海外技術者表彰で国交大臣賞 カリブ海東部島国で漁業施設整備に尽くす
岩田地崎建設(本社・札幌)の川合武海外支店長は、国土交通省の海外インフラプロジェクト技術者認定・表彰制度で2022年度国土交通大臣賞を受賞した。選定理由となったカリブ海のアンティグア・バーブーダ国の漁業施設整備では、現場代理人として日本からの資材調達や現地作業員の教育など多くの苦労を乗り越えて完成に導いた。台湾を含め25カ国の工事に関わってきたが「文化や言語の異なる現地の人たちと協力してプロジェクトを完成させることは日本での工事に比べて大きな達成感を得られる」と、海外事業の魅力を語っている。(建設・行政部 大坂力記者)
川合支店長は1962年8月生まれの富山県出身。85年4月に地崎工業(当時)入社後、技術者として20年間ほど都市土木の現場を経験したが、07年ごろから台湾での地下鉄工事で現場調査や積算に携わったことから海外事業に深く関わるようになった。
カリブ海東部の島国であるアンティグア・バーブーダ国の案件でも現地調査を担当。無事に受注し、上司から同時期に自身が積算し受注した台湾の地下鉄工事と二者択一し赴任するよう言われた。アンティグア・バーブーダ国バーブーダ島の案件はハードルの高さを感じたが「他の人では大変だろう」と思うとともに、「日本人の10人中10人が知らない国に行けるのは一生のうちでなかなかない。ラテン系の明るい国だし、1年半程度の赴任なら面白そうだ」と判断し、引き受けることにした。
工事は、政府開発援助(ODA)事業として水産物を輸出できるようバーブーダ島に水産複合施設を建設するもので09年度に着工した。
バーブーダ島は人口1500人程度の小さな離島。公用語は英語だが通訳はいなかったため、日本から来た社員らは、現地の作業員とのコミュニケーションに手間取った。しかも現場作業の経験者はほとんどおらず、ヘルメットのかぶり方から手取り足取り根気強く教えたという。
社員らは「私を含め決して英語が得意なわけではなかった」とのことだが、半年もすれば談笑するほど意思疎通ができるように。東日本大震災の発生時には「家や家族は大丈夫なのか」と心配されるほど親しくなった。
日本で調達した資材輸送は現地まで1、2カ月かかるため、いつ届くか計算に入れて工程を考えなくてはならなかった。島内に水道がなく地下水も塩分を含むため、コンクリート工事で使う練り混ぜ水の確保も課題だった。日本から脱塩・淡水化装置を持ち込んで地下水を淡水化し施工に使った。こうした苦労を乗り越えて11年度に竣工した。
バーブーダ島は17年に超巨大ハリケーン「イルマ」が直撃。ほとんどの建物が損壊した中、同社が建設した施設は被害がなく避難拠点や災害復興基地として機能し、高い技術力が実証された。「自分が建設した施設が災害時に活用され、あらためてその品質が評価されたことは技術者冥利(みょうり)に尽きる」と話す。
同社の海外事業はODA事業と台湾でのプロジェクトが主軸だが、ロシアのウクライナ侵攻により世界経済が不安定化し治安・安全面もリスクが増大。「数年先の見通しを立てるのは非常に困難と言わざるを得ない」と明かす。その上で、資源や食料の自給率が極端に低い日本にとって開発途上国や新興国への援助が経済安全保障上でも必要だと指摘する。
「世界中で災害や紛争はなくならないが、その後には生活の基盤となるインフラ整備は絶対に必要となる」と強調。日本も戦後は多額の支援を受けて黒部ダムや東海道新幹線、東名高速・名神高速などのインフラを整備し経済発展した経緯があることから「いま一度、発展途上国支援の意味や必要性を考える時期に来ている」と実感する。
コロナ禍を境に、建設業界全体で海外事業を志望する技術者が減り、どのゼネコンも社員の確保に苦労しているというが「キャリアの中で海外事業を経験することは必ずメリットがあるはず」と断言する。自身は40代後半からだったが、外国語の習得も含め「吸収力がある20、30代のうちに経験しておくと相当スキルアップにつながる」と若手の挑戦を呼び掛けている。