コラム「透視図」

JR日高線廃止へ

2020年10月27日 09時00分

 世界中の人が当時、祈るような思いで見ていた。南米チリ北部のサンホセ鉱山落盤事故のことである。作業員33人が地下に閉じ込められ、69日後に全員が生還した。事故が発生したのは8月。救出活動が終わったのは10年前の今月だった

 ▼事故発生直後は作業員がどこにいるのかも分からない。しばらくたって地下634mの坑道内で生存していると判明したものの、あまりの深さに一時は生還が絶望視されたものだ。ところがどんな困難を前にしても救出チームは諦めなかった。各国からも技術や知恵、資金が続々届けられた。チームを支えていたのは「一人も見捨てない。全員生きて地上に返す」との強い思いだったそうだ。作業員たちにとってはその思いこそが希望だったろう

 ▼JR日高線鵡川―様似間沿線の7町長が23日、JR北海道が求めていた鉄路廃止に正式同意したとの報に接し、10年前のチリ鉱山での出来事を思い出した。沿線住民の多くもやはり、見捨てず救ってほしいと願い続けていただろう。2015年の高波で厚賀―大狩部間の線路が崩壊して以来、不通になっていた。維持費や復旧費を巡り、運行再開へ向けた協議が暗礁に乗り上げてしまったのである

 ▼JR北の経営難や利用者の減少を考えると廃止やむなしの面はあろう。ただ、ふに落ちないのは国や道がはなから前面に立とうとせず、住民生活を元に戻そうともしていないように見えたことである。「一人も見捨てない」との気概に欠けていたのでないか。この5年、鉄路ばかりか希望も宙ぶらりんにされてきたとすれば悲しい。


妊娠届減少

2020年10月26日 09時00分

 動物が突然の環境変化に対応するため、常識外れの能力を発揮するのにはいつも驚かされる。中には妊娠を一時止める「発生休止」という現象もあるそうだ

 ▼シカやネズミ、アザラシなど哺乳類の一部で、そんな自然の摂理に反するかのような生態が観察されるという。飢餓状態が長く続き授乳できない、気候が子育てに適さないといった過酷な状況に陥ると妊娠をいったん休止。母親の環境が良くなると再開される。根本的な仕組みはまだ詳しく分かっていないらしいが、野生の厳しい生存競争の中で生き残るには必要な能力なのだろう。遠い昔に野生を失った人間には縁のない能力と思っていたが、もしかするとそうでもないのかもしれない

 ▼厚生労働省が全国の妊娠届を緊急調査した結果、ことし4―7月の届け出件数が前年同期比11.4%減になっていたというのである。新型コロナウイルス感染拡大の不安が高まったことで、減った可能性があるという。生物学的でなく社会的に妊娠が抑制されたわけだ。21日の発表によると最も減少幅が大きかったのは5月の17.1%減。件数は4月から一貫して前年を下回っている。目に見えないウイルスと底知れぬ収入減がダブルで襲ってきたのでは、子育てに二の足を踏むのも無理はない。野生の勘が働いたということか

 ▼ただ、昨年90万人を割った出生数が来年は80万人にも届かないとの見方も出ているそうだ。少子高齢社会の日本にとっては泣き面に蜂である。このままでは将来に禍根を残す。一日も早く安心して産み育てられる環境を取り戻さなければ。


街のクマ

2020年10月23日 09時00分

 童謡『森のくまさん』を歌ったことのない人は少ないだろう。人気漫才コンビ千鳥も、必ず笑いをとれるいわゆる〝鉄板ネタ〟の一つに使っていた。誰もが知っているからこそ多くの人に受けるのである

 ▼一番の歌詞はこんなだった。「あるひ/もりのなか/くまさんに/であった/はなさく/もりのみち/くまさんに/であった」。くまさんと女の子の、危機感があるのかないのか分からない緩い交流が妙に楽しい。ただしこれも「森のくまさん」だから歌えるので、街のクマなら口から出るのは悲鳴だけだ。ことしは本州でクマが街に出没する例が増えているという。19日には石川県加賀市のショッピングセンターに一頭が侵入し、地元の猟友会が駆除する事件もあった

 ▼現場はJR加賀温泉駅南口前の商業地区。森からは遠い。午前7時50分ころ、施設内に入ったのが確認され、保護も検討されたが難航したため射殺に至ったという。石川では18日までの3日間で8人がクマに襲われ、けがをしていたそうだ。特に今月に入り被害が深刻化している。1日に新潟、7日に秋田で女性が襲われ、相次いで死亡。18日には長野で男性が重傷を負っている。人身事故は各地で引きも切らない。いずれも人里に下りてきたクマの仕業である

 ▼人間の生活圏拡大で人慣れし、コロナ禍の外出減で大胆になったクマが山の木の実の不作もあって人里へ出てきているらしい。きょうは二十四節気の霜降。クマにとっては食料を得にくい時期に入る。今まで以上に警戒が必要だ。空腹を抱えた街のクマさんは危険極まりない。


知ったかぶり

2020年10月22日 09時00分

 知ったかぶりは自らを窮地に追い込むことがある。苦い経験を持つ人も少なくないのでないか。落語「酢豆腐」に登場する若旦那もその一人だ

 ▼日頃から何でも知っていると自慢してばかりの若旦那を試してやろうと、長屋の職人たちが一計を案ずる。腐った豆腐を舶来の珍味と偽って差し出したのである。職人が言う。「珍しい物らしいが舌が肥えてない俺たちにはもったいない。若旦那なら味が分かるでしょう」。若旦那が顔を寄せると、臭いがツンときて目にも染みる。知らない物とは言いたくない。苦し紛れに「酢豆腐だな」。引っ込みがつかないまま食べはじめ、目を白黒。こちらの人の言動もはたから見るとそれと一緒だが、やはり本人は一向に気にしていない様子なのが面白い

 ▼立憲民主党の原口一博議員が19日に開いた野党合同ヒアリングの話である。民間から政府の「GoTo」事務局に出向している職員の日当が高過ぎると息巻いているのだが、どうやら日当と手取りの違いが分かっていない。業務委託費で日当4万円と積算されていても社会保険などが引かれると手取りはその7―8割。妥当な額である。原口氏の発言を聞くと会社の給与に加え4万円ももらえると勘違いしているようだ。しかも丁寧に説明する女性官僚に、「あなたはコミュニケーションが難しい方だ」と暴言を放つ始末

 ▼原口氏はこの一部始終を「ユーチューブ」に公開している。国の不正を白日の下にさらしたと鼻高々だが知ったかぶりも度を超すと笑い話では済まされない。党に向けられる目も一層厳しくなろう。


不可抗力

2020年10月21日 09時00分

 つい先日、仙台の友人に車で名所旧跡を案内してもらっていた時のことである。小さな商店街で前を走る路線バスが停車したため、こちらも後ろで待っていた。追い越せるほど通りは広くない

 ▼すると中年男性が目の前を小走りに横断しだした。対面方向からは車が来ている。突然の出来事ゆえ当方もなすすべがない。バスの陰から飛び出す形になった男性をかすめるようにして対面の車は走り去った。息が詰まった。もう1秒違えば重大事故は免れなかったろう。横断歩道があるわけでもない。あの車は飛び出した男性を避けられなかったはず。不可抗力である。それを思い出したのは死亡交通事故の裁判で加害者とされた被告のA氏に無罪判決が出たからだ

 ▼事故は昨年4月、東京都渋谷区で起こった。A氏は信号機のない交差点を右折するため手前で一時停止し、徐行しながら進み、再び停止した。右から走ってきたオートバイがそれに驚いて転倒。投げ出された人がA氏の車にぶつかって死亡したのである。A氏は街路樹で視界が遮られるため左右が見える所まで慎重に出た。時速75㌔で走っていたオートバイは気付くのが遅れたらしい。東京地裁は14日、「注意していても回避できたか疑問」と判断したそうだ。やはり不可抗力でないか

 ▼この場合、事故の誘因が街路樹にあったことは疑問の余地がない。実は仙台の現場も緩やかに盛り上がった道の頂点で、先の見通しが悪かった。人が注意すべきは当然だが、道路環境が事故を招く例も多い。一人一人が危険箇所を知り、賢く事故を避けたいものだ。


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