子どものころに隠れて悪いことをしていると、親に「お天道様が見ている」と諭された人もいるのでないか。誰も見ていない所でこそ自分を律して生きることの尊さを教える言葉である。日本人には親しみ深い考え方だろう
▼NHKの人間ドキュメント『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、潜水士の渋谷正信さんが以前こう語っていた。「誰も見てるわけないんですよ、でも、それをやれる自分が誇りなんです」。土木工事の下準備で海底をならしたり、重機を操ったり。重要な仕事だが水中での作業のため、ほとんどの人の目には入らない。知られなくとも、褒められなくとも、「自分たちでないとできない」仕事を任せられたときにやりがいを感じると渋谷さんは言うのである
▼中古車販売大手「ビッグモーター」にも同じ気概があれば、今回の問題は起きなかったろう。売り上げを伸ばすために、長年にわたり組織的に自動車保険の不正請求を繰り返していたそうだ。顧客に見つからないようこっそりと。手口はこうだ。修理の依頼を受けると車を別の場所に運び、故意に損傷を増やして損保会社に保険金を水増し請求する。靴下にゴルフボールを入れてたたきつけたり、ドライバーで引っかいたりしたというのだから荒っぽい
▼従業員には重いノルマが課せられ、それを達成する不正請求のノウハウが社内で広く共有されていたらしい。「誰も見てるわけないんですよ、だから、不正がし放題なんです」といったところだろう。会社の信用も、従業員の誇りも地に落ちた。お天道様は見ていたようだ。