石狩振興局は、製品の売り込みや集客、技術継承に課題を抱える企業と、その解決策を提案するため千歳科学技術大の学生をマッチングさせ、解決策を探る試みを実施した。電気通信工事の光情報通信(本社・札幌)は、後進に配線技術を効率的に伝える手法を求め、学生が動画で工法を覚えるシステムを考案した。「デジタルネイティブ世代」の学生らが実社会で役立つ解決の糸口を探ることで、学生・企業の双方により多くの実りをもたらした。産学官が集積する石狩管内の強みを生かした取り組みは、地域の課題解消の突破口になりそうだ。
プロジェクトは2022年10月頃からスタート。同大の3年生7チーム、22人が課題解決に挑み、12日までにプレゼンした。
アーキビジョン21(本社・千歳)はスマートモデューロ活用策を求め、谷川企画クリアデザイン(同・恵庭)は千歳水族館の誘客を提案。光情報通信が少ない人員の中で、効率的な技術伝達手法と、学生向け会社ホームページリニューアル案について解決を求めた。
同社の要請に対し、電子光工学科の3年生、及川怜聖さん、吉原俊介さん、近藤怜さんのチームは、研修段階にある新入社員と現場作業の架け橋となることをコンセプトに知恵を絞った。覚えた知識を現場で使う際にイメージしやすいように動画システムを考案した。
まずはベテラン社員の頭部に360度カメラを装着。撮影した動画は自由に視点移動しながら見返せるため、周囲の状況も把握しながら作業を習得できる仕組みだ。
中間発表でコスト面を指摘されたことから、機器を比較的安価なinsta360X3(税込み6万8000円)に絞り、手元で知恵の輪を解く様子=QRコード①=やドローンによる上空からの撮影をし=QRコード②、ユーチューブに動画をアップロードした。最終報告では、企業で導入する際も撮影した動画をユーチューブにアップロードすれば、動画の視点を移動させることができ、コメント欄では社員同士が気軽に質問し合える環境がつくれるとした。
建設業での省力化は進んでいるものの、現場では人の操作や技術による作業が大部分を占める。ベテランから若手に対し、効率良く技術を継承できるかは企業寿命に直結する重要テーマ。同社の南部賢社長は学生の発想に感心した。
ホームページのリニューアルについては、規模が同程度の中小企業120社と、頻繁に新卒採用をする大企業30社の採用ページを比較分析した。結果、大企業では「あいさつ」「社員紹介」「会社の取り組み」などを掲載している割合が多いが、中小企業ではまちまちだと指摘。「企業の中を就活生に発信」をコンセプトに、改善モデルを提示した。
石狩振興局商工労働観光課の田中尚主幹は「道主導でこのような取り組みは初めてでないか」と話した。
今回初めて相手企業を知ったと言う学生がほとんどで、地域理解のきっかけにもなった。学生らは「社会に出る前に貴重な経験ができた」「もっと取り組んでいたかった」と大きなものを得た様子だった。この協働事業は22年度で終了するが、田中主幹は「引き続き地域就職を後押しする取り組みを続けたい」と展望する。