コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin

不正請求でノルマ達成

2023年07月21日 09時00分

 子どものころに隠れて悪いことをしていると、親に「お天道様が見ている」と諭された人もいるのでないか。誰も見ていない所でこそ自分を律して生きることの尊さを教える言葉である。日本人には親しみ深い考え方だろう

 ▼NHKの人間ドキュメント『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、潜水士の渋谷正信さんが以前こう語っていた。「誰も見てるわけないんですよ、でも、それをやれる自分が誇りなんです」。土木工事の下準備で海底をならしたり、重機を操ったり。重要な仕事だが水中での作業のため、ほとんどの人の目には入らない。知られなくとも、褒められなくとも、「自分たちでないとできない」仕事を任せられたときにやりがいを感じると渋谷さんは言うのである

 ▼中古車販売大手「ビッグモーター」にも同じ気概があれば、今回の問題は起きなかったろう。売り上げを伸ばすために、長年にわたり組織的に自動車保険の不正請求を繰り返していたそうだ。顧客に見つからないようこっそりと。手口はこうだ。修理の依頼を受けると車を別の場所に運び、故意に損傷を増やして損保会社に保険金を水増し請求する。靴下にゴルフボールを入れてたたきつけたり、ドライバーで引っかいたりしたというのだから荒っぽい

 ▼従業員には重いノルマが課せられ、それを達成する不正請求のノウハウが社内で広く共有されていたらしい。「誰も見てるわけないんですよ、だから、不正がし放題なんです」といったところだろう。会社の信用も、従業員の誇りも地に落ちた。お天道様は見ていたようだ。


自分を棚に上げる中国

2023年07月20日 09時00分

 自分は日頃から平気で人を傷つける言動をとっているのに、ささいなことでも他人から指摘されると烈火のごとく怒り出す人がいる。そういえばと、誰でも一人や二人、身の回りで顔が思い浮かぶ人もいるのでないか

 ▼どこに地雷が埋まっているか分からないのだ。付き合うにはかなり厄介な部類の相手である。ただ「自分を棚に上げる」との慣用句もあるくらいだからめったに見掛けないほど珍しいタイプではない。それが持って生まれた性格なら仕方のないところもあろう。困るのは状況を自分に都合よく操るため、あえてそんなきつい態度を装う人も中にはいることである。何らかの意図を成就するのが目的だから、対象が自分の前にひざまずくまでやめることはない

 ▼人ではないが、中国政府もよくこの手を使う。今回もまた始まったようだ。東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水海洋放出を前に、中国の税関当局が日本からの輸入海産物全てについて、放射線検査を徹底すると決めたのである。海産物は鮮度が命。検査に時間がかかっては輸出もままならない。無理して輸出する必要はないとも思うが商売が立ち行かなくなる人もいるのだろう

 ▼そもそも中国の原発が福島の6・5倍ものトリチウムを海に放出しているのは周知の事実。1996年まで地上を含め46回も核実験を実施していた。そんな国が国際基準に照らして安全な処理水に難癖を付けているのである。中国の覇権主義と向き合う日本をけん制する狙いのようだが、自分を棚に上げて拳を振り上げる姿は滑稽というほかない。


全米映画俳優組合のストライキ

2023年07月19日 09時00分

 公共交通機関を最もよく利用する20代の半ばごろまで国鉄があったため、度々起こるストライキには慣れたものだった。今の若い人には信じられない話だろうが、鉄道もバスも完全に運行が止まるのである

 ▼移動の手段を持たない人や私鉄の少ない地方にこれはつらい。とはいえ事実上の恒例行事のため、受け止めとしてはいわば自然災害。不便で迷惑と思いながらも通り過ぎていくのを待つだけといった感があった。働く人が一枚岩になって賃金や待遇の改善を実現させる運動だから批判もしずらい。国鉄に限らず多くの業種で大規模なストが行われていた時代である。人ごとではなかった。ただ、それも度が過ぎ、社会機能が頻繁にまひするようになると人々の心も離れていく。日本で今、ストは数えるほどしかない

 ▼米ハリウッドの俳優ら約16万人で結成する全米映画俳優組合がストに入ったとの報を聞き、かつての日本を懐かしくもうんざりと思い出した次第。米映画界だけに、世界を巻き込む闘いになる。組合側は動画配信に対応した報酬制度の見直しや、人工知能(AI)を悪用した人的能力搾取の防止を訴えているという。うなずける話だ。優れた俳優が育たねば面白い映画も見られなくなる

 ▼日本の芸能界でもジャニーズ事務所創業者をはじめとする性加害や暴力事案、一方的な条件押しつけが相次ぐ。一枚岩になれる仕組みがないゆえに、演者側は弱い立場のままだ。ストを歓迎はしないが、やむをえない場合もあろう。ハリウッドでも最後の頼りは一人のヒーローでなく働く人の団結である。


冷やしラーメン

2023年07月18日 09時00分

 そろそろ毎年恒例の熱い論争が繰り広げられる時期でないか。ざっくりまとめるとこんなやり取りになろう。「ベル食品」(札幌)が一番口に合う。いや、うちは子どものころから「ミツカン」(愛知)一筋だった。何を言うか、「西山製麺」(札幌)が最もおいしいに決まっているだろう―

 ▼北海道民には説明するまでもあるまい。家で作る冷やしラーメンにどのスープを使うかという、主張のぶつかり合いである。メーカーによってすっぱ味が強かったり少し甘めだったり、はたまたごま油の風味を前面に出したりと個性が違う。自分の好きなスープを食べればいいだけの話なのだが、スーパーなどで別の商品をかごに入れている人を見ると、「え、それなの」と思ってしまったりするのである

 ▼今月に入ってから25度を超える日が続く。こうなるとやはり食べたくなるのは冷たいものだ。冷水でキリリと締めた麺にスープを惜しげもなくかけ、ずるずると一気にすする冷やしラーメンのうまさといったらない。細切りキュウリに紅しょうがと錦糸卵、もし冷蔵庫にあれば焼豚かハムも乗せれば彩りがきれいな上に栄養も十分。炭水化物とタンパク質はもちろん、野菜もとれる意外と優秀な食べ物なのである

 ▼ちなみに本道でいう冷やしラーメンを、本州では冷やし中華と呼ぶそうだ。実際、先の3種類のうち、ミツカンだけはラベルに中華と表記されている。いずれにせよ厳しい暑さはまだしばらく続く。食欲が出ない日もあろう。夏バテを避けるには何よりも体力。しっかり腹に入れて夏を乗り切りたい。


AI育ち

2023年07月14日 09時00分

 近頃あまり聞かなくなったが、甘やかされて育った人を「温室育ち」と言ったりする。快適な環境で苦労知らずの日々。面倒な諸事雑事は周りが全て先回りして片付けてくれるため、必要な生活習慣や常識が身につかないまま大人になってしまうのである

 ▼それが未来にはこうなるのではと考えさせられる小説が星新一にあった。子どもの時にイヤリングをつけられ、そこから出る指示に従いながら一生を過ごすのだ。題名は「はい」。起きる時間から仕事の仕方、結婚や子どもをつくる時期、果てはいつ休むかまで指示が飛ぶ。この時代では皆、「はい」と答えて無事人生を終えるのである。悩むことも過ちを犯すこともない。指示を出すのはコンピューター。今でいうAI(人工知能)だろう

 ▼「進研ゼミ」で知られるベネッセコーポレーションが12日、子どもの夏休み自由研究に使える生成AIサービスを無料で始めると聞き、その話を思い出した。研究のテーマや進め方について相談に乗ってくれるという。テーマの選定に毎度苦しんだ世代としては、楽しく頭を悩ませる機会を奪うのではと心配したり、少しうらやましく思ったり。安易に使われないよう保護者の立ち会いを求めるというが、どこまで守られるのか

 ▼知力が鍛えられるさなかの子ども時代にどこまでAIと関わらせるべきかは、もっと議論があっていいと思うのだが、どうだろう。先の主人公は言う。「万一、この声がとぎれでもしたらと思うと、おれは恐怖を感じた」。温室育ちならぬAI育ちが将来に禍根を残すようではいけない。


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