様変わりした。調達は今後難しく高価になる一方だろう。今のままでは電力事情の悪化は避けられない。それなのに石炭火力発電所は廃止が相次ぎ、能力のある原子力発電所はほとんどが止まったままだ

 ▼既存設備をうまく活用すれば、電力需給の逼迫など起こらないことは誰にでも分かるのにである。電力も対策として下流に注意を求めるより、上流を万全にした方が効果は高い。経産省も政治家もいつまでお役所仕事をしているのか。


悲しい結末

2022年05月17日 09時00分

 いつの時代でも子を大切に思う親の気持ちは変わらない。平安時代の歌人紀貫之が赴任地の土佐から京へ帰る55日間の出来事をつづった「土佐日記」にも、子どもへの深い愛情を感じさせられるこんな一首があった。「世の中に思ひやれども子を恋ふる思ひにまさる思ひなきかな」

 ▼世の中をぐるりと見渡してみても、親が子を恋い慕う思い以上に強い気持ちは見当たらないというのだろう。真っ直ぐな心情が伝わる。近代では早世の詩人中原中也の「また来ん春……」を思い出す。冒頭から二節を引く。「また来ん春と人は云う しかし私は辛いのだ 春が来たつて何になろ あの子が返つて来るぢやない/おもへば今年の五月には おまへを抱いて動物園 象を見せても猫(にやあ)といい 鳥を見せても猫(にやあ)だつた」

 ▼紀貫之と中原中也、全く別の時代を生きたこの二人だが、共通しているのは幼いわが子を亡くしていることである。先の歌も詩も悲しみに身もだえしながら生まれた作品なのだった。親ならわが子の死など認めたくないに決まっている。だが、こちらの結末も残酷なものだった。山梨県道志村の沢で発見された骨が、3年前に付近のキャンプ場から行方不明になった小倉美咲さんの一部だと明らかになったのである

 ▼山梨県警が4日に見つかった肩甲骨を鑑定したところ、DNAの型が一致。美咲さんは死亡したと判断した。亡くなった経緯は分からないが、いずれにせよご両親は今、身を切り裂かれる思いに違いない。無事に家へ帰ってくる日をどれだけ待ち続けていたことか。


生命は宇宙から?

2022年05月16日 09時00分

 チミン、アデニン、グアニン、シトシン。栄養ドリンクの成分表示に記されているような単語だが、聞き覚えのある人も多いのでないか。生命の遺伝情報が書き込まれたDNAを構成する4種類の核酸塩基の名前である。高校の生物の授業で、最初に暗記させられたのがこれだった

 ▼地球上に存在する多種多様かつ複雑な生命体の全てが、たった4種類の核酸の情報を基に組み立てられている事実に驚いたものである。生物学者の福岡伸一青山学院大教授が『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)で、謎を秘めたDNAをジグソーパズルに例えていた。ジグソーはピースの形状が全部違うため、絵柄が分からなくても凸凹を合わせていけば完成させられる。DNAも同じで、違う形を持つ核酸が自然と一定の情報に組み上がるのだという

 ▼そのDNAと、やはり遺伝情報を持つRNAを構成する塩基合わせて5種類が、隕石から検出されたそうだ。生命の宇宙起源説を裏付ける有力な材料になるかもしれない。発見したのは北大低温科学研究所の大場康弘准教授らのグループ。先月27日に発表した。これまで数種の塩基が見つかる例はあったものの、遺伝機能発現に必要な全ての塩基が一つの隕石から検出されたのは世界初らしい

 ▼生命はこの惑星の元素がさまざまに化学変化した結果生まれた純地球産か、外から持ち込まれた基本素材を地球が育てた宇宙産かで議論が分かれていた。これで答えが出たとはいえないが、〈地球生命の起源〉というジグソーパズルの主要ピースがパチリとはまった感もある。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • web企画
  • 古垣建設
  • オノデラ

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

みずほ銀が函館支店を閉鎖へ 札幌支店と統合
2022年05月09日 (14,064)
国道276号千歳市美笛で岩盤崩壊、通行止め
2022年04月20日 (7,482)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (2,956)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (2,524)
旭川東神楽道路新設5.5km完成 旭川建管
2022年03月28日 (2,186)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓 new

おとなの養生訓
第231回「運動不足の危険性」。将来の死亡リスクが高まります。運動を習慣化するよう心掛けを。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第20回「いつもの小掃除」。一人一人に合った方法を見つけるのがストレスフリーな掃除の第一歩です。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第19回「気になる販売員の対応」会社や商品を愛している従業員による接客で、顧客満足度の向上を。

連載 掘削が拓く未来
日本初の専門学校

掘削が拓く未来 日本初の専門学校
白糠町内の同校で指導に当たる3人の講師の意気込みを紹介する。