新幹線駅結ぶ2次交通も重要
■LCC就航相次ぎ旅行スタイル変化
仙台空港の旅客数増加について、SPCの1社として空港運営を担う東急の土田博志交通インフラ事業部インフラ開発グループ統括部長は、「民営化後にLCC就航が相次ぎ、気軽に旅行へ出掛ける人が増えたのではないか」と分析する。若者だけではなく年配の人にも「せっかくだから」と興味を誘う低廉な価格設定が、新たな旅行スタイルを生み出しているとみる。
全国的に増加傾向にあるインバウンドだが、仙台の場合、旅客数の伸びを支えるのは圧倒的なシェアを占める国内線利用者だ。仙台―関西地方を結ぶLCCは便数も純増しているが、「ビジネスを中心とする既存路線とのパイの食い合いにはなっていない。観光や帰省などに気軽にLCCが使われるようになり、飛行機の利用回数自体が増えている」と明かす。
一方で「地方空港の運営を考えると、空港だけが価値向上しても旅客需要が伸びるというわけでない」と述べ、地域が活性化してこそ需要は伸び、空港利用も高まるものだと指摘。空港外の地域からのフィードバックが、さらなる航空需要喚起につながる可能性があるという。
東日本大震災から8年が経過し、東北地方は震災前の水準まで観光客が回復しつつある。「一番の目的は復興。それで初めて空港民営化の効果が実感できる」と話し、交通を通して東北各地に経済を循環させることを最終目標に掲げる。
■仙台空港アクセス鉄道線の増便必要
「少しずつ成長しているが、空港以外の部分も発展させなければならない」。新たな事業展開の必要性を話すのは、仙台国際空港管理部コーポレートグループの更級大介グループ長だ。空港のある名取市から仙台市までを結ぶ仙台空港アクセス鉄道線を例に挙げ、「旅客数が増えているため増便や車両の数を増やす働きかけが必要」と2次交通の重要性に目を向ける。
空港利用者の半数が乗車する同線は、宮城県や仙台市、名取市、岩沼市などが出資する第3セクターの仙台空港鉄道が、仙台空港駅からJR名取駅の約7・1㌔を所管する。名取駅から仙台駅の約10㌔はJR東日本の管轄だが直通のため、普通で25分、快速で17分と、仙台駅まで乗り換えせずに到着できる。
利用者数は開業した2007年度に135万人を記録し、一度、東日本大震災で落ち込むも、復興需要や空港民営化による旅客増の後押しを受けて、17年度は190万人、18年度は202万人と大台を突破した。菅原久吉仙台空港鉄道社長は「利用者の満足度は空港のイメージにつながる」と述べ、空港と2次交通の必要性を説く。
仙台市街と往来する交通の速達性と代替性の確保は最も重要なポイントだ。さらに、30年には北海道新幹線が札幌まで開通し、東日本の主要都市は新幹線網で一つにつながる。
東急の土田統括部長は「マルチモーダル(複合輸送)ハブとして、東京―札幌間のゴールデンルートのゲートウェイになる」ことが今後の課題とみる。仙台から入国したインバウンドが、東北を巡り北海道から帰国するといった、新幹線と航空機を組み合わせた多様な選択肢を観光客に提示することも、航空需要の活発化には必要不可欠だと指摘した。
仙台空港の着実な成長は施設への設備投資だけではなく、新幹線の止まる仙台との連結をスムーズにする2次交通の充実、地方就航や低価格のLCCといった施策を組み合わせ、新たな人の流れをまとめた点にある。
観光のポテンシャルは高い北海道だが主軸の新千歳の容量は限界に近く、地方都市へのアクセス網にも課題が残る。民営化を契機に弱点を克服するハード整備に加え、将来の新幹線延伸も見据えた2次交通網の再構築、道内便や地方便にもLCC就航を加速させるなど、観光のゲートウェイとして選ばれる北海道の空港運営が求められる。
(北海道建設新聞2019年12月10日付1面より)