年度内に管設置し融雪利用
北海道総合研究機構は、当別町太美地区で高温の帯水層を使った地中採熱システムの研究を進めている。年度内に複数本の採熱管を地中に設置して融雪に利用する計画だ。長期的に地区内の住宅や施設が個々に採熱するような面的モデルを検討している。地中採熱によるヒートポンプは、化石燃料の使用に比べてCO₂排出を大きく減らせる利点がある。
研究の要になるのが、太美地区の深度およそ50mから100m以降で流れる地下水の帯水層だ。これを「天然の熱導管」に見立てて熱源として活用する。太美特有の高い地中温度(地温)と地下水温がポイントだ。通常、地温は地上の年平均気温にほぼ等しく地下水温もそれにおおむね近い。北海道では10度程度だ。一方、太美では独特の地形条件から地下水温が22度前後と高い。道総研エネルギー・環境・地質研究所の白土博康研究主任は「地中採熱の有望地だ。道内で類例はほとんどない」と話す。
高温の帯水層を生かすために採用したのが間接熱交換方式のヒートクラスター(HC)方式と呼ばれる技術だ。井戸水の中にU字形の採熱管を通し、管内の不凍液を介して地中熱を地上に運ぶ。熱はヒートポンプで濃縮して融雪や暖房に利用する。
HC方式の利点の1つは採熱効率の高さだ。ボアホール方式という一般的な地中採熱法は、管を地中に埋め、土から伝わる熱を集めるため効率が良くない。一方、HC方式は水から熱を集めるため高効率で、採熱量当たりのコストを3分の1にできるという。
もう1つの大きな利点はCO₂削減効果だ。高温の帯水層を有する太美地区でのHC方式ヒートポンプは、重油ボイラと比べ、同量のエネルギーを得るために排出されるCO₂を56%減らせると試算する。ボアホール方式と比べても削減効果は高い。
課題は導入コストの高さ。地下水をためる井戸ケーシングや管の設置には、深さ100mの井戸1本に付き数百万円かかる。ボアホール方式と比べても5割ほど高くなるという。
採熱後に温度の下がった井戸水は、ポンプで地上の雨水桝などに流して帯水層から新たに水を引き込む。このため、地下水位は多少低下するが、仮に太美地区の全住宅の暖房に必要な井戸100本以上を掘ったとしても低下は1mに満たない程度で大きな問題はないという。住民への説明と理解に配慮しながら水位を観察して研究を進める。
2020年に1本目の採熱管を西当別コミュニティーセンターに埋設し、検証中。22年度は地区内でさらに数本の井戸を掘って設備を置き、融雪対策で活用する計画だ。
長期的には、住宅や公共施設などさまざまな施設が採熱する面的利用モデルを構想。技術普及に向け、集合住宅で熱を各戸供給するモデルも検討中だ。導入マニュアル作成などを通じて普及を促す。
道総研と当別町は19年、再生可能エネルギーの供給拡大や省エネ技術の社会実装に関する協定を結んだ。研究はこの一環で、他に木質バイオマスボイラの供給網構築の取り組みも進んでいる。脱炭素につながる技術の研究進展に期待がかかる。