日本とロシアの経済的な接点が増える中、北海道経済産業局と北海道国際交流・協力総合センターがシベリア地域のビジネス環境調査を実施している。シベリアは、日本に近い極東ロシアよりも経済規模が大きい。その代表的な地域の一つ、クラスノヤルスクについて本稿で紹介したい。
(北海道国際交流・協力総合センター研究員 吉村慎司)
整地された広大な敷地を、建設資材を載せたトラックや工事車両が動き回る。一角には既に真新しいマンションが並び、住人が出入りしている。10月中旬、東シベリアにある人口109万人の中核都市クラスノヤルスク市を訪れた。そこでは、環境への優しさをうたうスマートタウンの建設が進んでいた。
事業主体は地元の大手建設企業「モノリットホールディング」だ。計画では43haの敷地に大型マンション22棟を建て、ここで1万6000人が生活する。真冬はマイナス30度を下回る厳寒の地だが、屋内の空気循環、採光の仕組み、さらには建物の配置そのものなどにさまざまな工夫が施され、従来の集合住宅に比べ大幅にエネルギー消費を抑えられるという。
着工は2014年。街全体の完成は23年ごろの見込みだ。ターゲットは若い家族で、エリア内に幼稚園3カ所と学校2校も新設する予定。徒歩圏内に大型ショッピングセンターがある立地の良さも手伝い、募集即完売が続いているという。
実はこのスマートタウンを設計したのは日建設計だ。ロシアでは近年エコ技術への関心が高まっており、日本の技術への関心が強い。モノリットからの発注を受けて日建設計の担当者が同市に通い、12年ごろに設計図を作り上げた。日本の建材を輸入する案もあったが、関係者によれば日本メーカーがあまり反応せず、これは実現していない。
市が位置するクラスノヤルスク地方(日本の「県」に相当)の経済規模はシベリア最大だ。ニッケルやプラチナ、そして石油など鉱物資源に恵まれ、17年の地域内総生産は1兆8000億(3兆円強)と過去最高。80以上あるロシアの地方行政区中9位で、国の経済を支える地域の一つといえる。
住民数も増加傾向にある。ソ連崩壊後20年間減り続けた地方人口は11年の282万人台を底に増加に転じ、現在までに約5万人増えている。旧ソ連建築の建て替えを含めて住宅ニーズが高く、住宅建設は毎年100万m²以上に上る。
クラスノヤルスク市はソ連時代、軍事施設が置かれる閉鎖都市だった歴史もあり、対外交流の経験が比較的浅い。だがその分、19年春に国際学生スポーツ、ユニバーシアードの会場になるなど、近年は国際的なPRに力を入れ始めている。
日本語教育も盛ん。地元トップ校・シベリア連邦大学に日本文化センターがあるほか、「日本との交流を進めるクラスノヤルスク地方の会」という官民団体でも日本語教室を開いている。前者は文化・学術の交流、後者は経済を含む交流全般という違いがあるようだ。
北海道から約3800㌔。海外市場の「穴場」として一見の価値はある。