プラグがかぶった―。バイク乗りであれば誰しも経験があろう。キックのタイミングが合わなかったときなど、エンジン内の混合気が濃くなりエンジンがかからなくなるトラブルである
▼電気式スターターが付いてからはほぼなくなったが、キックの時代はバイクそれぞれに個性があって、慣れない人がキックをしても始動せず、すぐプラグをかぶらせてしまったもの。それを見て持ち主はニヤリとするのが常だった。君みたいな未熟者にこのバイクはまだ扱えないよ―というわけだ。そうして持ち主はおもむろに愛車にまたがり講釈を垂れるのである。「まずキックを軽く踏んでピストンの位置を確かめる。アクセルはこれくらい開けて。力はいらない。床を抜く感じで踏み下ろす」と
▼今月1日に施行された新排出ガス規制の影響で各メーカーが次々と名車の生産終了を決めていると聞き、環境より高出力重視だった古き良き昔のことを思い出した次第。元ライダーの当方も何度汗だくでキックをしたことか…。生産終了になるのはホンダ「モンキー」、ヤマハ「SR400」、カワサキ「エストレヤ250」、スズキ「スカイウェイブ250」など。バイク好きなら姿が目に浮かぶものばかりだろう
▼新基準では排ガスが約半分に規制されたほか、浄化装置の搭載も必須となった。こうなると飾り気のなさが魅力のモデルほど対応が難しい。バイクも電動化の研究が進んでいると聞く。将来「プラグがかぶる」は死語となり、こう言う人が増えるのだろう。「バイクのプラグをコンセントに差し忘れた」。