外国人材活用へ 同友会札幌国際ビジネス研究会から

2019年06月21日 12時00分

 4月の入管法改正を契機に、道内企業で外国人労働者の活用に関心が高まっている。採用を検討し始める中小企業の動きも活発で、北海道中小企業家同友会札幌支部の国際ビジネス研究会はこのほど、「外国人材受け入れ手続きと実態」をテーマとして行政書士らを講師に招き、受け入れ関連の制度や手続きに関して知識を深めた。報告やパネル討論の概要を、2回に分けて紹介する。(経済産業部・小山内 未央)

(北海道建設新聞2019年6月20日付、同21日付の3面より。Web掲載にあたり1本の記事に再構成しています。)

■法改正で「特定技能」に注目

新在留資格制度の特定技能など学んだ

 冒頭、コーディネーターを務めた鈴木一嗣弁護士は「外国人労働者の在留資格は行政書士が扱うケースが多い」とし、行政書士の木田晶子氏と残間渉氏に、在留資格制度や入管法改正の目玉で創設された『特定技能』について解説を求めた。

 木田氏は、入国管理局の定める在留資格は33種類で、外国人1人につき1つの資格が与えられると説明。資格によっては就労が認められていない制限があることも伝えた。

 通常の外国人の雇用手続きは入国管理局に『在留資格認定証明書交付申請書』を提出し、審査を経て入国する流れとなる。留学生を採用する場合は資格の変更許可が必要だが、これは新たな在留カードを受け取ってから就労が可能となる点を強調し、「大学卒業後の4月採用とするなら2月ごろから手続きを」と伝えた。

 紹介などで外国人の受け入れを検討する際は、「在留カードの確認が重要」と指摘。資格の種類や期間の記載があり、就労可能かを確認できるが、最近はカードの偽造が増えていると注意を呼び掛けた。

 続いて残間氏は、特定技能の1号が在留期間は上限5年、2号が在留期間の上限がなく家族の帯同が可能などと解説。技能実習2号を修了している場合、特定技能1号の技能評価・日本語試験が免除となる点も伝えた。ただ、2号は14業種のうち「建設」と「造船・船用工業」のみ2021年から技能評価試験を実施する予定で、直近は1号のみ申請できる現状を挙げた。

 申請に当たっては、外国人支援計画書が必要となる点をポイントと指摘。「出入国時の送迎や住居確保などで手厚い支援が求められる」とする一方、これに伴い登録支援機関が発足し、計画の全てか一部が委託可能であると述べた。

 続くパネル討論では、鈴木氏が道内中小企業が外国人材を呼び入れるために有効な方法を木田氏に質問した。

 木田氏は、ワーキングホリデーを活用して継続的に雇用する企業もあるとし、1次産業ブームの台湾からは十勝の農場での従事が多いほか、「ニセコのベッドメイキング企業では外国人も大きな戦力になっている」と説明。ただ、在留期間が1年に加え、資格変更は国によって可能かどうかが異なるという面を伝えた。

 続いて、残間氏に特定技能の試験時期について質問。残間氏は各分野ごとに随時発表・開催しているとし、6月に札幌も含む都市で外食分野が開催する予定を示した。

 最後に、技能実習などでベトナム人を受け入れているカワテックス(本社・砂川)の河戸三千之社長に、入管法改正の新制度を踏まえた外国人の受け入れに対する見通しを尋ねた。

 河戸社長は、特定技能は同一業種で転職が可能なため、「企業としては(同一企業で実施する)技能実習の方がありがたい面がある」と意見。今後は技能実習を修了してから、特定技能に移行する流れがしばらく続くのではと予測した。

■カワテックスが実践報告

外国人材の魅力などを伝える河戸社長(左)と岸下副長

 カワテックスは、技能実習などを活用してベトナム人を受け入れている。北海道中小企業家同友会札幌支部の国際ビジネス研究会で、同社の河戸三千之社長と人事を所管する管理部・業務課の岸下竜二副長が、それぞれの立場で外国人材の受け入れを通じて感じた魅力や、対応に関する課題などを紹介した。

 タンク・プラントの設計・製造などを手掛ける同社は、2014年にベトナムに合弁企業を設立したことがきっかけに、ベトナム人の受け入れを始めた。

 河戸社長は18年の在留資格者は約263万人、このうち技能実習生は約29万人に上ると説明。一方、法務省による技能実習生の失踪者数は14年で約4800人、その後は受け入れ増加に伴い、17年で約7000人、18年で約9000人と増えている。最低賃金違反、時間外労働などの割増賃金不払いといった会社側の要因が多いことを指摘した。

 また、事故などを含む死亡事案に関しては、初期教育が重要と強調。「言葉が分からず、ちょっとした誤りでけがをする可能性がある」と注意を呼び掛けた。外国人との密なコミュニケーションを積極的に図り、事故を未然に防ぐ体制の構築を訴えた。

 続いて岸下副長は、合弁企業設立前に設備や経験豊富な職員が整っている日本で短期滞在ビザを活用して研修を開いたと説明。15年から団体監理型で実習生3人を受け入れ、その後は実習後に原則現地法人に戻る約束の企業単独型で4人、ことし1月には企業内転勤で海外関連会社から1人をそれぞれ受け入れている。

 外国人材を受け入れる魅力に関しては、〝よく働く〟という点を挙げる。在留期限がある中で、お金を稼いで母国に送りたいという意思が強く、「休日も寝ているより働いて稼ぎたいと言ってくれる」と明かす。

 稼ぎたいという意思がモチベーションに影響するのか、技術や日本語の上達も早く、「やる気のない日本人より、やる気のある外国人の方が魅力的と思われるのでは」と説く。

 一方で、複数の課題を挙げる。まずは日本語対応の面として、外国人宿舎に行ってみると、容器の形が似ていたアイロンのりと室内用消臭剤、酢と油を間違えて使用していて、「日用品など日本語表記しかない物は見た目で判断するしかない状況にある」と日常生活での対応の難しさを語る。

 さらに、失踪の可能性も指摘。同社は団体監理型の受け入れ時に1人が中途帰国している。実質は中途帰国の申し出を受けて雇用契約解除後、年末近くに実習生を一時帰国させようとした際、韓国で行方が分からなくなった。その後1カ月ほどで名乗り出て来て、最終的には無事ベトナムに帰国したという。

 人材不足の中で外国人材に期待される〝安価な労働力〟の点についても疑問を投げ掛ける。同社の団体監理型による受け入れは、旧法の入管法に基づいた費用の時代だったが、3年間の費用を月額で見ると給料と監理団体への費用合わせて20万円程度。しかし、これに実際は時間外労働や賞与も加わり、さらに数万円増える状況だったと振り返る。

 日本人と同一賃金とするよう基準を厳格化した技能実習法では「監理費なども含めると、本当に日本人より安価なのか」と指摘した。


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